第27話 一抹の不安
ポカンとしていた天塚を放置し、俺はその場を離れた。
上級天使というのは人間にとって最も理想的な姿をしていると赤牙が言っていた。つまり天塚の美貌は上級天使の特性によるものだということだ。人間に愛され、信奉されやすいようになっているのだろう。
だから天塚は自分が美少女であることを理解していたし、それが取引材料になると考えていた。天使が人間と交際するなんて、恐らく相当な切り札だったはず。それを切ったにも関わらずアッサリ断られれば、あれくらい驚くのも無理はないか。
ただ、彼女は一つ勘違いをしている。
どれだけ容姿が優れていようが、そもそも恋愛に興味がない相手には効果がない。俺が求めるのは平穏だけだ。天使との交際などむしろ逆効果である。
グラウンドに出ると、平がしかめっ面で待ち構えていた。
「今、天塚さんと喋ってなかったか?」
「喋ってたけど……それくらいいいだろ?」
「別にいいけど、約束は忘れてないだろうな? 僕が天塚さんと付き合えるように協力してくれよ?」
その天塚に打算ありきとはいえ、ついさっき告白されて、振ってきたなんてこいつに教えたらどうなるんだろうな。本気で殺されるんじゃないか。
「わかってるよ。協力はする。個人的には望みはないと思うけどな」」
天塚とのキスがもう赤牙にバレてしまったので、協力を約束してまで平を口止めした意味がなくなってしまったが、今さら撤回もできないだろう。俺は確実に失敗する挑戦に意味もなく協力せねばならなくなってしまったわけだ。
「いけそうかどうかで決めるんじゃないんだよ。重要なのは愛だ。愛してしまったのならそれがどれだけ望み薄だろうが挑むしかないだろ」
本人がこう言っているので仕方ない。どうせ無理だとは思うが、最後まで付き合ってやることにしよう。
そんなことよりもだ。俺にはもっと重大な問題がある。
俺の証言を得られなかった天塚は、これから自力で赤牙が吸血鬼である証拠を集めようとするだろう。その最大のチャンスが、これから始まる体力テストだ。
力加減が下手で、よくとんでもない動きを見せる赤牙が、ここでボロを出す可能性は非常に高いと踏んでいる。
(赤牙の奴……大丈夫かな。上手くやり過ごせればいいんだけど……)
そんな考えが頭をよぎり、俺はすぐさま首を振る。
俺が赤牙に肩入れする理由なんてない。むしろ天塚に倒してもらった方が都合がいいじゃないか。だったら俺の預かり知らないところで勝手に争えばいい。
なのになんで俺は赤牙の心配なんかしているんだ。どれだけ可愛かろうが、どれだけ俺に迫ってこようが、所詮は吸血鬼なんだ。俺の血が目当てで、人の心なんかない怪物だ。放っておけばいいだけだろ。
「なんだ風見。ボーっとして」
気付けば、平が顔の前で手を振っていた。
「何とか言ってくれよ。僕が格好いいセリフを言ったんだからさ。そんな黙られたらまるで僕がスベったみたいじゃないか」
「それは間違ってないと思うけど」
「……まあいいや。とにかく早く行こうぜ。今日は良い記録出して、天塚さんに良いところを見せてやる」
体力テストに向け、気合充分の平。それに対して俺は、どうしても赤牙と天塚のことが気になって仕方がなかった。
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