第十六話 シュナンの想い
圧倒的な脅威、圧倒的な恐怖の塊が目の前に迫る。
ゼルガーさんはもはや戦える状態ではない。こんなものにどうやって勝てというのだ。
化け物とかしたシュナンが詠唱を始める。
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――魔法つかうのかッ!
黒く光るの魔法の鎖が僕を捕縛しようと向かってくる、ファリンのそれとは大きさが違う。かろうじて回避するが、すこし掠り、吹き飛ばされる。その衝撃、威力。
――捕縛魔法のレベルではない。もはや、攻撃魔法だ。
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炎をまとった風が僕に直撃した。吹き飛びながら、防御した両腕の皮膚が焼けるのを感じる。
――これって、前にファリンに聞いた洗濯物を乾かすときに使う生活魔法じゃなかったか?
焦げ臭い両腕の痛みを我慢しながら、距離を取る。
――時間の問題だ。こんな化け物に勝てるわけがない。
諦念が思考を支配していく。
――ファリン……。ごめん。
ファリンが駆け寄り、僕の熱傷を回復しながら言う。
「私のわがままに付き合ってくれてありがとう。もう1つわがまま聞いてくれないかナ」
「ああ。この際だ。なんでも聞くよ」
「ごめんね。私、今からキミに……狂化魔法をかける」
「どうせ、このままだとやられる。いいぜ!」
「うん……ありがとう」
ファリンの涙が僕の手に落ちる――。
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詠唱が終わった途端に、体が焼けるような感覚に陥る。視界は徐々に端から赤黒く染まる。剣の柄を握り潰せるほど湧く力。ミシミシと体が大きくなる痛み。
――ああ。僕はこれから、アレみたいになるのか。
徐々に興奮している自分の心を感じる。肺からこぼれる息は、寒くもないのに白い蒸気となって口から漏れる。
黒い何かが心を支配していくと、意識はうっすらとしていく。ただ、恍惚感を感じている気がする。
地面が爆ぜる。多分、僕の踏み込みによるものだ。
頭上を炎が通り過ぎる。多分、シュナンの魔法を避けたものによるものだ。
両手に強い衝撃が伝わる。多分、シュナンを斬りつけた斬撃の反動によるものだ。
左手が重い。多分、シュナンの魔法に左手が捕まったことによるものだ。
左腕が熱く、痛い。多分、自分で左腕を切り落とした痛みによるものだ。
体中が温かい。多分、シュナンの返り血を全身に浴びたことによるものだ。
意識がはっきりとしていく。
多分、僕にかけられた狂化魔法が解けたことによるものだ。
左腕を欠損し、返り血に染まった僕は立ち尽くしている。
眼前には胸に僕の剣が刺さったまま横たわる人間の姿をしたシュナンがいた。
「ファリン……。少し話をしないか」
もう、動くことはできないシュナンがファリンに語りかける。僕は左腕を握り止血したまま立っている。
「シュナンさん……回復を」
「いいんだ。もう命が尽きるのは自分が一番わかっている」
「禁術……使うのは初めてだろう。やはり天才だなお前は……。」
「ファリン、お前が幼い時だ。私に懐き、いつも私の後を追いかけていたな」
シュナンは、遠い昔を思い出し微笑んでいる。その瞳は穏やかで優しい。
「本当の妹の様に思っていた。可愛かった。屈託のない笑顔や、私をシュナン兄さんと呼び駆けてくる姿。お前の成長を、お前の幸せを願っていた。法皇の息子として課された日々の厳しい修行も、お前の笑顔が癒やしてくれた。」
「私が成人し、最終洗礼を受けるはずなのが、法皇の命令で受けられなかった数年がある。法皇に問いただしたら知ったのだ。厄災の真実を。そして、他の御三家のファリンにその役目を負わす計画も……」
「ひたすらに考えた。お前が鍵守にならないためにはどうすれば良いのか、お前の修行の妨害や辛く当たったのもそのためだ」
「まさか、狂化魔法をかけた私が倒されるとはな……。こんなことなら、法皇を、父を殺してでも、私が鍵守になればよかった」
「ああ、どうにかならなかったものか……」
シュナンの瞳からは涙が流れている。
「シュナン兄さん……」
「ファリン……愛している。どうか愚かな私を許してくれ……」
シュナンの体は、硬化し、崩れ、塵となっていく。
「シュナン兄さん!」
ファリンの握っていたシュナンの手は、崩れ去った――。
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