第42話 便利な相談相手
同級生に連絡を取るのは諦め、何か別の方法を探すべくタブレットの電源を落とそうとした時、画面端に気になるアプリが入っているのを見つけた。
「なんだこれ……?」
アイコンは真っ黒で、アプリ名は表記されていない。バグだろうかと思ってタップしてみると、画面が真っ白になった。
慌てて元の画面に戻ろうとするも、一切の操作を受け付けなくなってしまった。
「やべ、壊したか? 変なウイルスに感染したわけじゃないよな?」
叩いたり、振ったり、逆さまにしたりしてみる。それでも画面が元に戻ることはない。
「どうすればいいんだこれ? うーん……機械は苦手なんだよな……」
『The Alternative to Humanity────起動しました』
「うわっ⁉」
タブレットを睨んで唸っていると、突然声が聞こえた。機械的な女性の声だ。驚きすぎてタブレットを床に叩き落としてしまった。
「……今なんて言った? オオタ? ヒメジ? ってか画面は⁉」
慌てて画面を確認するも、ヒビは入っていなかった。相変わらず真っ白な画面を映し出したままではあるが。
「危ない危ない。こういうタブレットって高そうだし、弁償なんてことになったら一大事だからな。にしても、今の音は……?」
『当端末の内臓カメラを掌握完了。起動者の確認を完了。ご用件をお承りします』
また何か喋ってるぞ。これはひょっとするとアレか? AIってやつなんじゃないのか?
最近のは普通に人間と会話が成立するくらい進化していると聞く。学校のタブレットだし、教育の一環でそういう機能も内臓されているんだろうか。
「あぁ……えっと、もしもし? 俺の声聞こえてる?」
『内臓マイクの掌握完了。起動者の声を確認』
「おはよう」
『現在時刻は午後五時三十六分。その挨拶は適切ではありません』
「へぇ~ちゃんと言葉を理解できるんだな。なんかちょっとウザいけど」
これは面白いな。反応も早いし、本当に人と話しているみたいだ。
「会話ができる以外にはどんな機能があるんだ?」
『人間にできることなら何でもできます』
「……それはまた大きく出たな。なら一つ悩み事を解決してくれないか? 友達がとある女子とお近づきになりたいみたいなんだけど、その相手が飛び切りの美少女でライバルが多いんだ。そこで少しでも仲良くなるためにチャットを始めたいらしいんだけど、どんな話題から始めればいいと思う?」
『ネット上に類似する質問が複数確認できました。それらに対する回答をピックアップして表示します』
真っ白だった画面に辞書みたいに膨大で細かい文字列が表示される。
「うわああああ何だこれ? これ全部俺の相談への答えってこと?」
どうやらネットから大量の情報を引っ張ってきたらしい。一部を読んでみると、今流行りのドラマだとか、学校の業務連絡だとか、チャットを始める話題に使えそうなものが散見される。
「おお、これは便利だな。ちょっと情報量が多すぎるけど」
『シチュエーションを限定する情報が少なかったので、必要だと思われる情報を絞り込むことができませんでした』
「なるほど、それは確かにそうだ。でも、その割にはちゃんと高校生の男女に当てはまりそうな答えが中心になってるけどな」
『あなたが高校生ほどの年齢に見えたので、そのご友人もそうなのだろうと推測したまでです』
「え、すご。そんなこともできるのかよ」
賢いなぁ、流石はAI。もう困ったら全部こいつに聞けばいいんじゃないのか。
「そうだ。じゃあデートプランを考えることもできるか?」
『デートプラン……?』
何でもズバズバ答えてきたAIが、言葉を詰まらせる。
『私とですか……?』
「違えよ。タブレット持って、一人で喋りながらデートスポットを巡るのか? それは流石に虚しいだろ……」
『……この端末ではできないこともあると。そういうことですね』
これはボケているんだろうか。ひょっとしてAIジョークなんじゃないのか?
真顔でボケるせいでふざけているのか真剣なのかよくわからない奴とかたまにいるが、こいつはその極地だな。
「相手は俺の同級生で、場所はここから一時間で行ける範囲くらいで。何かいいデートプランを見繕ってくれよ」
『わかりました。位置情報取得。地図情報取得。ネット上のデータから、高校生のデートプランとして相応しい計画を構築中……』
よしよし、これで上手くいきそうだ。一時はどうなることかと思ったが、計画を立てるまでは問題なさそうだな。後はデート当日さえ乗り切れば万事解決だ。
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