第10話 うまか! 究極ごぼ天うどん!

 うぅ~、あったま痛~い!


 あれ……ここ、どこだっけ?

 あ、そうだ……。

 たしかショウの家の酒屋に来て……。

 で、そこでショウのお母さんにお酒を勧められて……。

 それで……。


 ……あれ?


 私……。


 もしかして、寝てた?


 バッ!


 一気に血の気が引いて飛び起きる。

 くらっ。

 さすがに立ち眩み。

 んで、足元にゴンザレスとギグがいびきをかいてアホ面下げて寝っ転がっている。

 はぁ~……マジかぁ~……。


 ガラッ。


 部屋の扉を横に開いて、ショウが入ってきた。

 服装が変わってる。

 青くてぶ厚そうな生地のズボン。

 グレーの無地の上着。

 シンプル。

 締め込み姿とはまた違った印象。

 今まではケツ出し野蛮人だと思ってたけど、こうしてまともに服着てるとこを見ると、私たちと年もそんなに変わらない普通の男の子って感じ。


「やっとお目覚めかいな」


「あ~……。ここって……?」


「俺の部屋。お前ら酔っ払って寝とったけん、運ばせてもろ~たよ。おっと、文句は聞かんけんな? 人んで酔いつぶれる方が悪かろ~が?」


 そう言って謎に顔を赤らめるショウ。


「えっと……どれくらい寝てた?」


「五時間……って言っても異世界の人にはわからんか。今は昼のど真ん中ってとこやね」


「お昼!?」


「うおっ! 急に大声出すなって!」


「そりゃ出すわよ! あぁ……インジャ村発展のための特産品探しのタイムリミットが……! 酔いつぶれて時間を潰すとはなんたる不覚……!」


「はぁ? そげなことで騒ぎすぎやない?」


「そげなことじゃなぁ~い! 私にとってインジャ村は親も同然なの! だからこのプロジェクトは絶対に成功させて恩返ししないといけないの!」


「あ~……じゃあ俺がお前をおぶったことには……怒っとらん?」


「は? なんでそんなことで怒らなきゃいけないの? あ、もしかしてお礼言ってほしかった? はいはい、介抱していただいてありがとうございました。どう? これでいい?」


「いいっていうか、こっちこそお前が怒ってないなら別にまぁいいっちゃけど……」


 ?

 なにが言いたいのかよくわからない。

 相変わらず顔赤くしてるし、小声でモゴモゴしてるし。


 まぁ、いいや!

 そんなこと気にしてても時間の無駄!

 さっさと特産品探しに戻らないと!


「ほら、起きなさいゴンザレス! ギグ!」


 ゲシゲシ。


 床に転がってる二人を足で蹴って起こす。


「お前……結構バイオレンスやね……」


「バイオ……? インジャ村じゃ普通だったけど? ほら、起~きぃ~なぁ~さぁ~い!(ガシガシゲシ!)」


「うぅ……パル……もう少しだけ……」


 こうして私たちは図体デカいわりに情けない二人を叩き起こし、再び四人で商店街巡りに戻るのだった。



 ◆うどん屋『究蒡きゅうぼう』◆



 落ち着いた木造造りの店内。

 カウンターの中には大柄で優しそうな人、ヤスオさんの姿があった。


「よかとこに来たね~。今ちょうどピークが過ぎたとこばい」


 ヤスオさんは頭にハチマキを巻いて巻き上がる湯気の中で麺を湯切りすると、私達の前にトンッ──っとどんぶりを置いた。


「これがうちのオススメ『究極ごぼ天うどん』たい」


「へぇ~、これがうどん……。ズズッ……」


 ──!?


「なにこれ、すごく柔い!」


「阿方のうどんは柔かけんね~。で、次はそのごぼ天ば食べてみんね」


「ごぼ天……これよね?」


 透明の汁に浮かんだきつね色のそれをつまんで口に放り込む。


 んんんん~!


