第2話 主人公だ!やられ役!!
いよいよ現れたか、原作通りだなと俺は余波の風に撒かれた粉塵から目元を守っていた腕を顔の前から退けて、得意気に壇上から降りて来る黒髪の少年、この『賢者無双』に置いて主人公であるナルの姿を再確認した。
本来魔法を行使する際に必要な杖を持たず、更には詠唱すら破棄し、そして規格外の威力の魔法と魔力を見せつける……主役は俺だと印象付けるような、異様異質を他の受験生に披露するその姿……いざ脇役の立場から見ればその生まれ持っての差異を分からされる。
ナルはそのまま歩いて、俺とセリスの前を横切る。しかし俺は見た、セリスに対してこいつは、気障ったらしくウインクをして通り過ぎて行ったのだ。
「えっと……す、凄いですね、まるで大魔導師ワーナビ様と同じくらいの……」
そんなセリスはウインクには反応しなかった、と言うより……知らないのか?ナルの事を……俺はこの時の時系列や、ナルの交友関係を頭から掻き出し、掘り起こして思い出し……。この時は全くもって、交友関係が無い事を思い出した。
ナル・ワーナビは今日この日まで、つまりはチュートリアル期間の3年間、ベラム王国の端も端の山にて、祖父である大魔導師、エブリス・ナーロン・ワーナビの下で魔法の習得に励みながら二人で暮らしていたのだった。
そして今日、前準備で街には来ていたりしたと思うが本格的に街へ降りてきて、この入学試験でトップになり、代表挨拶を経てクラス分けで最上級クラスの面々と会ってようやく、セリス以外の関係が始まる事を思い出す。
セリスだけが、この入学試験イベントで関係を持つはずだったのだ。まずいな、色々と変わってしまっていると、今後のストーリー軌道修正を考える最中、俺はある違和感に気付いた。
ナルは、あいつは……なぜセリスにウィンクをしたんだ?まるで知っているみたいに。その行動で俺はハッとして、立ち去るナルを追いかける事に決めた。
「あ、どうしたのギニスくん!」
「すまん!ちょっとあいつと話して来る!!」
俺はなんて、重要な事を忘れていたのだろう。そうだ、主人公ナル・ワーナビはそもそも、原作からして現代日本からの『転生者』だったではないかと。
さらに疑念が浮かぶ……このなるに転生したのは『誰か?』という事も。
原作通りならば、転生前の情報は無く『過労死で亡くなったサラリーマン』としか情報が無いのだが……今のウインクは、まるでセリスを知っている様な所作だった。
つまりは……こいつは『原作の転生者』ではなく俺の様な『賢者無双を知る転生者』かもしれないと過ったのだ。
「待て!!」
黒髪の少年、主人公のナルの背に追いつき俺は声を掛けた。ナルは気付いてこちらへ向いて、ギョッと一度目が驚きに動いて俺を見上げた。
「何だい、僕に何の用かな?」
俺は呼び止めてしばらく考えた……ここで、一気に踏み込んで確かめるべきか?いや、もしも踏み込みすぎたら、敵対するやもしれない、俺は呼び止めた手前待たせるわけにいかないと、とりあえず会話に入った。
「いや凄い魔法だな、驚かされたよ……だからキミの名前が知りたくてね?同じ学舎に通う者同士……」
「ああ、それでわざわざ呼び止めに……」
「俺は、ギニス・サーペンタイン……グアス領を管理しているサーペンタイン家の当主だ」
自己紹介と共に、俺は右手を差し出して握手を求めた。それに対してナルは……自然だった、普通に笑って右手を握って握手に応えてくれた。
「僕はナル・ワーナビ……ただの魔法使いの卵さ」
「謙遜するなよ、今わかった……お前大魔導師のワーナビ家の子か、成る程合点がいった……」
手を離して、俺はあくまで登場人物の1人を演じる様に言葉を選んで台詞を吐いた。
