第5話 運命の激突だ!やられ役!!
大概な設定というか、メタ的な話ではあるが斯様な魔法学園物で『決闘』はまず禁止されている設定が多い。
弟から教えてもらった話ではあるが……されどこうして娯楽に飢えた生徒達が野次馬に中庭だとか、演習場に集まって決闘に至るのが流れとなっている。最近ではカーストの優劣や賭け事まで容認している世紀末設定もあるらしいが……。
『賢者無双』は前者……ではあるが、黙認というグレーゾーン設定らしく、俺は決闘の会場である中庭に向かいながら、三歩後ろを付いて来るアラクの焦りの言葉を聞いていた。
「おいおい、本当にやる気か?序列主席で大魔導師の孫だぞ相手は……」
「やる流れになっちまったんだよ……すまんな、木剣まで調達してもらって」
「構わないけどさ……てか婚約してたんならそう言えよ……」
「色々あるんだって……よし、俺が使う長さだな」
アラクには決闘用に木剣を調達してもらい、その長さと握り心地を俺は確かめて、習った剣技に対応できると頷き肩に抱える。中庭にさしかかり野次馬達が見えた、いよいよ……3年前から準備したイベントが始まる。
俺はここで無様に負けるのだと、負けるために準備して来た滑稽さになんとも言えない笑いが込み上げてきた。だが仕方の無い事、俺は主人公が気持ちよく正義を成し、成長するための踏み台でしか無いのだから。
「よく来たな、ギニス……」
「おう、来てやったぞ主席様よ?」
俺が中庭に到着し、来たぞと野次馬達が退けて行けば人垣の闘技場にナルは居た。そしてナルは……俺が来るなり肩に抱えた木剣を見て眉間を顰めた。対するナルは……。
「ナル様、こちらを……」
「身の程を教えてやってくださいな」
人混みから出てきた女生徒2人が、特待生に配られるマントを外し、俺とは違う細身の木剣をナルに手渡す。同じ学年どころか、大人に見える長い茶髪の発育のいい少女と、銀髪赤目のこちらは背の小さい少女。
茶髪のグラマーはエリシス・ルーヴィン、豪商の娘でありながら、突然変異で魔法の才能を持って生まれた才女。銀髪のロリータはジプシー・ハーレン、こちらはなんとエルフの娘でベラム王国と同盟にある、エルフの国の魔法使いの家系の娘と来た。
つまりは、ナルのハーレムメンバーである。本当に余裕だなこいつは、これがハーレム主人公に対するモブとか敵役の、妬みや羨望なのかもしれんと、俺は肩に担いだ木剣を降ろして言い放つ。
「勝負だが、参ったするか意識を失ったら負けにするか?」
「好きにするといい、僕がキミに負けるはずがない、主席と上級のーー」
「ストップ!!」
ナルの口上に、俺は思わず待ったをかけた。
「な、なんだ一体……」
こいつ今……死亡フラグ立てようとしたぞ!?というか……明らかに負ける三下の言い放つ台詞のパターンじゃねえかと、それを主人公が言ったら台無しだろうがと思わず止めた。
「ぐちぐちくっちゃべってないでやるぞ、構えろ!!」
「ええい、僕が勝ったら……セリスから身を引いてもらうぞギニス・サーペンタイン!」
細身の木剣を構えるナル、それに相対する俺ことギニス……日程も流れも違うが兎も角やっとここに辿り着いた。俺はいよいよ始まる決闘イベントで、頭の中でこの行く末をおさらいした。
まず、数度お互い打ち合う、この時俺は全力で叩き込むのに対してナルは、剣の才能まで見せつける様に軽々と俺の剣戟を受け流して優雅なフットワークで俺を疲弊させる。
疲弊した俺は決闘では禁止されている魔法を野次馬に構わず放つが、ナルは魔法障壁で野次馬ごと守り抜く。それに激昂した俺は、さらに追撃の火魔法を放とうとしたのを踏み込まれ、胸板に一撃を打たれて吹き飛ばされる。
これで勝負有りだが、俺は隙を見て火魔法を放とうとしてそれを反射され、さらに醜態を晒す。
これが、原作におけるギニス敗北の流れだ……さてまずは打ち合いから!
