第12話 襲撃イベントだ!やられ役!!

 校長室を出る、そうして一つ息を吐いて、待っていたアラクとセリスが心配そうにしていたので、大丈夫だと笑顔で示してやったら、二人も安堵の息を吐いた。


「注意で済んだわ……あいつ、何も変な事言ってなかったよ」

「それは良かった、これで一応は済んだって話でいいか?」

「本当に良かったです、心配しました」


 2人とも、本当に心配してくれたのが表情から分かる。兎に角この沙汰はやっと終わった……イベントも乗り越えたわけだ、つまり……。


「俺、生き残れたんだなぁ……」

「何だよ、やっぱり怖かったのかよ、退学になるの」


 俺ことギニス・サーペンタインは、死んで退場する筈だったメインストーリー第一章を、色々原作から逸脱した部分こそあれ生存してクリアしたのだと実感した。アラクには退学への恐怖と受け取られたが、確かにそれもあるから否定しなかった。


 丁度窓があって、空気の入れ替えなのか解放されていたのでその窓辺に腕を置いて景色を見ながら、俺はようやく自由になれたやもしれないと、するりと肩の荷が降りた感覚から安息の痺れが体を走る。


「どうしようかなぁこれから……アラク、セリス……これからどうするよ?」

「どうするって?」

「天気いいし気分もいいからさ、授業サボって街へ遊びに行かない?」


 突拍子も無い事が口に出たが、それくらい俺もテンションが上がっているのだ。後はもう、メインストーリーに絡まない様にゆっくりとフェードアウトしてただの貴族として暮らしていけばいいから。


 何しろこの先、俺ことギニスに出番はまず無い、全てが主人公ナルのために回る世界で、俺は脇役だ、俺やセリスにも恨み無しで近寄る雰囲気も無いから余計に安心した。

 

「おいおい、校長室の近くだぞ自重しろよ……今から行くのか?」

「だ、駄目ですよ2人とも、授業はちゃんと受けないと」

「いいじゃんセリス、どうよ?折角だからさ?」


 こんな軽口を叩けるくらいには高揚してしまっている、ろくな事にならない兆候だがもう止まれない。うん休もう、サボって街で遊び呆けてしまおう。色々3年前から準備してやっとここまで来たのだ、祝ってもいいじゃないか。


 そんな事を考えていた数秒後であった、斯様な事を許すと思うのか?そう俺に叩きつけるかのように事は怒った。


 爆音だったーー校舎が、城みたいなファンタジー感マシマシのありきたりな魔法学校の校舎が揺れた。


「きゃああ!?」

「ぬぁああ!!」

「あうっ!?」


 俺を含め3人とも揺れに足を取られて倒れ、窓の近くに居た俺は窓ガラスが割れてそれが降りかかりそうになるが、すぐ転がってなんとか避けれた。


 凄まじい音だった、形容し難い音だった、俺はゆっくり立ち上がり何事かと周囲を見回したが、何があったのかも理解できない。


「セリス、アラク、大丈夫か?怪我は?」

「み、耳がキーンだ、くそっ……なんて言った?」

「大丈夫……けど、今の……すごい魔力の波が来てたけど?」


 アラクは耳鳴りがまだ酷いらしい、セリスは俺の声を聞いて応答ができていた。そして俺はそこまで感じれなかったが、魔力の波を彼女が感じたらしい。つまり、余程の魔法が行使されたと言う事は分かった。


 明らかに頭から抜け落ちていた、ナルとの戦いで忘れ去っていたのをぶん殴られて思い出させられたみたいだ、まだ最後のイベントが残っていたじゃないかと俺はこの爆音と校舎の揺れに何が起こったのか理解する。


