第一章 決闘イベント編
第1話 入学試験だ!やられ役!!
あれから、1年半が過ぎた……。
俺ことギニス・サーペンタインは15歳となり、いよいよ今日『異世界転生賢者のチート無双〜大魔導師の孫に転生した俺のハーレムライフ〜』における、第一章魔法学園編の舞台となる、ベラム王国首都はキアバスに鎮座する『ベラム王国立魔法学校』の、入学試験に挑戦する事となった。
その間、色々な事があった……まず、俺は正式にサーペンタイン家当主となり、爵位と全ての権限を父ハロルドから引き継いだ。
母ベルガはそれを許さぬとヒステリックになったが、俺が『浮気』と耳元で言ってやって大人しくなった。現在は屋敷にて軟禁状態にしてある。
兄、アイン・サーペンタインだが……なんと騎士の位と剣を捨てて修道士となってしまった。俺に喧嘩で負け、さらには信頼した父からも当主の座を俺に手のひら返しで渡してしまったのが余程ショックだったらしい。
そして俺に全てを与えた挙句、鼻をへし折られた父ことハロルド・サーペンタインだが……流石に仮初であれ父は父なので、領内の片隅の屋敷にて隠居という形で手を打つ事にした。まぁ原作では俺のやらかしの責任で自害を選ぶのだから、余生を過ごせてマシだと思う。
なお、まだ学生ですらない俺が、流石に父の『火竜騎士隊』の指揮など出来るはずもないので、隠居により空席となった指揮官の任は本国の代わりになる誰かを配属する事となった。
15歳で爵位を親、兄から簒奪した少年ギニス・サーペンタインが、現在の俺の背景という事になる。
試験なんて大学入試以来か?いや、運転免許試験だったか……兎も角まず入試で合格しなければ始まらないと、俺は試験会場へ歩き出した。
「あ、ギニスくん!」
校門を潜りまずは筆記試験がある校内に向かう最中、聞き覚えある声に振り向いた、手を振ってこちらまで駆け寄って来たのは……。
「セリスちゃん、お久しぶりだね?」
「ちゃんと会ったのは数ヶ月前ですね、色々大変だったでしょう?」
本作のメインヒロイン、セリス・ファラウドであった。俺が、父ハロルドから爵位や権限を引き継いだ際には、貴族としての公務等を彼女の父から教えてもらったので、また縁ができてしまったのだ。だから彼女は、サーペンタイン家で何が起きたのか全て知ってしまったのである。
俺自身、苛立ちから勢いで爵位簒奪の方向に舵を切ったはいいとして、仕事関係を覚える為の伝手に、まさか婚約を保留した相手の父を頼らざるを得なかったあたりやらかしもやらかしであった。
「ファラウド子爵には足を向けられないよ……ところで何だが……」
「どうか、なさいました?」
それはそうとして……俺は一つ確認したい事があった。結構重要な事で、これが無ければある意味色々とストーリーに変化が起こっている証拠だからだ。それを今からセリスに尋ねて、確認する事になる。
「道中、大丈夫だったかい?」
「ここに来るまでですか?」
「ああ、例えば……街のチンピラに襲われかけたとか……」
そう……主人公ナルと、メインヒロインの彼女が会合するイベントは、この直前の出来事である。
流れとしてはこうだ、試験まで時間があったナルが、時間潰しにキアバスの街中を散策していると、チンピラにより路地裏へ連れて行かれそうになっていたセリスを見つけ、チンピラを撃破。そして二人の仲が築かれる……という、よくあるパターンの出会いなのだ。まぁ、このギニスくんもよく居る貴族のいけすかない最初の雑魚なんだが。
「いいえ?そんな人たちが屯するような場所をわざわざ歩いたりしませんが……」
やはり……変化はあるかと、俺は少し冷や汗が滲み出て来る感覚を覚えた。そもそもこの時点でナルとセリスは仲良く試験会場に到着していなければならない、それを見た原作ギニスくんはナルに突っかかる要因となるのだが、それが無くなってしまっている。
「そうか、安心したよ」
「心配してくださったんですか?」
「え、ええまぁ……さっさと試験会場に行きましょうか」
一抹の不安を胸に抱えながらも、俺はセリスちゃんとともに筆記試験会場に向かった。
ーーーー
さて、筆記試験だが……普通に解答用紙と問題容姿のありきたりなお受験だった。因みにだが、この試験の得点においても俺は調整をしなければならない。
というのも、ナルとギニスくんの因縁は、この試験にも関わって来るのだ。主人公ナルは言わばイレギュラー的存在である、主人公であるからまぁそうなのだが……兎も角このナルによりギニスくんの人生は狂わされてしまうわけだ。
試験では得点においてクラス振り分けがされ、実はギニスくんは怠惰に浸ってはいても上位10名には余裕で入れる魔法の知識、火魔法の実力を有しているのだ、非凡な才能はこの時点で描写されていた。
しかし、そこでナルが現れなんとトップ成績に食い込まれ、上位10名から炙れた果て、彼は最上級クラスに入れなくなり、上級クラスに振り分けされた苛立ちをナルが居なければと逆恨みするのだ。
つまり、物語の進行上……ここでは『トップ10に入ってはいけない』という条件が付き纏う。だが安心して欲しい……ギニス・サーペンタインではなく、精神が今は水瀬光太郎(享年25歳)な以上、この条件はクリアできるだろう。
何故かって?
