熱くなれ!
普段のオリヴィエだったら、根拠のない計画はそうやすやすと承認しない。
だが――――今は、何の根拠もないまま、クラリッサにすべてを託した。
時間がない、というのもあるが、それ以前に相手が相手だけにどんな作戦だろうと完璧に対処できると言いきれないことは初めからわかっている。であるならば、ああだこうだと言っている暇があれば、やらせてやるのが合理的だ。
『出力上昇――――統合シーケンス開始』
オリヴィエの権能「梟の目」をフル稼働し、暴走するブレイズノアの温度上昇を抑え込もうと試みる。
指数関数的に温度が上昇していくブレイズノアの温度はすでに太陽すら超えようとしており、オリヴィエとサイブレックスによる空間隔離がなければ、地球の気温があっという間に上昇し、常夏の惑星へと変貌していただろう。
(宇宙最強の力は『複利』……とはよく言ったものね。乗数的な温度上昇が続けば、1テラケルビンなんてあっという間だわ。このままでは、いずれすぐに抑えきれなくなる)
ブレイズノアの温度上昇は、いわゆる倍々ゲームのように「×2」が続く形で上昇幅が広がっていっている。まるで、どこぞの
『使いつぶすのはとても惜しいのだけれど、出し惜しみはナシね。どうせ失敗したら全部消えちゃうんだし、だったら少しでも有意義につぶさないと、ね』
オリヴィエはいよいよ最後の切り札を切った。
地球上――――エリア5にある「アークアーカイブス」に緊急接続すると、陽電子スーパーコンピュータおよび並列サーバをすべて稼働し、ブレイズノアを抑え込むためのリソースへと転換したのだ。
1年じゅう雪と氷に閉ざされ北の大地「フロストマキア」、その半分を占める凍てつく山脈の岸壁があちらこちらで崩れ落ち、中からビル十数階分の高さがある巨大な空調ファンが無数に姿を現した。
そして、それらが一斉にフル回転し、出力を上げたスーパーコンピューターの膨大な排熱を吐き出し始めた。
「な、なんだ……急にあったかくなったような?」
「むしろ……あつくね? こんなコート着てられるかっ!」
「雪が一気に溶けるぞ! 洪水に注意しろ!」
麓にある「ウインタードリームカントリー」においても、常に氷点下だった気温が一転して真夏のような暑さに様変わりしてしまい、そこに住む体幹性能の高い住人たちはてんやわんやすることになる。
アークアーカイブス内においても、コンピューターが並ぶ巨大な建物の内部がサウナすら生ぬるい灼熱地獄と化した。
幸い建物内は無人なので被害を受ける人はいないが、それでもオーバークロックで強制労働させられるコンピューターはたまったものではない。
この星の歴史を記録したありとあらゆる記憶媒体が、リソースを別に取られた上に熱暴走でメモリが摩耗し、消滅していく。
オリヴィエや竜たちが生きた今は亡き歴史、その貴重な情報が無に帰そうとしている。これでもしオリヴィエの命がなくなってしまえば、フロンティア以前の惑星の歴史はすべて消滅し、だれの記憶にも残らないだろう。
(それでも……過去が未来の糧になるのなら、喜んで捧げましょう)
こうして、オリヴィエが文字通り「持てる全て」を注ぎ込んでブレイズノアを抑えている間、クラリッサやサイブレックス、そして何とか頭脳を修復したシャザラックが最終手段を講じるために話し合っていた。
『――――なるほど、その使い方は盲点だった。どのみち、この星にはもう「暴君への戒め」は不要だ。最後は華々しく役目を終わらせてやろう』
『ご協力感謝します。私はリア様の力をお借りし「門」を開きます。それまでにどうか』
『問題ありません、高性能な私とマスターにお任せください』
オリヴィエが抑えられる時間はそう長くはない。
クラリッサの提案を受けたシャザラックはすぐに動き始めた。
『やれやれ、こんなことになるなら亜空間建造所を基地に併設しておくべきであったな。まあいい、何とか間に合わせて見せよう。サイブレックス、少し苦しいかもしれないが、我慢してくれ』
『承知しました、高性能な私にお任せください』
彼らが目を付けたのは、ブレイズノアの攻撃で大部分が損壊してしまった巨大衛星「ダモクレス」だった。
あの「神造巨人ヴァリス」を木端微塵に破壊したこのイオン砲は、いずれ復活するであろう暗黒竜王エッツェルに対抗するための切り札であったが、本来の役目を果たす前に力尽きようとしていた。
だが、幸いにも機能が完全に死んだわけではない。
サイブレックスがバーニア全開でダモクレスに向かうと、最後尾から内部に無理やり突入し、自らの体を動力炉に接続した。
『不明なユニットが接続されました』
サイブレックスがダモクレスのデータを強制的にハッキングしたことで、ダモクレスのAIが悲鳴を上げる。
『システムに深刻な障害が発生しています。直ちに接続を解除してください』
『すまないな、ダモクレス。すぐに楽にしてやるからな』
元はといえば、ダモクレスを設計したのもシャザラックだった。
自分が作り上げた機械は、彼にとってまるで我が子のようなものであり、機械が叫ぶ苦痛に、全身機械化してもなお残った彼の心が痛む。
それでも、人類のためにも、自分たちのためにも、成し遂げなければならない。
シャザラックは、ブレイズノアが破壊した小型攻撃衛星の残骸を素早く回収し、それを巨大な鉄の棒のようなものに組み立てていった。
果たして、彼らは星の、そして宇宙の崩壊を防ぐことができるだろうか……
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