第11話 サイコホスト「トオル」
目の前で地面に転がってる男。
白髪碧眼。
嘘みたいな肌の白さ。
まつ毛まで真っ白。
細身でピタピタの黒い服。
さきっちょの
そして、その顔は──。
ガラス細工のように繊細で、端正。
男は、まるで国宝級の宝玉のような顔面をニィ──と歪ませると。
「殺すぅ? いいよぉ~、殺してくれよぉ、ボクをさぁ……。もう飽きちゃったんだよねぇ~、生きるの」
と、場末の
(うわ、見た目はキレイだけどイカれてるなぁ……)
そのあまりの異様さにギグとゴンザレスも若干引いてる。
「──!」
いつの間にか二人の間をすり抜けた男が、私の顔の真ん前でじゅるりと蛇みたいに舌を鳴らす。
「んん……? なぁ~んかこの子、他の女とは匂いが違うんだよねぇ~? 服も独特だし? あぁ~、殺したい、殺したいなぁ……うふふ……」
キツい甘ったるい匂いが鼻を突く。
ゾワワワ~……!
うわああああああああ!
なにこいつ!
キモイキモイキモイキモイ!
ムリムリムリムリ!
『おいっ!』
店内から出てきたツネとショウが同時に男の肩をつかみ、私から引き剥がした。
「あ~ん、乱暴だなぁ~。これだから
ふらふらとよろけながら男は女みたいにシナを作る。
「あっ!? てめぇも
「あはは~、付き合いでね~。それにぃ~、もしかしたら誰かが事故で死ぬ瞬間を目の前で見られるかもしれないわけだしぃ~?」
「
ショウのツリ目が怒りでバキバキと燃える。
「あららぁ~、山のぼせさんが怒っちゃった♡ こわかぁ~(棒読み) ってことで、ボクは退散しよっかな♡ あ、ツネ社長~、おたくの子の『
色白の男はひょろひょろとダンスでもするかのように歩き去っていった。
「るせぇ! 二度と来んな、カスがっ! おい、塩ばまいとけ、塩ば!」
「え~、塩とかなかよ~?」
「あ~! くそっ!」
お店の従業員の女の子(ドレス姿で可愛い!)とそんな問答をしたツネは店の中へと引っ込みかけて。
「あ? っていうかお前ら、どげんしたとや?」
と私たちに今さら気付いたかのように言った。
「いやぁ~、みんなの仕事場を見ておこうかと思って……」
「チッ、なんもおもしれ~もんないけんな。さっさと入れ」
◆人材派遣『エスパ -esp-』◆
中には色とりどりのドレスを着た女の人たちがいっぱい。
慌ただしい。
ツネがその子たちにテキパキと指示を出している。
「ツネちゃ~ん、今日お化粧調子悪い~」
「露出高い服に着替えろ! そっちに目が行くから!」
「社長~、生理きちゃったぁ~」
「はい、ナプキン五枚セット! 白いドレスはやめとけよ!?」
「ツネさぁ~ん、ハンカチ忘れたぁ~」
「はい、これ!」
「ツネぇ~、ストッキング伝線……」
「ほら、新しいの!」
「社長、団体客来たそうでヘルプ要請です!」
「今早上がりしてきた奴ら送っとけ!」
ほぇ~。
そんな様子をボーッと眺めてる私たち。
このツネって人、怖そうなのに仕事出来るんだなぁ。
あと、意外とみんなから慕われてるみたい。
よく見れば顔も整ってるし?
あのガラの悪さがワイルドに見えないことも……ない?
