第13話 Side「トオル」
【まえがき】
今回はサイコなホスト『トオル』目線でのお話です。
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◇◆◇◆過去◇◆◇◆
ママは売女だった。
団地の一室。
ママはボクたちの暮らすそこに毎日知らない男を上げて組み合う、揉み合う。
わっしょいわっしょい。
「あんた、絶対声出したらいけんけんね」
ボクはずっと隣の部屋で体操座りをしてママと知らない男のお祭り騒ぎが終わるのをジッと待っていた。
「あ~、あんたが名前の通り透明になって消えてくれたらよかとに。ねぇ、
父はいない。
ママも父が誰かはわからないらしい。
ボクは肌も髪も真っ白。
学校に行ってもイジメられるだけ。
昼間は家に閉じこもった。
そして夜に街に出かけた。
海沿いの街。
潮風が気持ちいい。
広々としてて誰もいない。
ボクを受け入れてくれてる気がする。
闇の中にポツンと浮かぶ白いシミ。
まるでスイミーみたいなボクは、この世界の目だ。
この街には大きな寺がたくさんある。
なんでも中国から初めて仏教が伝わってきたのがこの街らしい。
でもそんな歴史ある寺もボクにとっては忍び込むためのアトラクションに過ぎない。
「すべての寺を踏破しよう」
ボクはそれだけを目標に、知らない男たちとわっしょいわっしょいお祭り騒ぎを続ける母の声を聞きながら、透明になって日々生きながらえていた。
そしてとうとう最後の寺に忍び込み終わった。
ふと思った。
「よし、死のう!」
ママからずっと言われてた。
「あんた今日も生きとったったい? ねぇ、死んでくれん? 私がこげなめにあっと~ともあんたのせいやけね? ねぇ、なんでまだ生きと~と? 殺してよか? それか……私ば殺してくれんかいな? もう疲れたとよ……」
ボクが死んだらママが喜ぶらしい。
じゃあ死のう!
昼間出歩けないボクはこの先まで生きててもしんどいだけだよ。
このまま海にドブン! して本物のスイミーみたいになるんだ。
あぁ……真っ暗な海の底で真っ白なボクがお魚さんたちに食べられて……。
そのお魚さんもいつかママに食べてもらえるといいなぁ!
「ブゥ~ン!」
ボクは両手を広げて夜道を駆ける。
ドンッ!
女の人にぶつかった。
その酒臭い女は転げて股を広げ、真っ赤なドレスの中の黒い下着が丸見えになっている。
「あら~、真っ白でかわいかぁ~。なんで子供がこげんところにおると~? あ~、こげな美少年やったらよかかもしれんね~……。ねぇ、私ば……殺してくれんかいな?」
ママと同じこと言ってる!
それからボクはその女──今では名前すら思い出せない──の家で。
女はホストにハマってるラウンジ嬢だった。
借金漬け。
やがて女は風俗に落ちて借金を完済した。
ボクがいることによってホストに通わなくなった結果らしい。
こうして売女な母に生まれたボクは、売女な見知らぬ女に育てられることになった。
借金を完済し終わってからしばらくして。
女は死んだ。
首吊り。
遺書には一言。
『ありがとう』
ありがとう?
ボクのおかげで死ねたから?
最近は言わなくなってたけど、前はずっと殺してって言ってたもんね。
ボクは汚物まみれの女の死体をスーツケースに詰めると、そのままガラガラと海まで引いていってドブンっ! してあげた。
キミは白くないからスイミーにはなれないけど、キミを食べたお魚をボクが食べてあげられるかもだから。
これからは週に一回はお魚を食べることにするね?
(さて……これからどうしようかな)
女の趣味でボクはピタピタのスーツを着て、美容室でジャギジャギな髪にされていた。
不思議とこのまま死のうって気は失せていた。
むしろ。
もっとたくさんの女の人を殺してあげたいな。
お礼を言って死んだこの女みたいに。
幸せにしてあげたい。
それか──殺されたいな。
ママがボクに出来なかったように。
女が言ってた。ホストってのは儲かるらしい。
「あんたがホストになったらす~ぐナンバー1ばい。こげんかわいかキャストは日本のどこにもおらんけんね~」
金を稼いでみるのもいいかもしれない。
女の言ってたことがどこまで本当なのかも気になる。
お金……いっぱいあったらママ、喜ぶかな……?