「襲撃イベント……」

「今、何か言いましたかギニスくん?」

「あ、いや……」


 メタな呟きが思わず口に出て俺は取り繕う、セリスが聞き直したが、何でもないと首を横に振り立ち上がった。


「兎も角避難しよう……教職員が対応するだろうし……」

「そ、そうだな……とりあえず校外に逃げるか」


 ようやくアラクは耳鳴りが無くなったのか、避難を提案した俺に頷いた。セリスも頷き、俺たちは校外に出る為にゆっくり安全を確認しながら廊下を歩いた。


ーーーー


 生徒達もちらほら避難している姿が見える……その中に混じるように俺たちも校外へ向かう中、この襲撃の犯人であろう『魔人』の存在が俺は気になった。


 今頃……確かナル達特待クラスは、移動授業で別棟に居て、そこから戻る所に襲撃が始まるのが原作、ソシャゲ共に同じの展開となっている。


 違う点は二つ、特待組にセリスが居ない事、そしてナル達が決闘沙汰で校長に呼ばれたが故に、特待組に合流する形になる事だ。


「そういえば、セリス達特待組は何の授業だった?」

「移動授業でした、この後合流する予定だったのですが……どうして?」

「いや、サボりを断ったから余程受けたい授業だったのかなって」


 何の気無しに尋ねてみて、まさか時間割まで影響が受けてないかと確認し、そこまでは変わってないと安堵した。後はもう、ストーリー通りナルの活躍で全て流れに沿って終わるのだと、俺はセリスとアラクと共に校外を目指した。


 また一つ、爆音が響き校舎が揺れる。余程派手にやってるみたいだが、教師たちや街の衛兵は何をしているのだろうか?不安が込み上げて来る、本当に大丈夫なのだろうかと後ろめたさを感じてならない。


 大丈夫だと自らに言い聞かせる。原作でも、セリスや他の特待生メンバーも見てるだけ、居ないも同じ……だからセリスが俺やアラクと逃げていても変わらない筈だ。


 そうして3回目の爆音と、揺れが怒った時……俺は立ち止まってしまった。


「うん?どうしたギニス、何かあったか?」

「ギニスくん?もしかして……さっき怪我をしましたか?」


 駄目だ……胸がざわつく、逃げたらだめだと、関係が無い筈なのに何故か、ここで逃げたら取り返しがつかなくなると俺は感じてしまった。


「すまん!先に行っててくれ!!」


 二人が待てと言う前に俺は振り返り、脱兎の如く廊下を走った。


ーーーー

 

 廊下を駆け抜け、目指すは襲撃の舞台である別棟と校舎を繋ぐ渡り廊下、後者の真裏にあるそこへ向かった俺は、何故今更と考える。


 この世界は、主人公ナルの為にある世界で俺は脇役だ、もう俺が出てくる話は既に終わった、死ぬ事も無く後はそのまま舞台から降りればどうとでもなって終わる筈だと。この襲撃だって、ナルのチート魔法で勝って終わり……あいつはその武勲だ勲章だを受け取り貴族に召し抱えられて一章は終わるのが分かっている。


 それでも……この足が何故か駆り立てるのだ、行かねばならぬと。そうして中々に走った先、渡り廊下に出た俺が見たのは……。


「お……おい……何だよこれ?」


 渡り廊下で目に入った景色に、俺は絶句した。方々に倒れ伏す、才豊かな特待組のメンバー……誰も彼もがソシャゲでは一線級の人権ユニットの特待生が傷を負い、気を失い、埋めいて倒れていた。俺は咄嗟に渡り廊下に出る出入り口に身を隠し、覗き込みながら状況を確認する。


 王子も、ナルのハーレム2人も……地に這いつくばっている……立っていたのは2人だけ。


「おやおや、大魔導師の孫とは聞きましたがこの程度とは……拍子抜けしちゃうなぁ?」

「はぁ……はぁ……はぁ……」


 傷付き血を流し息を荒げる、主人公ナル・ワーナビと、原作で俺ことギニスを使い捨ての駒に仕立て上げ、そしてこの世界では俺を『廃棄の血族』に勧誘した敵勢力の魔人の1人。


『業風』ヴラディク・アロンソが、無傷のままナルを嘲笑って立っていたのだった。

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