「歯ごたえ! でも柔い! 不思議!」


「ハハッ、そげんやろ~。阿方うどんは麺の柔さとごぼ天の歯ごたえが特徴やけんね~」


「ズズズ……。このお汁もめちゃくちゃ美味しいです! 体に染み渡るっていうか、酔った体が癒やされていきます!」


「ショウんとこのおばちゃんに飲まされたっちゃろ? あの人すぐ飲ませんしゃ~けんね~。さてと、その汁を啜ったところで、これたい」


 トンッ。


 眼の前に小皿が置かれる。

 乗ってるのは三角形の茶色の……なに?


「かしわおにぎりやね」


「かしわ……」


「鶏肉のことを阿方じゃ『かしわ』って言うとよ」


「へ~」


 おはしで『かしわ』の頭をつまんで、はむり。


「お、おおおぉぉぉ……」


 味、濃いっ! 感触、冷たっ!


「これはまた……」


「あったかか汁と冷たか『かしわ』。優しい味のうどんと濃か味の『かしわ』。この組み合わせが最高とよ!」


「たしかに! すごいです、ヤスオさん!」


 目をキンキラに輝かせる私の横でショウがボヤく。


「あのさぁ……お前、なんでそげんヤスオにだけ敬語とやって? 呼び方もヤスオ『さん』やし」


「え、だってそんな感じじゃない? 頼れる年上って感じ」


「これでも俺とヤスオは同級生っちゃけどね~」


 ちょっとスネた感じ。


「えぇ~、全然見えな~い! ショウはなんていうか子供? ガキって感じ」


「てんめぇ~!」


「ほら、そうやってすぐムキになるところがガキっぽい」


「……!」


 怒りで言葉を失うショウ。

 ふっ……勝った。


「あら~、二人ともすっかり仲良くなったごた~で」


『なってない(ません)!』


 私たちの声がハモる。


 それからうどんを『ゆずごしょう』なるもので味変したり、『いなり』なるものまでごちそうになったうえ、インジャ村に持っていく『レトルト品』とやらまで貰って私たちはうどん屋を後にした。



 ◆阿方商店街◆



究蒡きゅうぼう』を出た私たちは、ミノルのやってる爬虫類カフェ『いぐな~』で小さくてかわいい魔物のような動物を見てキャーキャーと楽しんだり。


 コウタのやってる呉服屋『呉嬉ごき』で村のおばあちゃんたち向けのお土産を譲ってもらったり。


 カイトのやってる金物屋『半田板金店』で色んな金属製品に目を輝かせたり(もちろんお土産もゲット)。


 それからお洋服屋さんやドラッグストアなるところでショウに何点か特産品になりそうなものを買ってもらったり(お金はちゃんとあとで返す予定)。


 夜にナツヒコのやってるカレー屋『HOT☆ザ☆Burning咖喱カリー』で初体験となる複雑なスパイスの入り混じった咖喱カリーなるものに悶えたり(レトルトもゲット)した後。


 最後に一応ここも見とくかってことでガラの悪いおっかない男──ツネのやってる人材派遣会社へとやってきた。



 ◆人材派遣会社『エスパ -esp-』◆



 ドアを開けようとすると、いきなりツネの怒声が飛んでくる。


「出ていけって言いよろ~が! この寄生虫が!」


 ドンガラガッシャ~ン!


「きゃっ!」


 店内から転がり出てきた男にぶつかりそうになった私をショウが手で抱える。


「なんや? ツネのやつ、また揉め事かいな」


 転がり出てきた男が、私を見てジュルリと舌なめずりをする。



「あはは……美味しそうな子。ねぇ、キミ……殺していい?」



 ……は?

 なに、こいつ?


「あぁん!?」

「てめぇ、俺らのパルに手ぇ出したらぶっ殺すぞ!」


 ゴンザレスとギグが男にブチ切れる。


 え、ちょっと待って。

 なに? この阿方町……。


 もしかして、思ってたより……結構物騒?

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