第3話 イベントが起きないぞ!やられ役!!
入試から二ヶ月……俺はいかにもな制服に袖を通し、姿見でその姿を確認した。生地から何までしっかりした作り、まるで中学時代の詰襟、高校時代のブレザーと着心地からしていい。
「いやはや、よくできたコスプレだわ、これ……」
ただ、デザインがデザインな為、コスプレにしか思えない。仕方ない、異世界の魔法学園の制服だからな。なんだこのヒラヒラした後ろ裾は、前裾はきっちりしてるのにこれ要るか?そう考えながらも、着ればしっかり似合っているあたり、ギニスくんの元々ある美男子面にはぴったりあてはまった。
「さて行こうか、いよいよ運命の時だ……」
荷物はすでに送った、あとは登校するだけ……ギニス家の治めるグアスから、首都キアバスは遠いから、わざわざ宿を取って二日前には来ていたのだ。俺は宿から出て、見事合格した『ベラム王国立魔法学校』へ向かった。
ーーーー
入学式に関しては退屈だった、この手の式は苦手でさっさとふけてしまいたいのだが……まぁ学生としてしっかり眠気に耐えて乗り切ってみせた。主人公のナルがしっかり主席挨拶をして、皆拍手をしていたがつきあって拍手をして……クラスに向かう事になった。
さて……ベラム王国立魔法学校のクラス分けは、試験の成績順で決まる、よくあるパターンだ。下から『普通クラス』『上級クラス』『特待クラス』とあり、上位10名が特待クラスになるわけだが……原作にてギニスくんは『上級クラス1位』という中々の成績で入っている。つまり、全体で上から11番目である。
俺からすれば、あの怠惰で嫉妬に塗れ、努力も無しにこの順位なだけでも凄いと思うが、ギニスくんは特待に入れて当たり前と思っていたくらいに自信はあったらしい。
それで……俺は試験の結果どうなったかと言うと。
「今回ばかりは……原作通り!!」
上級クラスで俺は1人この出来栄え、結果に拳を握った。俺は原作のギニスくんと同じ、上級1位、即ち一年生で11番目に見事入ってみせたのである。昔の高校でのテストなら、頑張っても中間を抜けれなかった俺が、中の上まで食い込めた事にも感涙した。それと同時に3年間準備してもこれがやっとなあたり、この物語におけるナル、そしてセリスの2名を含めた特待生10名の化け物具合も実感するのだった。
いや……そもそも勉強のポテンシャルは俺の方に引っ張られてギニスくんの要領の良さなり才能が消えたと考えていいかもしれない。すまんな、ギニスくん頭の悪い男で。
さて……行くかと俺は席から立ち上がった。何せイベントはこの入学式から始まっている、まずは特待クラスまで行かなければと、俺は教室から出た。
ーーーー
入学早々ながら、ギニスくんによるナルとの因縁イベントが早速存在する。ここから決闘イベントに至る入り口と言っても過言では無い……。
特待クラスに入れなかったギニスくんは、苛立ちを募らせながら廊下を歩き特待クラスの前に来ると、そこに仲良くなった主人公ナルとセリスが教室から出てくる。
それを見たギニスくんは怒り、セリスの手を掴み婚約の件を吐き散らすが、婚約はしてないと嫌がるセリス、そこをナルが颯爽と割って入り助けてチャイムが鳴る……これが因縁を築く流れだ。
心苦しいが、これもストーリーを壊さない為にやらねばならない……ここまで幾つ違う流れがあったのだ、ここも原作通りに行きたいと俺はすぐ隣の特待クラスに到着し、そしてタイミングよくセリスは教室から出てきた。
「あ、ギニスくん」
「セリス……」
セリスだけが出てきた、あれ?ナルはどうした、一緒じゃあないのか……これだと因縁イベントが始まらないぞ?