ボクの足は、自然と日本有数の歓楽街、
◇◆◇◆現在◇◆◇◆
ホストになったボクは、女の言った通りすぐにナンバーワンになった。
つまらない。
東京、大阪からひっきりなしに引き抜きの声をかけられるが興味ない。
だって、ここにいないとあの女を食べたお魚を食べられないじゃない。
ホストで稼いだお金を持ってママの元を訪れたボクは、彼女がもう死んでいたことを知った。
遺書もなし。
事故死。
……事故?
いいや、違う。
ママは幸せを掴んだんだよ。
だって、あんなにずっと死にたがってた──いや、
あぁ、いいなぁ……ママ。
ボクも幸せになりたいなぁ……。
客たちに殺していいか聞くけど、どれもなんか反応が違う。
ボクの欲しい反応じゃない。
「キャ~! 殺して殺してぇ~!」
キャピキャピしてる。
芯から殺してほしがってない。
違うんだよ。
もっとじっとりとしたものなんだよ。
ボクのことを恨んで、恨んで、そして依存して──。
そしてボクを殺すか、ボクに殺されるか。
その二択しか選択肢がなくなって。
で、幸せになりたいだけなんだよ。
あの女や、ママみたいに。
そんな倦怠に満ちた毎日を送っているうちに、出会った。
ボクを、殺してくれそうな女に。
変な服着てる。
コスプレ?
三人の男を引き連れてる。
ホストのボクにはわかる。
あの女、この男どもに好かれてる。
つまり。
タラシだ。
なんだろう?
生命力が強い?
母体として優れてる?
それともなにか他の……?
夜の寺に忍び込んでた感覚で、ぬっ──っと男たちの間を抜けて女に近づく。
あぁ、これ……。
寺だ……。
この女、ボクが子供の頃に忍び込みまくってた寺と同じ匂いがする……。
ふふ……。
ふひひ……。
決ぃ~めたぁ~。
ボク、この子に殺してもらお~っと。
それからボクの女に対するストーキングが始まった。
どうやら
ふむ……何者?
早朝早く、締め込み姿の
は? なんで締め込み?
山笠は昨日で終わったってのに。
後をつける。
事務所の階段を上がる。
扉越しに光が漏れてる。
そっと扉を開ける。
すると……。
ボクは。
森の中。
に来ていた。
とっさに身を隠す。
周囲は夜。
なんで?
さいわい夜はボクの時間だ。
身を潜めて情報を収集する。
そしてわかった。
信じがたいが、ここはどうやら『異世界』というとこらしい。
夜が明け、あの女の子と阿方流の二人が馬車に乗って街へと移動するようだ。
ボクも見つからないように馬車に忍び込む。
不思議なことに異世界の日差しはボクの白い肌にもきつくない。
あぁ……もしかしたらここは、ボクの理想の世界なんじゃないか……?
ママとあの女が幸せに死んだから、そのご褒美として連れてこられたのかも……。
そしてここだったら……。
たくさんの女を殺して幸せにしてあげらるんじゃないか?
そして、ボクを殺してくれる女もきっと……。
そんなことを考えていると、女たちにボクが隠れてるのが見つかった。
「あれぇ~? バレちゃったぁ~? ってここ、異世界なんだぁ? へぇ~」
ねぇ、ママ。
ねぇ、名前も忘れた女。
ボク、今──。
今までで一番自然に笑えてるかも。
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【あとがき】
トオルくん、どうでしたか?
今後はこのトオルくんがパルたち一行を引っ掻き回しながら、時に役立ちながら、ライバルとして、また危険な同行者として関わっていきます。
ちょっとでもよかったと思われた方はぜひ『ブクマ』『★★★』『♡』などいただけると嬉しいです。
では、次回のお話でまた~!
次話ではパル&トオルたちが「シャーケ町」へとたどり着きます!
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