第11話 呼ばれちまったぞ!やられ役!!
決闘から2日後、休日明けの登校日の事……俺は上級クラスの皆に詰め寄られていた。
「ナルとまた決闘して勝ったんだって!?」
「首席に勝つなんて凄いな、ギニス!」
「しかも魔法も使わずに勝ったって聞いたぞ!」
少なくともソシャゲでユニット化しちゃいない、名前すら初めて聞いたモブ上級クラス達による質問攻めには困惑する他なく、とりあえず当事者のアラクに、お前触れまわしたのかと目線を送ったが困惑気味に首を横に振った。
『申し訳ないが……決闘の話は互いに色々複雑な話があるから差し控えさせてもらえるか?』
上級クラスの面々にはこれだけ言って、俺は決闘沙汰が校内に溢れた原因を探る為、アラクも連れてまず特待クラスへ向かった。
「セリスさんはいらっしゃいますか!」
「ギニス、慌ててるのか喋り方がいつもと違うよ」
セリスは違うだろうが、当事者でもあるから何か知ってないかと特待教室を尋ねれば、登校済みの特待組が俺の方に向いた。そこにセリス、更にはナル、取り巻きであるエリシスとジプシーの姿は無かった。
「おや、当事者が訪ねてきたねぇ」
そこに居たのは6名、つまりはセリスとナル、そのハーレム要員2名を抜いた全員が出席しており、その内の赤髪の少年が俺を見て近寄って来た。俺はその少年を見た瞬間、即座に片膝を付き頭を垂れた、アラクも遅れながら流石に同じ様に動く。
「ユリウス王子、申し訳ない……朝から騒がしく」
「やめなって、今は公務でもなかろうに……立って普通にしてくれ」
忘れていた……この学園に、ナルの友人としてベラム王国の王子が通っていた事を。
ユリウス=ノーレッジ=ベラム……ベラム王国の第二王子であり、ナルの学友、親友の立ち位置であるキャラクターだ。レアリティも最高ながらストーリークリアで手に入るユニットで、風属性……他の最高レアに性能は埋もれたりはするが、それでも編成で困ったら入れておけば間違いは無いオールラウンダーだったのは覚えている。
ユリウスに命ぜられ俺とアラクは立ち上がる、そしてユリウスが改めてと話し始めた。
「セリスさんを含めた4名は今、校長室に呼び出されてるよ?何せキミが……ナルを酷いくらいに殴って倒したなんて話が、今やこの首都に広まっているくらいだからね?」
この決闘沙汰、おれが休日にグースカ休んでた時に拡散されていたらしく、唖然とするしかなかった。
「君も呼ばれるんじゃあないかい?仮にも主席、大魔導師の孫のナルを倒したなんて我々も信じられないからさ……実際、キミはどうやって彼を倒したんだい?」
「殴って倒した……それ言って信じますか、王子様?」
真実を聞いたユリウスは、苦笑する。そりゃ信じる訳ないわなと彼の表情からそれを汲み取り、じゃあ次は校長室に行くかと思った矢先……。
「ギニス・サーペンタインだな?校長室に至急来るように」
「そら来た、幸運を祈るよ子爵」
ユニット化されてないモブ教師に、早速俺は校長室に呼ばれたのだった。
ーーーー
「別にお前まで着いて来なくてよかろうに」
「僕は当事者だ、ナルのやつがある事ない事言ってた時に弁護できるだろ?」
「律儀なやっちゃなお前……」
という訳で、呼ばれたからには行かざるを得まい。あの主人公、何を校長に吹き込んだかは知らないが……この沙汰をまだ引き伸ばすというなら上等だと苛立ちを募らせながらも、校長室までの道順を俺は行く。
それはそれとして、本当にアラクは義理堅い奴である。本来なら勇者側に立つキャラクターの癖に、こうまで俺に肩入れする理由が分からん……分からんが……それでもこいつが居るだけで全く心持ちが違うからありがたい。
校長室へ伸びる、最後の直線の廊下へ差し掛かる。すると、扉から少し離れた場所にセリスが立っており、さらにタイミングよく扉が開いてナルと、そのハーレム要員2名がちょうど退室して来た。
4人がこちらに気付いた、先にナルと取り巻き2人が俺たちの方に歩いてくる。ナルと目が合ったから睨んでやった、しかし目線を離さずすれ違うまで見て来やがった。
言葉を交わさず互いにすれ違う、こいつ折れてないな……まぁ主人公が一度負けたくらいで折れたら、幻滅通り越して笑ってしまうが、その背が曲がり角で消えるまで俺はナル達から目を離さなかった。
「ギニス……その……」
「あぁ、セリス……一応聞くけど、何聞かれた?」
