第11話 祝宴会の前

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 最後の方を大幅に修正しました。

 ストーリーを展開する上で修正が必要と判断したので。

 申し訳ありませんでした。

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 それから数日後、俺は家にやってきた礼儀作法の講師にマナーを徹底的に教え込まれた。

 見たところ40代ほどに見える女性の講師に手取り足取り、それはそれはもう厳しく教えられた。

 最初に教わったことは、貴族としての歩き方だ。

 講師曰く、俺は歩き方がなっていないらしいとの事。

 俺のやや猫背な前傾姿勢の歩き方は、どうやらお貴族様らしくないらしい。

 前傾姿勢はいつ戦闘が起こったとしてもすぐに戦闘態勢に入れるようにと、こうしているのだが……どうやら彼女は気に入ってくれなかったようだ。


「いいですか、貴族たるもの爪先まで見られていると思ってください。そんなはしたない姿勢はあなた様には似つかわしくありません」


 と、そんな事を言われた。

 ちょっとショックである。

 

 頭の上に本を乗せ、歩く。

 最初は1冊から始まり、最終的に5冊まで増やしていく。

 そんな事を日常生活を送りながら続ける。

 食事をする時も、散歩するときも。

 一般的に、姿勢の矯正や、正しい姿勢を覚えるためにそう言ったトレーニングが一般的らしい。

 最初はグラついて本を落としてしまったりなんてことがあったが、すぐに感覚をつかんだ。

 言語化すると難しいのだが、体軸を強く意識するとうまくいったのだ。

 案外俺にもお嬢様としての才能があるんじゃないか?

 なんて言うと、バッサリと、


「こんな事は基本中の基本です」


 なんて切られてしまった。

 全くお手厳しいものだ。




 そんなこんなで昼間の間は礼儀作法を教わる、夜の間は魔導書を読み漁るという生活を続けた。

 

 実はブランが森に入ったあの日から、1年近く魔導書を読み続けているのだが、この頃には中級魔法を粗方習得し、上級魔法にも手を付けていた。

 時間はたっぷりあった。

 なにせお嬢様というのは基本的に暇なのだ。

 別に仕事があるという訳でもないし、唯一の仕事ともいえる学業も、別にやる必要はなかった。

 算術や科学は暗殺業に必要であったためそこいらの人間よりは詳しいつもりだ。

 実際、家庭教師に問題を出してもらったらすべて正解していた。

 だから、そういったお貴族様としての基本的な学業よりも魔導を学びたいと父親に言ったら、驚きながらも「お前がそうしたいのなら好きにしても良い」と言われたのである。

 あ、ちなみにブランは算術や科学といった学問が苦手らしく、日々ガリガリ勉強しているぞ。


 そんな感じで時間を持て余した俺は魔導書を読み漁ると当時に、この身にかけられた呪いについて調べたりしていたのである。

 

 しかしならがら、ここ最近深刻な問題も発生していた。

 それはコルセットを着ている時だった。

 いつも通りの時間、いつもの様に、いつも通りのサイズを装着していると、うまく着ることができなかったのだ。

 つまるところ……実に認めたくない事実なのだが……俺は太ってしまっているという事らしい。

 不味い事態だ。

 普段から健康のためにと散歩はしているのだが、本格的な鍛錬は魔導の習得にかまけていて行えていなかったのだ。あと、いささかペレーの料理を食いすぎた。

 まあ、外から見れば気づかない程度の変化だろう。

 現にペレーに聞いてみると、


「別に気にならないレベルですよ?」


 なんて言われた。


 しかし、違うのだ!

 暗殺者として、闇の世界の住人だった身として、あまりにも屈辱的!

 それに、お嬢様たるもの爪先まで見られてると講師の人が言ってた!


 これは……痩せなければ!!!

 そう心に決めたのだった。 


 ちなみに、この後「お嬢様にも普通の女の子らしい悩みがあるんですね、可愛らしいです、ふふふ」なんて笑われてしまい、こちらもまた別の次元での屈辱感を覚えた。


 という訳で本来は誕生日パーティーが終わったら本格的な鍛錬をしようと思っていたのだが、予定を早めてすぐにでも始めることにした。


 ただ、以前までの暇な時間を持て余していた日々とは違い、今は割と忙しい。

 魔導に充てる時間は絶対に外せないし、礼儀作法の習得に充てる時間も外せない……。

 日中に礼儀作法を学び、夜に魔導読み漁っている現状、もうこれ以上鍛錬に充てる時間はない。

 じゃあどうするか?

 答えは簡単だ。


 寝なければいいのだ。


 そう、寝なければいいのである。

 睡眠は一日の時間の3分の1も喰っているのだ。

 その時間があればもっとできることが増える。

 時間の流れは公平で、等しい。

 寝る時間と鍛錬の時間の価値は等しくないというのに、どうしてわざわざ睡眠時間を取らねばならないのだ?