「すまん、待たせたな」
ツネがそう言って腰を下ろす。
「いえ、私達が急に来たんだし! っていうかすごいね、キラキラでみんな華やか!」
「まぁ、そういう仕事やけんね。って、おい、ショウ? いい加減正気に戻らんね」
「──ハッ!」
鼻の下を伸ばしたショウがビクンと反応する。
「ったく、ほんとに昔っから女に弱いとよ、こいつ。そのくせ奥手やけん、これまでも全然……」
「あ~! あ~! うっせ! うっせ~ぞ、ツネ! お前ばっかモテよったけんって!」
「別にモテてね~よ。で? どげんやった? 特産品集めの方は? いいもん見つかったや?」
おお、
たしかにこれはモテそうな気がする。
一方、ショウはモテなかったらしい。
そうなんだ? 意外。
顔は悪くないと思うんだけどなぁ。
私はいつまでもデレデレと女の子たちを見てるギグ&ゴンザレスのスネを蹴り飛ばしたあと、今日集めた特産品の数々について説明した。
集めたのは……。
・純米酒『
・レトルトごぼ天うどん
・ハンカチ
・櫛
・あぶらとり紙
・雪平鍋
・栄養剤
・目薬
・コーラ
・ポラリスエット
・カラリーメイト
・おばちゃんたち向けのお洋服
・レトルトカレー
っと、こんなとこ。
「へ~、食べ物が多かね」
「うん、やっぱり最初は実用的な『衣食住』に関するものがいいかなと思って。あと美容と健康ね! 外から人を呼び込むにしても、まずは村人が外の人から羨ましがられるような生活してないとね!」
「ふ~ん、一応はよう考えとうったい?」
少し見直したとばかりのツネの顔。
えっへん。
私を誰だと思ってるの。
インジャ村を取り仕切ってきたパルさんなのだ。
あ、それよりも。
「さっきの男なんだったの?」
「あ~、あれの名前は『トオル』。『ホスト』って言うてね、女の子ば接客して高か酒ば頼ませて借金漬けにする連中とよ」
「借金!? 借金だけはダメだって! 健全財政が一番!」
「そう、よくないと。しかも莫大な額ば借りさせるけんね」
ツネが悔しそうに歯ぎしりをする。
「で、ツネの店の子がその餌食になったってわけったい?」
「そげんこつ。で、それを回収に来とったってわけ」
「払うと?」
「は? 相手はホストばい? そんなクソみたいなボッタクリでうちの子ばハメるげな絶対許さんばい。最悪ケツモチ出してでも……」
「ツネ!」
珍しくショウが声を荒げる。
「ケツモチに頼ったらケツの毛までむしられろ~が……! そげなこと絶対にするな……!」
「ああ……そうやね」
ケツモチ?
なにか私が踏み込んじゃいけない過去の想い出の雰囲気を察したので話題を変えてみる。
「トオルって人、異常に色が白かったのはなんなの? こっちにはあんな人がいっぱいいるの?」
「あれは病気とよ」
「病気?」
「生まれた時から色素が薄いらしか。そのせいであんまし日に当たれんで夜の仕事に行ったっちゃけど、あの顔とキャラやろ? すぐ目立ってからすぐに
「そういえばさっき
「ああ、隣の
「じゃあライバルじゃん!」
「っつってもうちといつも最下位ば争いよ~弱小
「そっか~。じゃあ最初に倒すべき相手ってことね」
「ま、そういうことやね」
それからまた電話なる通信機器が鳴ってツネは忙しそうに女の子たちに指示を出し始めた。
「おいとましよっか」
「うん」
これ以上邪魔しちゃ悪いと思って店から出ようとする私達にツネが声を掛けてくる。
「あ~、お前ら! トオルに会っても絶対関わるなよ! あれはほんもんのサイコパスやけん! もうすでに何人も人を殺しと~って噂も耳にするけんね……」
サイコパス……。
その言葉は、私の胸にずっと引っかかることとなった。
さいわい、その後トオルという男に会うことはなかった。
そして、阿方流の事務所で一晩を明かしたあと。
締め込み姿でやってきたショウとカイトと共に事務所にある『磯子さん』とやらのお地蔵さんにお祈りして。
戻ってきた。
インジャ村へ。
やった! ちゃんと戻れた!
ギグとゴンザレスも連れて!
ただ、ひとつ気になるのは。
こっちにワープする直前、事務所に誰か入ってきたような──?
……ま、いっか!
それよりも今はインジャ村!
みんなに無事を知らせないと!
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