第5話 メインヒロインだ!やられ役!!
禁忌の装備『炎蛇のブレスレット』を手に入れた俺は、早速その力を試す事にした。
というわけで現在、サーペンタイン屋敷近くの雑木林に俺は来ていた。服を脱いで上半身裸、左手の指でクルクル回して弄ぶブレスレットを掴み、ゆっくりと、右手に通していく。
まさか身を焦がす炎に焼かれないかと身構えたが、何事もなく無事に装備できた俺は、早速その違和感に気付いた。
「身体のマナがブレスレットに吸われてるな……それで魔法封印のデメリットか」
このギニスくんの肉体故に、魔法を扱う事ができる故にかマナの流れも自ずと理解できてしまっていた。そして身体中を走るマナが、ブレスレットに吸われている事も実感できてしまう。
「では早速……」
どれ程の力になるのか、さぁ試してみようと目の前の木に対して構えを取る。リラックスして……左足を軸に、しっかり右足で地面を蹴って、腰を捻り!右脛を!
「えぇいしゃぁああ!!」
叩きつけたーー瞬間、脛が木にぶつかる痛みは無く。散乱する木片と共に撓む巨木の幹が、圧し潰れて折れた。
「お!?オオオマズイマズイマズイ!!」
そして、こちら側に倒れてきた巨木を、支えれもしないと分かっている筈が、防衛本能から来てしまった反射運動で俺は手を伸ばして支えようとして……。
「うおぉ……マジ?こりゃ凄い……」
支えてしまった、巨木は倒れず枝木を揺らし葉を散らしている。俺は試しにゆっくりと巨木を持ち上げてみて、人外の力が身に宿った事を理解してしまった。
「ふー……スーパーヒーローだな、マジに……ゆっくり下ろそう」
ゲームではダメージとパラメーターの数値しか表示されない変化も、こうして現実になるとここまで恐ろしい力なのかと巨木を下ろして息を吐き、炎蛇のブレスレットの力を思い知った。ブレスレットを外せば、やはりマナの流れは戻る、そしてーー。
「うぷっーー!?ぐぇええう!おぇえ!!」
突如襲い掛かる吐き気に耐える暇も無く、俺は嘔吐した。あぁ確かこれが『魔法酔い』という現象だなと、初体験の事態を納得しながら膝をついた。
『魔法酔い』この世界における、過剰な魔法行使によるマナ不足や体内マナの流れの不調によって引き起こされる反応。つまりは魔法の使い過ぎによるマナの枯渇や、不慣れな魔法を無理矢理使おうとした際に起こる生理現象で、これは原作でも様々な登場人物が体験している。
今俺はマナ枯渇と、初めてブレスレットを利用して体内マナの流れが無理矢理に変わった為にそれが起こったと自覚する。これがゲームでは描写されないデメリットだなと、俺は唾を吐いて息を整え、腕輪をポケットにしまいこんだ。
はっきり言えば、この『魔法酔い』は鍛えたら何とかなりそうだと分かった。他の禁忌シリーズより効果がはっきりとしている分、デメリットを緩和できそうな事も。他の禁忌シリーズは強力だがデメリットはこの炎蛇のブレスレットの比では無い、扱えるとしたらそれこそ主人公のナルか、最上級レアに位置するユニットの登場人物くらいだろう。
これは有り難く貰っておく事にした、本編には関わりの無いアイテムだし、強力でデメリットも緩いから切り札として使わせてもらおう。仮に……もし主人公ナルがアイテムコレクター的な気質があり、渡せと言われたらさっさと手放してしまえばいい。
もしも、ルート分岐でやらかした時の自己防衛として使わせていただこう。
ーーー
月日が流れるのも早い事……俺がギニスくんに憑依してもう一年が経過しようとしていた。あれから何があったか、語らせていただこう。
まず、肉体だがしっかり成長している。豊富な食事、そして自分の理想形の肉体に近づく為にトレーニングも欠かせない。基本は自重トレーニング、ウェイトトレーニングも潤滑な資金があるので、買わせたりオーダーメイドにて作らせた。13歳となった頃には、あらゆる箇所のラインがくっきり見え始めた。
家族仲は相変わらずだ、しかし俺に負けて以来当主であり父、ハロルドの発言権や威厳は弱まってしまい、俺に強く出る事は無くなった。そして出来のいい兄こと、アイン・サーペンタインだが……多忙故か一度も会えなかった。
と言うか、そもそも喧嘩の件で兄を呼び寄せて、俺にぶつけて躾けても良かったのではなかろうか?それをしないのはまだ面子があるからか、心が折れたからか……。