「決闘のことを詳しく……聞いたら街の人があの時見てたらしくて……」
考えて見れば、流石に居たのかもしれない。遠巻きに見ていた奴らが、けどどうして俺たちだと分かったんだ?一体誰が流布したかはさておき、いよいよ腹を括る時が来てしまったのかもしれない、俺は校長室に入る間際、一度振り返りアラクとセリスに言った。
「もし退学になった時は……」
「抗議してやる、ナルだけ扱いを特別にするのか、とね?」
「わ、私もその時は学校やめますから!」
「いや早まるなって……気にせず俺の分まで勉強しな?」
そんな事聞いてたまるかとばかりに、2人は遮る様に退学が決まった際の話を被せてきた。本当はお前たちと勉強して、普通に生活できない死ぬはずのキャラにそこまで入れ込むなと俺は忠告した反面、やはり嬉しくもあった。
俺は背を向け、校長室の扉を開けた。
ーーーー
「失礼しますーー」
『校長室』その三文字を目にして、どんな内装、どんな事態を想像する?盾やら旗やらが掲げられ、歴代校長の写真が飾られていて……学校に誇れるような成績を収めたり、警察沙汰の悪事で呼びつけられたり……俺はそんな事が思いつく。
異世界の校長室は、中々にシンプルであった。いかにも高そうな実務机に、仕事か魔導書か知らないが敷き詰められた本棚はキッチリ整頓されている。
「ん、あぁ、来たかね……ギニス・サーペンタインくん」
そんでもって長い髭の、私がいかにも魔法使いですよと言わんばかりの、3桁年は生きてそうな爺さん魔法使いが俺を呼んだ。
このジジイが『ベラム王国立魔法学校』の校長、名前を……名前なんだっけ?
「マーティン=ムーソ=タルロじゃギニス・サーペンタインくん、長いがしっかり覚えてほしいのう」
「おい、思考読んで来るなよ……」
そう、マーティン校長だ。会ったのは入学式以来になろうか、俺は思考が読まれた事を驚きつつも、それを知って校長は早速とばかりに話をする。
「早速じゃが……街の外の古戦場跡地で、ナル・ワーナビと決闘したのは事実かの?」
「はい、私が申し込みました、婚約者のセリスの事で……」
「ふむ、ナル・ワーナビの証言通りか……」
なにっ。あいつは何も虚飾無く、全て正直に話したのか……俺はあいつがある事ない事曲解して自分に都合良い証言をすると思ったが、意外すぎる……大概こういった敗北をしたら認めたくなくて権力やコネで消しにかかるのがパターンなのだが……。
「キミは少し、他人への人格に対して愚弄がすぎると思うのじゃが……」
「あ、えーと……すいません」
心読まれたらそりゃ正直に話す他無いか……リアルタイムで読まれている以上迂闊に何も考えられないなと、俺は焦るしかなく、兎も角さっさと質問して処遇を決めてくれと願った。
「処遇は特に無しじゃ、決闘沙汰も厳重注意とさせて貰う、以後気をつける様に」
「え、あ?お、終わり?何かこう……他に聞く事あるんじゃあ……」
「今の今まで呼んだ者達と同じか、最終確認でキミを呼んだのじゃ……違えば長かったが一切同じならもう良い、以後気をつける様に」
「そう、ですか……失礼いたしました」
何もお咎め無しか……罰が欲しい訳ではないが、こうも簡単に終わるとは。俺は背を向けて校長室から出ようとした……。
「ああ、ちょっと待ちなさいギニスくん?」「はい?」
出る間際に、校長から呼び止められた、そして尋ねられる。
「お主、どうやってナル・ワーナビを倒した?何しろ本人もキミの婚約者も、そこだけは思い出したくないと靄が掛かっていての」
……ほう?まさかまさか、マーティン校長は全てを読み通せるわけではないのか……つまりは余程の嫌な事は思い出したくないと靄がかかり見えないと台詞で分かった。
「読めばわかりますよ校長、見ます?」
と言うわけで、俺はその決闘の一部始終を鮮明に思い返してみせた。するとマーティン校長の顔が……みるみる青ざめていく様を見て少し笑ってやった。
「何という……そなた、何処で斯様な徒手を、まるで魔人を超えた怪物じゃ……」
「秘密です、まぁ強いて言ったら自己流ですよ」
あ、やっぱり居るんだ『魔人を超えた怪物』俺も出来ればそいつに会いたくないんだよなぁ……まず勝てないだろうしと、俺は青ざめた校長を後にして、校長室を後にした。
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