第二話 盗賊急襲と父の手がかり

 盗賊たちが大きなサーベルを振りかざし、一斉に襲いかかってきた。最初の盗賊が頭上から斬りかかるが、素早く身をかわし、その隙をついて盗賊の懐に飛び込む。剣を一閃すると、盗賊は断末魔を上げて崩れ落ちた。

 

 次の盗賊が横合いから斬りつけてくる。僕は剣を交差させ、盗賊の剣を受け止めると、そのまま盗賊の剣を押し上げ、バランスを崩させた。その隙に、僕の剣が盗賊の喉元を濡らした。

 

 三人目の盗賊が背後から忍び寄ってくるのを感じ、アルムは背後に向かって回し蹴りを放つ。盗賊は吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。

 残る盗賊たちは、恐怖に目を見開いている。


 「な、なんだこいつ!やべぇくらい強いぞ」

「くそ、何者だ……」


 剣を構え直し、残る盗賊たちを睨みつける。盗賊たちは怯えながらも、包囲するように広がっていく。


 一瞬の静寂の後、再び盗賊たちが一斉に襲いかかってきた。僕は飛びかかってくる盗賊の剣を次々とかわし、反撃の剣を繰り出していく。

 

 激しい剣の交錯が続く中、僕の剣が盗賊の頭領の首に突き刺さった。頭領が崩れ落ちると、残る盗賊たちは恐れをなして逃げ出していく。

 

「や、やめだ! 逃げろ!こんな化け物みたいなガキがいるなんて聞いてねえぞ!」


 勝利の歓声が、村に響き渡った。

 

 ――ん?おかしいな、強く握った剣は手から離れない。


「阿呆め、力みすぎじゃ」


 振り向くと、剣を肩に担いだ師匠がニヤニヤとしている。


「ちょ、師匠、いるなら加勢してくれればいいじゃないですか!」

「お前さんがやられたら、ちゃんと儂が尻を拭いてやろうと思っておったわい。」

「僕が殺されてたらどうするんですか!」

「それは師匠として、ちゃんと墓を掘ってやるわい。そもそも、あんな雑魚どもがお前さんに勝てるわけなかろうが!誰が修行をつけてやってると思っとる!」


「アルム、よくやった! 村を救ってくれて、ありがとう!」

 エドガーが、アルムを抱きしめる。


 * * *


 筋肉痛の体を無理やり起こし、師匠の家に向かう。すれ違う村人は僕を見るなり褒めてくれる。感謝の言葉のシャワーを浴びていると、ムズムズと恥ずかしい気持ちになってきた。


「師匠、師匠のご指導のお陰で村を守れました。感謝してます」

「初戦にしては良かったぞ。」

 

 ――ニヤニヤしている。なんかあるなこれは。

 壁にかけてあった剣を手に取ると、僕に差し出した。


「この剣はな、わしの師匠から受け継いだ業物でな。現役時代にずっと使っていたものだ。お前さんにやるよ」

「師匠……ありがとうございます。実は前からこの剣、狙ってたんです。へへへ」


 師匠は微笑み、僕の肩に手を置いた。


「さて、その剣で儂と一試合してみるか。儂も今回は木の枝じゃないぞ」


 ――来た。ニヤニヤしてたのはこういうことか。

 その後、僕がボロ雑巾になったことは言うまでもない。

 

 三年の月日が経ち、僕は十六歳になった。

 

 * * *

 高位の法衣に身を包むファリンが修練室にいる。背筋がピシッと伸びた立ち姿は美しく、罵声を浴び泣いていたあの頃の姿からは想像できないほどだ。


 【Ω≈åß∂¬ƒ˚∆∑ø¬˚ß˚ƒå∑ø・ƒƒ∂˙ø˚å∂ƒ∆】


 詠唱するファリンの周りを青白い光が駆け回り緩やかなつむじ風が舞う。

 ――刹那、修練室にある百個の魔導蝋燭が一斉に強い光を灯す。


「おお。さすがファリン様」


 周りから感嘆の声が湧く。


「合格だ。よくここまで頑張った。残るは最終洗礼を受けるだけだ。準備をしておきなさい」

 

 かつて、ファリンに罵声を浴びせ、折檻し泣かせた男の神官は満足げに微笑んでいる。

 

 * * *


 僕は村の広場で木剣を持つ二人の若者を相手に細い木の枝で闘っている。


「でやーーっ!」


 頭部に向かってくる木剣の突きの先に軽く木の枝を合わせると、体を左半身にし捌く。そこに後ろからの斬撃を巧みに躱すと相手の頭をペシッペシッっと軽く木の枝で叩く。


「参りました」

「無理無理。勝てねぇって」


 圧勝で試合は終わった。


 ある日、村に一人の行商人がやって来る。彼が持っていたのは、一ヶ月後に教団都市マディアで開催される剣闘大会のポスター。

 ん?この剣は……。

 あ、この剣

 父さん!


「エドガーさん!これを見てください!」

「どうしたんだ、そんなに目を輝かせて」

「このポスターに写っている紋章の剣、これ、父さんの剣なんです!間違いない。僕の住んでた村の鍛冶屋さんが作った世界に一本の剣だって自慢してたんです」

 

 エドガーさんが眉を顰める。

 

 「もしかすると、これは君のお父さんからのメッセージかもしれないな。うーん……。マディアか。ちょっと遠いぞ。ここから歩いて三週間くらいか。」


 僕は教団都市マディアへ父さんを探しに行く決心をした。


「アルム、元気でね。とにかく無事に帰ってきてね……うぅ」。

「マーサさん、泣かないでって。ちょっと行ってくるだけだから」

「子供がいない私たちにとってお前は息子のような存在だった……」

「ちょっと!永遠の別れじゃないんですから」


 村のみんなに手を振り背を向けた僕の顔はぐちゃぐちゃに泣いていた。

 ――ははは。マーサさんの泣き虫がうつったのかな。

 でも、なんかこのままみんなに会えなくなるような予感が。

 心をよぎった。


 ***


 カルディアの街。

 僕のいたトリステ村と教団都市マディアの中間だ。

 交易が盛んな街だと聞いている。

 人……多いな。とりあえず飯だ。僕は、いい匂いのする店に吸い込まれた。

 

「すごい食欲だね。キミは、剣士院の人……かナ?」


 清楚な声が、背中から聴こえた。

 蒸した鶏肉を口いっぱいに頬張りながら振り返ると、そこには一人の少女が立っていた。


 ――それは、その出会いは、僕の旅が予想もしない方向へと動き始めた瞬間だった。

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