 どうしてもっと早く気付かなかったって感じで目から鱗だ。


 そんな訳で俺は試しに実験として睡眠を我慢してみた。

 まあ、うん、結果は分かりきっているが2日目あたりからかなり辛くなってきた。

 暗殺者として睡眠欲に抗う鍛錬は積んできたのだが、それでも日中のパフォーマンス低下は避けられない。

 素直に睡眠を我慢するのはうまくいかないという事が分かった。

 当たり前ではあるのだがな。

 

 まずは分かったことをまとめよう。


 1,肉体的な疲労が取れないこと。

 2,脳の疲労が取れないこと。

 3,精神的に疲労してしまうこと。


 えーっと、3つ目の問題は気合でなんとかできる。

 しかしながら、1つ目と2つ目の問題はどうしようもない。

 なぜならば物理的な問題だから。

 マテリアルの問題はスピリチュアルでは解決できんのだ。

 困った問題である。

 しかしながら、この問題はすぐに解決した。


「こうして……こうして、こう」


 手を胸に当て、先日覚えたばかりの中級回復魔法を発動する。

 シュワシュワとした淡い光が全身を包み、疲労が癒えてゆく。

 回復魔法の効果は自身の細胞を癒す効果を持つ。

 文字通り細胞に溜まった乳酸やらなんやらを消し去るのだ。

 

 これで1の問題は解決だ、 

 

 しかしながら、残念なことに2の問題は解決しない。

 脳の構造は複雑すぎて魔法では手を付けられないのだ。

 だから現状、回復魔法ではどうしようも出来ない。


 まあ、当然この解決策も考えたさ。

 考えつくまでに少々時間がかかったのだが、右脳と左脳を半分ずつ眠らせるという方法だ。

 ちなみに、どっかの海洋生物がこの手法をとっているらしく、そこからこのアイデアが湧いてきたわけである。

 一つ問題があるとすれば思考がおぼつかなくなること。

 だが、行うのはただの筋トレだ。

 肉体を追い込むだけの作業に脳を使う必要があるだろうか?

 いや、そもそも変な雑念が出るため脳を使わないほうが良い。

 だから右脳と左脳を交代して眠らせるという方法はこの場合において最適解なのだ。


 そんな訳で、俺は日中は礼儀作法を教わり、夜は魔導書を読み漁り、寝る時間に肉体的な鍛錬を積むという新たな日課を始めた。

 鍛錬の内容は、具体的には剣を3時間ぶっ通しで振り続け、3時間走り続けるというもの。簡単な内容なのだが、途中から体が限界を迎えてぶちぶちと筋繊維が引きちぎれるという地獄みたいな痛みを伴うぞ。

 まあ、その甲斐あって一週間もすれば、肉体が引き締まってきて、前まで着ていたコルセットも着れるようになった。

 あと、体幹も良くなってきて姿勢が良くなってきたのか、礼儀作法の講師に「エレガント」と褒められた。

 ちょっと嬉しかったのは内緒だ。


 ちなみに、ペレーや家族にはこの事は秘密にしている。

 だって娘が夜な夜な起きだしては筋トレを始めたと知ってみろ、ドン引きするに決まっているじゃないか。

 そんな光景が簡単に思いついたので、家族には黙っていることにした。



 そんな感じで、数週間が経過した頃、ついにパーティー当日を迎えた。

 この日もいつも通り夜な夜な鍛錬を行い、朝日が昇るころにはベッドに戻った。

 目を覚ましたふりをすると、そこにはいつも通りペレーが。

 

「お嬢様、今日はパーティーの日ですよ」


「……そうですか」


 ついにパーティーの日が来たようだ。


 この一年間、俺は魔導書を読み漁ると同時にこの身にかけられた呪いについて調べていた。結果わかったことが一つある。

 それは、現状ではどうしようもないという事。

 この呪いはどこまでも複雑に構成されていた。

 最初はそこまで複雑に見えなかったのだが、この時代の魔導理論を知れば知るほどこの呪いは相当精密に構成されていることに気づいた。

 今の俺では呪いをかけた本人を殺して解術するという方法以外でこの呪いを解術するにはいささか知識不足だったのだ。


 だが、今日開かれるこの祝宴会は多くの人間をこの家に招く。

 同時にエゲレアに好意を抱く人間、悪意を抱く人間もまた招くことなる。

 つまりは、だ。

 この体に呪いをかけてエゲレアを暗殺しようとした人間もまた、この呪いを一時的に抑え込み生きながらえた俺を暗殺する機会を得るのだ。

 すなわち、直接この呪いをかけた人物に会えるかもしれない、という事なのだ。


「ふふふ、楽しみです今日のパーティー」


 この呪いをかけた人間を殺す。

 エゲレアの仇を討つために。

 そして、この呪いを解くために。

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