「もうギニスくん、置いていかないでよ……」
「ああー、悪いねセリスちゃん?ごめんごめん」
突如走り出した俺に、追いかけて来たセリスが追いついた。息を切らしながら、胸をバルバル揺らしてこちらに近づいてきて……うおっでっか……いかんいかん、相手は15歳だ。
「……そちらの方は」
「ああ、紹介するよ、セリス・ファラウドさん、貴族ファラウド家の娘さんで、俺の友達」
「初めましてセリス様、私はナル・ワーナビです、以後お見知り置きを」
「は、はじめまして……」
ナルはにっこり笑って一礼する、対してセリスは……俺の横に陣取りナルとパーソナルスペースを確保しようとしていた。
「あははは、怖がらせちゃったかな?なにせじいちゃんと今の今まで学んでたから加減が分からなくてさ?」
「それであの大爆発か、全く英雄の大魔導師様の孫となれば規格が違うなぁ?」
「これでも加減したんだけどね、あれくらいが当たり前かと思ってたけど……」
話して分かる、謙遜の中にある自信、常識外れを天然でひた隠す話し方……こいつは間違いなく主人公のナル・ワーナビだ。ここからこいつの物語が始まるし、やがて俺はこいつと戯れ程度の衝突を起こす。
しかしわからん、お前は『原作』のナルなのか?はたまた『原作を知る転生者』のナルなのか?ここまで違和感を感じたのは、セリスへのウィンクと、俺を見た時の驚きだけだ。
……どれ、鎌をかけてみるか。
「では、いずれ入学式で会おうナル、行こうかセリス」
「あ、え?」
俺はセリスの腰に手を回し、そのままナルの横を通り過ぎて立ち去る事にした。さぁ、どんな顔をするナル?メインヒロインが、まさかの一章で倒す噛ませ貴族と仲良しで腰に手を回しているぞ?俺は見せつける様にしながら、ナルの目の動きを見逃さないようにした。
「ええ、また入学式で」
挨拶はそれだけ、俺はそのままセリスと共に魔法学園から出ていくのだった。
ーーーー
「……一切反応無しか」
校門から出て、俺はナルの反応が全くなかった事を確認した。つまり……あいつは『原作ナル』と思っていいだろう。
「あ、あの……」
「おっと……ごめんなさい、セリスちゃん」
「いいんですよ、大丈夫です」
反応を見る為だけに、腰に手を回したセクハラをしてしまった。すぐに手を離し頭を下げた、許してくれたが実際はどうなのやら、それにもう……彼女とは仲良くできなくなってしまう。何せ彼女は、ナルの横に居るべきメインヒロインなのだから。それに俺の精神年齢からして、手を出したらアウトだしね。
「お互い合格を祈るか、次はこの学舎で会える事を願っているよ」
「だ、大丈夫です、受かってます絶対!お互いまたここで会いましょう」
それでは、とセリスは一礼してさっさと俺の前から立ち去って行った。そりゃ気持ち悪いわなぁ……いきなり腰は、この辺りが本当道程なのかもしれない俺はと溜息を吐いた。
大学辞めて、プロ格闘家になって……勝って負けてを繰り返した。周りの奴らはベルトを巻いたり派手に動画サイトで色々やってたりしたけど、俺はひたすら練習して練習して、勝ちはするけど盛り上がらない試合ばかりで、女っ気の無い生活だった。
おしゃれするくらいなら海外でトップファイターと練習がしたいと、お金も格闘技やトレーニング関係にまわしていたっけ……勘違いをするな、ワンチャンあるとか思うな、仮に手を出せばそれはもうロリコンだ、水瀬光太郎……今のお前は、ギニス・サーペンタインなんだ、唯一の望みは生き抜いてこの後のイベントを超えるだけ……。
「それ以上を望んで何になる……」
俺は自分に言い聞かせ、そのまま1人帰路に着いた。
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