1章
case1.0 日常の変動は、唐突なものである
魔術が発展する前、それこそあなたが生きた時代の面影を残す街の中、あなたは、高等四節魔術である《コール・フォトン・シールド・
探偵は、後ろから一節固有魔術の《指銃速射》であなたを援護する。
不可視の風の刃を《フォトン・ブラスト》で相殺するが、大きく開かれた顎があなたを呑み込まんと迫り来る。それを探偵が二節固有魔術の《指銃改・一式》であなたを撃ち抜かないよう弾道を曲げ口内を蹂躙することにより無理矢理止める。
それを見て術式を《コール・フォトン・ブレード・スタートアップ》へと組み換えたあなたは、蛙と人の上半身を無理矢理接合したような巨大な魔獣を光子の剣で二つに切り分ける。息の根を止めたことを確信したあなたは、剣の展開を停止し、振り返る。
「お疲れ、助手。危なっかしいところはまだあるけど……うん、いい感じだ」
あなたへ向けて探偵はそう言うが、あなたはまだまだ実力が足りない、と返す。事実、あなたは探偵の援護がなければ対等にも渡り合えない。今後も探偵におんぶにだっこでは迷惑をかける一方だ。
「低位の魔獣とは言え、単独撃破はそれこそ《記録者》の仕事さ。助手が気にすることはない。しかも僕が対人戦特化の魔術師として育てているからね。しょうがない。むしろ三ヶ月でそれだけ出来ていることを誇るべきだよ、助手は」
そうなのだろうか。いまいちこの世界が分かっていないあなたではあるが、魔獣に渡り合うことが過酷であることは分かる。
ソロモンの10の指輪の封印を解いたあの日、抑えられていた魔力も共に放たれたことにより、それを浴びた生物が変質した姿、それが魔獣だ。
魔獣には《本体》と《分体》が有ることが分かっており、こうしてあなたが対処しているのは分体の低位のもの。本体がどこに存在するかはそれぞれで異なり、今だ解明しきれていない
魔獣はあなたや探偵と異なり、無詠唱で魔術法則に基づく魔術を行使することが可能である上、通常の人間──それこそ《記録者》以外の人間に存在する魔力限界も存在しないことが研究により判明している。
無制限に行われる魔術と、通常の生物では考えられない身体能力で人間を殲滅せんと襲いかかる。それが魔獣である。
とは言え、低位分体であれば、記録機関立の魔術学校の高等生であれば簡単に屠ることができる。つまり、あなたは高等生以下である。この世界では17歳とは言え、前世も足してしまえば軽く越える年齢のあなたは微妙な悔しさを覚えているのだ。
「依頼が来ないワケって探偵とは何なのかってくらいにはこうしてドンパチしてるからなのかなぁ。でもこれ記録機関からの依頼だしな……」
ため息をつきながら魔獣の処理が完了した旨を電話で伝える探偵。あなたは、それ以前に資料作成をもっときちんと行った方が良いと、心の中でぼやく。何を隠そうこのポンコツ探偵は、どんなものでも資料を作らせれば壊滅的なセンスを披露するのである。
しかし、あなたが手伝うと言っても、これ以上負担は掛けられないと断られるのがいつもの事なのである。いっそ経営顧問でも着いてくれれば楽なのに。
一丁前に戦闘能力を持っているのも探偵としての依頼が舞い込んでこない理由である。どちらかというとこうした魔獣の処理だったり、反社会的勢力の鎮圧に駆り出されるといった依頼の方が圧倒的に多い。まれに猫探しなんて平和なものも有りはするが、マクスはもっと探偵らしく推理して事件を解決したいらしい。変なプライドだ。
「疲れたなぁ、もう……うん? 助手、ちょっと来てくれ」
あなたはマクスに呼ばれ魔獣だった物の近くに駆け寄る。
「こんなもの、今まであったかな? 」
そう言って二つに切り分けられた魔獣の体内にある宝石のようなものを指差す。
確かに、魔獣と言えば百害あって一利無し。
「見つけなかっただけ、と決めるのは早いけど…まあ、《記録者》なら知ってそうだし。持ち帰ってみるかい? 」
少し悩んだ後、あなたは首を縦に振る。それを見たマクスは手袋と短刀を取り出し、丁寧に宝石を切り取っていく。数分した後、赤紫色に発光する宝石が探偵の手元にあった。
「さて、じゃあ帰ろうか。助手」
宝石をコートのポケットへとしまった探偵に連れられ、あなたはこの地を後にした。
◆◆◆◆
事務所のベルが鳴る。あなたは仮眠を終え、玄関へと向かう。客が来るなんて珍しいな、と飼い主に聞かれれば銃弾が飛んでくる言葉をつぶやき、ドアを開ける。
「あの、えっと……探偵さんは居ますか? 」
目の前に存在したのは齢15歳程度に見える女性だった。あなたは予想外の来客に苦笑しながら招き入れようとする。
「えっと、その……ごめんなさい! 《
あなたは咄嗟に《
舌打ちをしながら、あなたは《
足を払い、腕を捻り上げ、地面へと叩き付ける──寸前で静止させる。
そして、《コール・
「痛い痛い! ギブ! ギブですって! 」
あなたはパラライズをレジストされたことに驚きはしたが、次の策として手刀で彼女の意識を奪おうとする。その数秒前に場を制する声がした。
「助手……そんな趣味を持ってるとは思わなかったよ。うん」
衝動的に《フォトン・ショット》を撃ちそうになったがこらえ、声のした方向に顔を向ける。
あなたは、探偵に用があるらしいという旨を伝え、拘束している女性を起き上がらせる。
「そうなのかい? ……じゃあ、答えないとね。もしもーし、返事はできますかー? 」
「えっと、はい。できます。あの、突然で申し訳ないんですけど──」
「待った、外で話すよりはウチで話した方がいい。助手」
はいはいと承諾したあなたは一足先に事務所へと戻り、あなたと来客用の珈琲と菓子を用意する。探偵にはオレンジジュースでも飲ませておこうと、冷蔵庫から取り出す。
あの探偵、珈琲飲めないのも威厳とかに関わるのではないだろうか。
閑話休題。用意が出来た旨を《メール》で伝え、探偵と依頼人を呼ぶ。
「お疲れ助手。さて、一先ず自己紹介から。僕はマクス・ヴァレト。探偵としてこの魔術都市で生活している。こっちは助手」
どうも、こっちの方です。とあなたは名乗る。
「よろしくお願いします、マクスさん。助手さん。私はアガーテ。アガーテ・シアスです」
「──シアス、シアスねぇ……」
探偵が何やら意味深に呟くが、それは置いておくとしよう。アガーテ、そう名乗った女性は若干気まずそうにこちらを見つめる。
「あの、本当にごめんなさい! どうしても私は──《原核》を手に入れなきゃ行けないんです!無理なお願いだとは思ってますけど、あなたが持っているその《原核》を私にください! 」
原核。聞き覚えのない言葉にあなたと探偵は首をかしげる。心当たりは──なくはない。探偵もそうだったようでポケットの内側を探る素振りを見せ、魔獣の体内にあった石を取り出す。
「これ、かい? これ以外に心当たりはないんだけど、どうだろう」
「あ、ちょっと待ってください。……そうです、これです!」
嬉しそうにするアガーテ氏。
「んー、どうしようか。助手。判断は君に任せる」
判断とは何か、なんてことは聞くまでもない。《原核》をアガーテ氏に渡すかどうかだろう。あなたは──
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