第7話 剣術訓練だ!やられ役!!

 セリスとのお見合いでやらかし、本当に婚約へ話が進みかけたが、何とか保留に持っていく事へできた俺は、来るその日までトレーニングを続ける日々を送った。


 たとえ決闘イベントを終え、悪に染まりナルに殺されるイベントを踏まずにその日を超えようと、俺はその決闘のやらかしの責任を取りサーペンタイン家は勘当される。


 このファンタジー世界で生きていく為に、俺は強くならねばならない。少なくともこのギニスくんの、ソシャゲにおけるレベル最大までは鍛え上げれば、余程恐ろしいエネミーに会わなければ死なないくらいにはなるだろう。


 手負いの前線離れした元英雄でありギニスくんの父、ハロルドを闇討ち染みたこちらの領分で殴り倒しても、それで自分が、ギニスくんが強くなれたなどとは言わない。


 なにせ、この世界に居るのは人間だけではないのだ。ファンタジーよろしく魔物、多種族、さらには……主人公ナルが戦う『魔族』まで居るのだから。


 まぁつまり……自分が現世で鍛え上げ体得してきた『総合格闘技』では、対応できない相手も出てくるだろう。ギニスくんの魔法もまだまだ学び、自分が扱う為に鍛錬を続けねばなるまい。


 というわけで……。


「なに、剣術を学びたいだと?」

「今からじゃあ遅いか、父上」


 父に頼んでみる事にした、剣術を学びたいと。思えば現世でプロ格闘家として戦っていた時も、方々に教えを乞いに足を伸ばしていた事を思い出す。その道の者に習う事から何事も始まるのだ、俺は執務中の父を尋ね剣術を教えて欲しいと頼むと、父はふむと顎を撫でながら考え……口を開く。


「本当に……貴様は変わったのだなギニス、だが私ではお前を指導する事はできん、兄には自ら教えてやったが、足が壊れてこのザマよ……」


 一年近く前に殴り倒されても、禁じられた装備品を俺に取られても、ギニスくんが変わった事の方が嬉しいらしい、この人もちゃんと親だったんだなと、俺は指導を自らできないと残念がるハロルドの言葉に少しだけ胸が痛んだ。


「この街にある王国軍の詰所に紹介状を書いてやる、後になって根を上げるなよ?」

「上げませんよ、今でも毎日鍛えているのですから」

「では、紹介状を書く……夕方には出来上がるだろう、明日朝詰め所を尋ねるといい」


 いや本当、貴族の融通の良さには助かるなと、明日から剣術を習う事がこうして決まったのであった。


ーーー


 グアス領内、ベラム王国軍詰所……その事務室に通された俺は、いかにも面倒事を押し付けられ断れなかったと言いたげな、威厳ある髭のおっさんに睨まれて椅子に座らされていた。


「出来の悪いどうしようもなかったハロルドの次男坊が随分変わったじゃないか……頭でもぶつけたか?」

「あははは……」

「へらへらと笑いおって……」


 この髭の、いかにも叩き上げのおっさんはゴンゾラ・マリガンというベラム王国騎士隊グアス連隊の隊長である。つまりは、父ハロルドが指揮権を持つ『火竜騎士隊』とは別、このグアスに駐留する騎士隊の一番偉い人である。


 ギニスの父ハロルドとは訓練時代の同期で、爵位を超えた友情を結んだ、つまりは戦友である。ちなみにレアリティは下から2番目で……すぐに売却なり他キャラの経験値にされてしまう使い所が無いユニットである。


「立てぃ!出来損ない!!一年そこらで作った身体を見てやる!!上着を脱げ!!」

 