そして母だが……絶賛浮気中である。この浮気に関してだが、俺が父に全て暴露しても良いが、まだその時ではない。設定集にも、何よりメインストーリーに絡んでくる話の為、その時が来たら暴露するか、母を利用する為の手札とさせて貰う。
時間は残り2年……運命の時が迫る中、ある日の事……いよいよ本編が近づいているその兆しを俺はその身で知る事になった。
ーーー
「は?お見合い?」
「そうだ、兄が当主となる以上、貴様の任は他家の婿となり、サーペンタインの血を絶やさないようにする事だ」
朝食の最中、唐突に父から振られた話に俺はキョトンとした。こんなイベントあったか?そもそも、そんな色恋イベントは主人公たるナルの専売特許だろ?俺は屋敷のシェフ手製のサラダ(ブロッコリー、茹でササミ、トマト)を食べながら、またぞ知らないイベントを踏んだかと記憶を掘り返した。
そして主人公以外にそんなイベント無かったなと記憶に覚えが無いので、まぁ貴族社会とやらのしきたり然り、血統を繋げる義務もあるので嫌とは言えないだろうと、俺は話を聞く事にした。
「あの、それは今から結婚して婿入りをと言う訳で?」
「馬鹿め、結婚は18からだ、此度はお見合いをして面通しして、互いに良ければ婚姻を結ぶ流れだ」
あ、そうなんだ。確か絆値が最大でヒロイン達に指輪渡したりとかできるから、第一章の入学編ストーリー時点で、フリクエ周回から結婚RTAなんてネタがあったし、勘違いしているなと、俺は髪をかいて誤魔化した。
「はぁ……で、相手は?」
「同じ子爵家のファラウド家、その長女のセリス・ファラウドだ」
「はぁ、セリス・ファラウドねぇ……」
父から聞かされた名前、それを聞いて俺は誰だったかなと『賢者無双』のキャラクターを思い出していき……。
「いやメインヒロインじゃあねぇか!?」
「ぬおぉお!?どうしたいきなり叫んで!!」
まさかまさかの、メインヒロインとのお見合いに、俺はメタな事を叫んでしまった。
セリス・ファラウド……この『賢者無双』シリーズのメインヒロインであり、主人公が最初に街の悪漢から助けて出会う少女。水魔法、そこから派生した治癒術の専門家……ステージクリア報酬ユニットでありながら、上から2番目のレアユニットで『とりあえず回復は私をパーティに入れときなさい』と、別属性編成時にも候補に上がるキャラクターだ。
しかし何故だ?どうして彼女とのお見合いなんて唐突に出てきたんだ?俺は食後事実に戻り、そんなイベントや場面があったかどうか、記憶を辿って思い出そうとした。だが覚えが無い……やはり俺のやらかしで、ルート変化が生じたか?そう思って考えたくもないと、現実逃避に片足を踏み込みかけた時……魔法学園編でのギニスくんを思い出した。
「あー……あれか、無理矢理引っ張った時の台詞、決闘前の……」
それはギニスくんと主人公ナルの、決闘に至る場面……俺ことギニスくんは、入学試験で振るわなかったが、セリスとナルはトップ勢となり、クラス分けで特別クラス入りする。その折、ギニスはナルと仲良くしているセリスを見て腹を立たせ……。
『お前は俺の婚約者だろうが!』
と、叫ぶシーンがある。これはただ、頭のおかしくなったギニスが、ナルからセリスを引き離そうとした出まかせかと思っていたが……成る程、お見合いしていたのかと俺は設定集に無い事実に直面した事に感動すら覚えた。
その後セリスは決闘により救われた為、お見合いはそもそも失敗し、婚約自体無かったがあたかもしている様にギニスくんは嘯いたのだろう。哀れだ……本当に。
そうかそうか……お見合いか……とりあえず波立てないように不成立を目指さねばなるまい。まぁそもそも、この水瀬光太郎享年25歳……生まれてから死ぬまで恋愛経験無しの童貞だから、まず失敗するだろう。
「じゃあとりあえず……あちらの顔も立てなければなりませんから、やりましょう」
「貴様からそんな配慮のある言葉が出ようとは……日取りは一ヶ月後だ、それまで正装を新しく仕立てておけ」
とりあえず今後の関係と、ストーリーの辻褄を合わせる為、俺はお見合いを受ける事にした。
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