「科学」の敗北
『驚いたわね……いくらタフな竜といえども、カリホルニウム弾頭連射や重力魚雷だけじゃなく、タキオンビームにまで耐性があるだなんて、もはや生物どころか、この世に存在する物質かどうかすらも疑問に思えてくるわ」
『まったくだ。こいつの体で戦艦の装甲を作ったら、さぞかし頑丈なものができるだろうな』
サイブレックスとシャザラックが好き放題ぶっ放した未来兵器の数々は、残念ながらブレイズノアにはほとんど傷を与えられなかった。
なかでも「タキオン」と呼ばれる超光速粒子のビームは、下手に扱うと地球を貫通する穴をあけかねないので慎重に運用する必要がある難物だが、それすらも平気で耐えているのは俄かには信じがたかった。
(けどそれ以上に不可解なのが、私の魔法はそこまで軽減されないっぽいのよね)
最新兵器が通用せずとも、オリヴィエは強力な魔法を使うこともできる。
未来技術の科学的知見を盛り込んだ魔法は、地上の魔術師たちが操るそれとはこらべものにならないほど強力で、おまけに燃費も非常によかった。
『星空魔術――反転:クリフォト』
『なんだかんだでこれが一番効くな。食らうがよい、アークディスラプター』
暗術と時空魔術を組み合わせることで、肉体を直接損傷させる魔法「クリフォト」と、シャザラックが解析の末最も効果があると踏んだ高威力の「雷」を発生させる兵器が、今までのグダグダは何だったのかと思えるほど、着実にダメージを与えた。
『ふん、おもちゃに頼ることをやめたか。結局、科学とはその程度の物よ』
とはいえ、ブレイズノアも黙ってやられているだけでは終わらない。
次の魔法を放とうと数秒間の詠唱に入ったオリヴィエに対し、ブレイズノアは手元に生成した超威力の火球をなんと瞬時にオリヴィエの死角に瞬間転移させ、あっという間に彼女の肉体を焼き尽くした。
オリヴィエの体はすぐに別の場所に再生成されるとはいえ、魔法の発動の邪魔をされるのは面倒だった。
『ほう……高エネルギー放射の直接転送による回避不能の攻撃か。さしずめ「火炎直撃砲」といったところか』
『こんな時に何をのんきなことを……サイブレックス、何をしているの。きちんとタゲを取りなさい』
『了解しました、マスター。そのようなわけで、高性能な私が相手です』
サイブレックスがすべての武装を一斉に射出すると同時に、手に持っていたフォトンセイバーを、急遽シャザラックが作り上げた超巨大な斬竜刀に換装した。
従来のサイブレックスの兵器ではもちろんブレイズノア相手にはあまり効果はないが、それは単にダメージが入らないだけで、実は衝撃によるノックバックは有効だった。
ほんのコンマ数秒、ブレイズノアの体がミサイルの爆発やレールガンの直撃で停止したすきを狙い、サイブレックスが身の丈を大幅に超える――――全長何と15m近く、重さに至っては20tもある超合金の塊が、ブレイズノアの体を狙いたがわず横薙ぎにした。
『ちっ』
さすがにここまでやられ放題で悪態をついたブレイズノアが、お返しとばかりに10万度の火炎ブレスをぶっ放した。
『無意味なことを。サイブレックスの装甲は技術の粋を結集した特別製。太陽のフレアにも耐えるのだから、竜のブレスごときでは…………えっ』
耐えるはずだった。少なくとも、理論上は100万度まで耐える設計になっているはずだった。
だが、驚くことにブレイズノアのブレスが、サイブレックスの関節部分数か所を焼き切っていた。今までいろいろありえないものを見てきたオリヴィエだったが、サイブレックスの装甲を溶かすなど、目の前で起きたとしても信じきれなかった。
一応、サイブレックスは部位が破損してもナノマシンで応急修理が可能だが、しばらく稼働性能が低下するのは避けられない。
『くっ、銀河最先端の科学力の装甲をもってしても止められない炎なんて、そんなのアリ?』
『マスター、警告します。現在、機体が原因不明の熱暴走状態に陥っています。また、マイクロブラックホールエンジンの出力に異常が生じています』
『なんだと!? まずい、すぐにチューニングのため後退するんだ! MBエンジンが暴走すれば、惑星どころかこの宙域自体が崩壊するぞ』
さらに悪いことに、ブレスを食らったサイブレックスが原因不明の熱暴走状態となり、放置すればエンジンのマイクロブラックホールが本物の、ブラックホールになっていろいろと終ってしまう。
『まあ、やはり人間どもの言う科学とは、その程度の物だったということだ』
『は……強がりを。サイブレックスの損傷修理は数分もたたないうちに終わるわ。あまり舐めた態度をとると…………』
『やれやれ、吾が言っているのはそういう意味ではない。いや、実際に見せたほうが早いか』
そう言いながらブレイズノアが何やら右手をググっと握りしめ、それをゆっくりほどくと―――――
『!! 射撃全力集中っっ!!』
『マイクロブラックホールを……生成した、ですって!?』
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