 そんなゴンゾラ隊長は椅子から立ち上がり、カッと目を見開き一喝した。言われるがまま、俺はゆっくりと立ち上がり上着を脱ぎ、上半身の裸体をゴンゾラに晒した。


 そのまま俺の身体を値踏みする様に、ゴンゾラが周囲を歩いてジロジロと見て、口を開いた。


「ふんっ、生意気な……余程無気力で惰性に生きてた貴様が作り上げたとは思えんわ、魔法薬の匂いもしない、本当に頭をぶつけたか出来損ない!」


 ギニスくんのどうしようもない悪辣さは、それこそ頭ぶつけなければ治らない程に酷かったらしい。


「そう思ってもらって、構いません」


 もうそういう事にしておく事にする。ギニス・サーペンタインは頭をぶつけてまともになった、そういう設定で行こうと、俺は決めたのだった。しかしまぁ、原作では名前だけしか出てないのに濃いキャラクターである、一昔前のミリタリー映画の鬼軍曹をそのままインストールしたみたいだ。


「貴様の親父からは情けも容赦もかけるなと許可を頂いている!覚悟しろよ、泣き言垂れても貴様が学校に通うまで、休みの日と病気以外は引きずってでも訓練をさせてやるからな!!」

「ご指導、よろしくお願いします」


 あ、流石に休暇やら病欠は許してくれるのか、そのあたりは配慮あるのだなぁとゴンゾラさんの人となりを感じながら俺は、深々と頭を下げた。


ーーー


 その日からすぐに、剣術の訓練は始まった。芝生を敷き詰めた詰所の敷地内、練兵場には鎧を着込んだ兵士達が木剣や先を布に包んだ槍を模した長杖を振るい、打ち合う者達や、人を模したダミー向け振りや型を確認しながら打ち込む者も居た。


 今回は鎧を着せてもらったが、自分で着れるように練習をしろとゴンゾラさんからは念入りに言われた。防具も満足に身につけられない者が、剣など振れるかの事だ。それはある、しっかり防具は身につけないと大怪我に繋がるのは、現世の総合格闘技ジムでも言われた事だ。


「まずはに鎧に慣れていく。貴様がいかように鍛えたとして、鎧を着れば動きもその身体にかかる疲労も、景色も、何もかもが違う……俺についてまず敷地を軽く走ってみろ」

「はい」


 ゴンゾラさんに言われ、まず鎧を着たまま走る事になった。重りを付け、負荷をかけて走るのは、せいぜいウエイトベストをトレーニングで着たくらいだ。鎧甲冑なんてまず着た事などない。ベラム王国軍の一兵卒に支給されるプレートメイルだが、これは意外にも動けてはいる。


 もっとこう、ガチガチで動くのもままならないと思ったが、ちゃんと走れたりするのだ。しかしやはり……重さが満遍なくかかって来るので疲労感は普通のランニングとは雲泥の差だ。言われるがままゴンゾラさんの後ろをついていき、一周走り切ればゴンゾラさんがこちらに振り返り様子を伺った。


「どうだ、鎧の重さがズンと来るだろう?今の今まで走り込みをしていたお前でも息が上がっている」

「え、ええ……全然違います」

「これに慣れてゆけ、そして身に付けろ、無駄の無い動き、走り方……それはやがて身体が覚えて自ずとそう動かすようになっていく」


 懐かしいな、プロ練の時間に踏み込んだ日を思い出す。


 通っていた地方のジムで、高校生になってからジムに所属していたプロの先輩達の背をついていった、離されて、吐きそうになっても必死に食らいついて行った。その時は自分が海外のメジャー団体と契約取るプロになるなんて、思ってすらいなかったけど。


 まぁ死んでしまったが……。


 鎧の重さが、ずんとのしかかる。膝に手をついたら倒れそうだ。しかし息を整える為に呼吸に意識を置くと、ゴンゾラさんはまとめて置かれていた木剣の一つを取り手渡して来た。


「真似をしろ出来損ない、私の真似だ、私は鏡だ、振り方から何まで真似てみろ……その後に動きの意味を教えてやる、さぁやれ!」

「はい!!」


 まずは真似ろ、真似てみろ、不格好でも何でも見てやってみろとゴンゾラさんが対面に立ちそう言って構え、いよいよ剣術の稽古が始まった。せいぜい、高校の授業にて体育で剣道を少し体験した事しかない。何より今まで素手でしか戦った事が無い自分が剣を握り、一から習っている。現世では、全く触れなかった剣術を習うという新鮮さは、疲労を苦と思わせはしない刺激に満ちていた。

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