「ふぅう!」
「おおお!!」
互いに踏み込んで最初の一合がぶつかりあう、そして二撃目を放ちに剣を振り上げようとした瞬間ーー俺は目を疑った。
「ぐぁああ!?」
ナルが、なんと最初の一撃で尻餅をついたのだ。
「え?」
しかも、木剣が宙を待っている、ナルの木剣が折れたのだ。野次馬達はざわついた、何しろあの大魔導師の孫にして主席のナルが、まさか一撃で木剣を折られ上級クラスの生徒に尻餅を付かされたという光景に。
「どうやら……脆いやつを持ってきてしまったみたいだな……変えろ、仕切り直しだ」
「あ、ああ」
俺はアドリブで、持ってきた木剣が脆かったから仕切り直せとアクシデントを装い、新しい木剣に取り替えるようにナルへ言えば、ナルは折れた木剣を捨てて、エリシスとジプシーの元に戻った。
今の一撃を俺は考えた、確かに俺は鍛え上げた、原作のギニスから掛け離れた肉体を手に入れた。しかし、そんな物すら無意味と、無価値と薙ぎ倒すのが、主人公ナル・ワーナビの才能でありチートの筈。
それは剣術でも変わらない筈だ、原作でもナルは、剣において『稀代の天才』と称される力量を持つ、それは『ソードマスター』というスキルを持っているからだ、賢者でありながら剣も使える……表紙だってかっこいい聖剣を持ってポージングを……。
その設定を思い出して、俺は気付いた……しまったと。
確かに『この時点のナル』ならば『原作ギニス』は歯牙にかけないだろう、祖父から手解きを受けて『同学年に勝てる奴は居ない』剣術の習熟具合だ。そして『ソードマスター』のスキルを習得するのは聖剣を手に入れ、その過去を読み取り自らの力にしてからで、まだ先も先、確か原作ラノベ3巻の話だった事を俺は今更思い出した。
ならば、今の俺とはどうだ?原作から外れた肉体と剣術修行も積んだifギニスとなっている俺に、ナルは勝てるのか?
勝てない、今の一撃で分かった。魔法に関しては確かにチート持ちだが、こいつはまだ不完全なんだ!今更気付いた俺は、この決闘の結末をいかにして終わらせるか必死に考えた。
下手したらナルが魔法を使いかねない、しかし明らかに手を抜いたら相手にも分かる、本気で撃ち合う他無い……エリシスが新しい木剣を持って来た、ナルの表情に焦りが見える、勝ち目がないと悟っているようだ。
ならば……俺はこの問題に答えを提示する為、改めて構える。
「改めて……行くぞナル!!」
「くぅうう!!」
数撃は耐えてくれよ!俺は野次馬にも手抜きを悟られない様に、本気で踏み込み、本気で打ち込んだ。真っ向唐竹に振り下ろせばそれをナルは横跳びに回避して、それを追うように横凪に切り払い、ナルはそれを頼りない細い木剣で防ぎ体勢が崩れる。
斬りかかれば避け、逃げれば追うを繰り返す、野次馬の生徒達からすれば、ナルが追い詰められているにしか見えない景色に唖然とする。早く攻撃して来いナル!反撃しろ、早く!!
「う、うわぁああ!」
そんな願いが届いてくれたのか、避けたナルがいよいよ恐慌からか一撃を放った。これだ!!俺はそのナルの一撃を防御する為、木剣で軽く打ち払った。
バックステップで離れたナル、俺はそれを確認して膝をつき、左手を伸ばした。
「ま、参った!!」
俺は片膝をついて、左腕を伸ばし待ったをかけ敗北を受け入れた。
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