第10話 胸があああああああああああ!!!

 あれから1年と数か月が経過した。


 病の後遺症によりガリガリにやせ細っていたこの体も、いつの間にか標準的な女児程度の筋肉と脂肪が付いていた。

 実に良いことである。

 暗殺と戦闘においては、筋肉はあればあるだけいい。

 欲を言えば密度の高い筋肉はもっといい。

 体格は小さければ小さいほど隠密行動がし易いからな。

 それに、これくらい調子が戻ってきたのならば鍛錬を始めてもいい頃合いだ。

 その内本格的にこの体にも鍛錬を課そうと思う。

 なにせ調子が戻ったとは言え、まだまだこの体は貧弱だからな。


 まあ、しかしながら一方で悪いこともある。

 栄養状態が良くなってきたのか胸が膨らんできてしまったのだ。

 自分では気づかなかったが、最近ブランがこちらの胸をちらちら見てくるなー、と思ったら胸が膨らんできていた。

 ったく、ガキめ。

 中身は男ぞ?

 きっと、知ったら絶望するだろうな。

 7歳の少年にはまだ早すぎる話なのだから。


 とまあ、そんな弟の淫らな目線はともかく、実は胸関連の話でもっと嫌な話がある。

 その……なんとも恥ずかしくて声を大にできない話なのだが……胸が大きくなったことにより服と、その……乳頭が擦れて痛いのだ。

 いや、ね、冗談言っているように聞こえるかもしれないが、割とガチで頭を悩ませる問題なのだ。

 冗談抜きで痛いんだよ、乳首が擦れるのは。

 男に例えるなら、下着を履かないで出歩く感じだ。


 最初はペレーや家族に言い出すのも恥ずかしかったので黙っていたのだが、日に日に痛みが無視できないほど大きくなっていく。

 流石に我慢できなくなってしまったので、こうして今、同じ性別であるペレーに相談しているのだ。


 

「そのー……、えーっと……最近、あの……」

 

 ペレーに向き合う。

 こちらの真剣そうな表情を見たペレーは何かを察したのか、黙ってくれている。


「……」


「実は……胸が……」


「なるほど、つまりは、服が胸に擦れて痛いということですね」


 おお!

 伝わるか!

 流石はペレーだ、言いたいことがすぐ伝わって話が早い。


「……でも、かなり早いですね。お嬢様は9歳でしょう?早くても10歳くらいから膨らんでくるのが一般的なのですが……とても早い方ですね」


「そうなのですか?」


「ええ、かくいう私は11歳くらいから胸が膨らんできましたし」


 そういって彼女の豊満な胸を見せてきた。


 ふむ、つまりは俺の発育はかなり早いという事か。

 うーむ、なるほどなるほど?

 言い換えると成長がほかの人間に比べてかなり早いという事なのでは?

 要は体格もほかの人間より早く大きくなるという事。

 まあ、医学的な根拠があるかどうかは知らんが、ヨシ!良いことだ!

 

「なるほど、素晴らしいことですね」


「……え?素晴らしい事?」


「ん?だって、早く成長できるのでしょう?これほど良いことがありますか?」


「……ええ?普通、自分の成長が周りと違う……みたいな感じで悩んだりすると筈なんですけどね……」


 ペレーは苦笑いした。

 

「──まあ、丁度いいです。もうすぐパーティーですし、下着と一緒に服も選びましょうか」


 そして、俺はペレーに手によってあれこれ服を着せられた。

 まるで着せ替え人形の様でなんとも嫌なのだが、ペレーの発言に気になる事があったせいでそちらを考えていた。


 パーティーとはなんだ?

 いや、パーティーが何かはわかる。

 上層階級の人間が夜な夜な行うあれだろう。

 しかしながら、何のパーティーなのだろうか?という話だ。

 

 そんな事をペレーに服を着せられながら聞いてみると、


「パーティーですか?ほら、お嬢様の10歳を祝う誕生日会ですよ」


 ペレーの言うところによると、俺はもうすぐ10歳の誕生日を迎えるらしい。

 曰く5歳、10歳、15歳の誕生日は節目なので特別との事。

 大規模なパーティーを催して盛大に祝うのが貴族の慣習だ。

 

 屋敷の中庭と大広間を開放し、そこで祝賀会を開く。

 領民や、婚約相手、はたまた他の貴族が招かれる。

 パーティーというだけあって、当然立ち飲み形式なのだが、ダンスも行われるらしい。


 ハイルカイザー家は伯爵という事だけあって、第二級貴族だ。

 つまりは、公爵の次に偉いという事。

 だからそれはそれはもう大規模に祝うのだ。

 

 まあ、そのせいで一番の迷惑を受けるのは俺だった。

 ハイルカイザー家の一人娘という事で、外向きには良家の娘を演じなければならないのだ。

 故にこうしてペレーにパーティーに出席する服を選んでもらっているという訳である。


 しかし……それにしてもダンスがあるのか。

 困ったな。

 俺、踊れないぞ?

 人を殺す方法は知っているが、優雅な踊りなど知らんのだ。

 なんならワンステップで相手の男の足を打ち抜いてしまうかもしれない。


 なんて事をペレーに遠回しに言うと、


「大丈夫です。礼儀作法を教えるコーチを雇っていますから」


 なんてニッコリ笑った。

 まあ、それならば安心である。


 ちなみに、その日一日中、俺はペレーの着せ替え人形にさせられた。

 ゴテゴテに装飾されたおパンツとおブラジャーを指さして、

「どうして男に見えない所でこんな物を着なければならないのですか?それならいっそパンツとブラジャーだけになって見せつければいいじゃないですか」

 なんて言ったら、白い目で呆れられた。

 どうしてだろうね?

 オレニハワカラナイヨ。

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