「残念だったねギニスくん、もう一歩で特待クラスだったのに……私だけ特待になっちゃった」
「い、いや気にするな……俺の怠惰がいけなかったし、努力も至らなかったんだ……3年費やしてここが限界だったんだ」
焦りながらも、俺はセリスとの会話を引き延ばそうとした。早く出てこいナル、このままだと俺との因縁ができず、決闘イベントが発生しないだろう。
「で、でもあくまで指標で授業内容は変わらないらしいから……もし頑張るなら私も協力するし、2年でもクラス再編あるから頑張ろう?」
「あ、ああ……なぁ、ナルーー」
彼女に元気つけられながら、俺は焦りがいよいよ限界が来てナルは居ないか尋ねようとした、しかしそれは許さぬとばかりに、チャイムの鐘が学校に鳴り響いた。
「あ、予鈴……じゃあね、ギニスくん」
「おう……じゃあまた」
……何が、おう……だ。まずい事になってしまった、これでは因縁が始まらない。というか主人公はどうした?クラス表には確かに、特待主席にあいつの名前があったし、挨拶をしていたのも見た、ちゃんと主人公のナルは主人公のイベントをこなしていたのに。
それでも無情に予鈴は鳴り終わる、俺は上級クラスに戻るしかなかった。
ーーー
「はぁ……どーするよマジに」
重要なイベントが起こらなかった、多分皺寄せが来たのだ。俺はこの3年間が徒労に終わり、世界が終末を迎えるルートに入ってしまったかもしれない事に頭を抱えた。
ifギャグエンドとは言え、俺ことギニスとの決闘が無くなっただけで主人公は増長し、驕り昂りやがて力を失う。
何とかしなければ……机に突っ伏してイベントが無くなり、やはり努力を積まずギニスとして生きるべきだったのか、勢いで家を簒奪するんじゃあなかったと後悔に塗れながらも、何とか主人公と因果を作り決闘をしてルートを戻さねばと考える。
「大丈夫?唸ってるけど頭痛いの?」
「ああ?」
今世界が終わらない為にどうしたらいいか考えてる時に声かけて来るな、そんな苛立ちを返事に乗せて声を掛けてきた相手に唸ってしまう。それを聞いたら無論相手はビビるわけで、ひいぃと後退りした。
「あ、わ、悪い……苛立っててな、すまん」 「いいよ、大丈夫……もしかして、特待に入れなかったのが悔しいとか、そんな感じ?」
俺に声を掛けたのは色白な優男だった、本当に白い、アルビノってこんな感じかって思うくらいには肌が白い、確かこいつは……。
「たしか……アラク・サマルナだったか?名前?」
「そう、君の次の順位、つまりは上位クラスのナンバー2さ」
そうだ、アラク・サマルナくんだった。この薄幸薄明でアルピノ、さながら主人公に傷を残して死にそうなミステリアスな外見の割によく喋るイケメンくんだ。
こいつもいずれ、主人公勢で活躍するキャラクターだったか。たしか翌年……2年生編では増設され15名となる特待組の1人になる少年で……。
「よろしく、ギニス・サーペンタインだ」
「よく知ってるよ、若くして当主になったって」
この世界における敵勢力『魔人族』の血を持つハーフだ。確か母親がそうだったか、設定をそこまで読んでないキャラだ、ユニットとしては最高レアの一つ下のハイレアランクで、この時点では主人公の全属性持ちを抜いて、二つの魔法属性を持ったキャラクターだ。一つ目が水、そしてもう一つが闇属性。
いや、確か魔人族自体が『闇属性が基盤となり、そこに他属性が付随している為、二種類の属性を当たり前に持っている』という種族設定だったか。兎も角俺はアラクと握手を交わした。
「何となく分かるよ……僕はこんな筈じゃない、この程度じゃない、まだやれるって思っちゃうよね」
「え?あ、特待の事か?」
「今年は化け物揃いさ、あの大魔導士の孫に皇太子様でしょ?他にも規格外がキミや僕の上には居るんだから、溜息も出ちゃうよね」
そんな事よりも危うい事態でこっちは悩んでいるのだが……こいつは特待に入れなかった自分の自信が砕けた事で俺が唸っていると思っているようだ。
「まぁ、後少しあればとは感じたか……」
「だろうさ、キミとは仲良くなれそうだよ」
こいつはこんな軽薄キャラだったか?自分の生まれと闇魔法の素養に悩んでいるキャラクターにしてはそうは見えないが……故郷の中学で軽口を叩いていた友人を思い出して、俺は少し気が楽になった。
「気が合うな、俺もそう感じたぞアラクくん」
「呼び捨てにしてくれよ、あ、キミは貴族で僕は平民だから、呼び捨てはダメかな?」
「気にするな、まだ爵位だけの仕事も覚えてない学生だからな」
アラクとの会話で気を取り直して、俺は改めて主人公との決闘イベントを起こす為考え直す事にした。
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