「では、始め」
勉強苦手だったんだよ俺!必死に勉強しても実力が共わなかったし、受験失敗も経験して、滑り止め合格したくらいだ!むしろ全力で挑まないと落とされると、俺は数年ぶりの筆記試験に挑んだのだった……。
ーーーー
「頑張ったよォオオ、もうやだ紙なんか見たくないよぉおおお……」
「ほ、ほら次は実技ですよ、頑張りましょう!」
3年間勉強したけど自信がない……いや、全て埋めれたから多分合格ラインには行ったと思う、あとは実技でどうにかしなければと、泣きを入れる俺にセリスちゃんは背中を叩いてくれた。
本当メインヒロインだわ、俺にはもったいねーよマジに、さっさと主人公に会わせてやらにゃと、意気消沈しながらも実技試験会場にたどり着いた。
こちらもよくある魔法学園ものらしい試験、一番得意な魔法を標的に叩き込んで、威力や練度を見る試験だ。次々と、各々が得意な魔法を放ち試験官が羊皮紙に色々と刻み込んでいるのが分かる。
実技は大丈夫だ、それこそギニスくんの才能に、怠惰で成長しなかった筈の成長幅を俺は努力で積み上げて来たから……筆記を補う魔法を放つ事ぐらい出来るはずだ。
「次、ギニス・サーペンタイン、前へ」
「は、はい」
「頑張って、ギニスくん!」
セリスの応援を背に、ターゲットレンジを模した壇上に立ち、左手に杖を持つ。3年前に店主からやり直しだと言われ買わされた既製品の数物から、元のギニスが使っていた杖に持ち変えれるくらいにはなった……3年の積み重ねはここで出し切る!
「すうっ……」
「むっ?」
杖はより雄ましく、念じるは強く、発する声は大きく!杖先に感じた重みに、確かな成功を感じて俺は叫んだ。
「ファイアブラストッッ!!」
言い放つと同時に振り抜いた杖から放たれた火の玉……いや、自分でも驚いた程のそれは『弾丸』が、標的の枠に支えられ固定された円盤を喧しく鳴らして宙に回転して浮き上がり、そして芝生に落下した。
「っっーーしゃああああーーー!!」
「なんと……目で追えない速度の魔法とは……」
思わず叫びを上げてしまう程の、そんな出来栄えだった俺の
「凄いですギニスくん!的を飛ばしたのは今、ギニスくんだけですよ!!」
「やぁったぜセリスちゃん!!
思わず互いに手を握りワイワイしてしまって、俺はハッとなってゆっくり手を離し咳をして繕った。
「いや、まぁその、努力の成果が出て良かったよ、うん」
いかんいかん、俺はこれからこの子と疎遠にならなければならないのに、そうして距離感を間違えて反省していたその時だった。
俺の横を、黒髪の少年が横切り壇上に上がっていくのを視界の端で確かに見たのであった。
この世界において……『黒い髪』を持つ者は少なく、その黒髪はそれだけで『特別な力』を持つとされている。それが『賢者無双】の設定だ、そして俺の知る黒髪の登場人物はただ1人!!
「どうしたのギニーー」
「耳塞げ!セリス!!」
振り返った刹那ーー衝撃波と轟音が試験会場に響き渡り、スカートを履く者は押さえ、マントを羽織る者はそのたなびきに身体が揺れた。
やがて衝撃波による風が止み、シューティングレンジに佇む少年に試験官が歓喜の賞賛を叫ぶ。
「なんて事だ……詠唱無しで杖も無しにこんな……しかも、研鑽された魔導士ですら砕けない特殊魔法加工した標的が跡形も無く!!」
キンキンする反響に耳をやられ、他の生徒達も何事かとその原因に目を向ける。
「ん?みんな僕に注目しているけど……」
そして奴は……いかにも気付いている癖に、まるで煽るかの様に、それすらも天然で気付かないとばかりにこう吐かしたのだ。
「おれ、なんかやっちゃいました?」
この世界の主人公、ナル・ワーナビと、ついに俺は会合したのだった。
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