第9話 純米酒、田村四三

 仲間から一人取り残された若手頭かしらのショウがめんどくさそうに呟く。


「で? なんから見るとや? ……って、おい!?」


 そんなショウを尻目に私たちは絶讃特産品漁り中。


「わぁ~! 見て見てゴンザ! 可愛いお洋服がいっぱい!」

「それよりメシ食おうぜ! 腹減った!」

「このドラッグストアはすごいぞ! なんでもあるからな!」


 勝手気ままに散っていく私たち。


 だってしょうがないじゃん?

 ここにあるのって……。

 見たことないものばかりなんだもの~!


「ちょ~っと待てって、お前ら! バラバラに動くな! まとまらんや! 収集つかんめ~が!」


 わいわい。

 がやがや。

 私たち、無視無視。

 ショウ、イライラ。


「っていうかお前ら、色々楽しそ~に見よ~けど……金、持っと~とや?」


 ピクッ──。


 ササッ……。


 目配せし合った私たち三人はショウの前にスタタと集まる。


「はぁ……持っとらんとやったら俺に従うごと。で、最初に行く店は俺が決めるけんな。よか?」


「……はい、よかです」


 こうして無一文な私たちインジャ村三人組は、ショウのぷりぷりと揺れるおケツの後について一軒の古びた店の前にたどり着いた。

 看板の文字は読めないが、たくさん並べられた瓶を見てピンとくる。


「酒屋? すごいわね、こんなにいっぱい。あれ? っていうか酒屋って……」


「そう、俺の実家ばい!」


 ニカッ。


(あ、初めてショウの笑った顔見た……)


「ってことで、しばらく酒でも見て待っとって。着替えてくるけん」


 ショウが店の奥に引っ込んでいくと同時に、奥から人懐こそうなおばちゃんが出てきた。


「あら、かわいか女の子! ショウったら女っ気全然なかとに、こげな可愛か女の子の知り合いがおったとはね~! さぁさぁ、こっち来て座りんしゃい!」


「こ、こんにちわ……わわっ!」


 ぐいぐいと手を引っ張られて私たちは店の奥のテーブルにつかされる。


「え~っと、じゃあどれがよかかね~♡」


 おばちゃんは「よし♡」と可愛く言うと。


 おっきな瓶を両腕に掲げてにっこりと笑った。



 ◇◆◇◆十分後◇◆◇◆



「おまたせ~……って、お前ら!?」


 奥から出てきたショウが驚きの声を上げる。


 そう、そ~~~う。

 それもそのはず~!

 ん~? なんでってぇ~?

 だって、らってねぇ~?

 私たひ……。


 酔っ払っちゃってるんでしゅもの~~~! うぃ~、ひっく!


「うわっ、酒くさっ! おふくろ、なんば飲ませたとや!?」

「え~、田村四三たむらしじゅうさんやけどぉ~?」

「あぁ、またそげな飲みやすかとば……!」

「にしてもショウの友達、お酒弱かっちゃねぇ~」

「弱かっちゃねぇじゃなかろうが! も~……どげんしょ~かね、これ……」

「どげんするもこげんするも、ここで潰れられとっても困るけん、あんたの部屋で寝てもらうしかないっちゃないと?」

「はぁ? 冗談も休み休み言ってくれんかいな」

「冗談やなかよ」

「マジ?」

「マジ」

「はぁ~~~~……。なんでいっつも俺ばっかこげな目に……」


 うふふ~、全然体に力入らないんだけど、ショウってお母さんに頭上がらないの可愛い~。

 あ~、ふわふわ~。

 なにこれすご~い、こんな美味しいお酒はインジャ村にはなかったなぁ~。


「あ~、も~しょうがなかねぇ! よいっしょっと!」


 あ~、私いまショウにおんぶされてる~。

 えへへ~、なつかしいな~。

 私も子供の頃、お父さんにこうやっておんぶしてもらった気が……。

 もう顔も覚えてないお父さん……。


「お父さん……」


「あ? 俺はお前のお父さんじゃなかぞ」


 にゃはは、そりゃそう~。

 でもな~んか思い出しちゃったんだよね~。

 今までお父さんのことなんて思い出したことなんてなかったのにな~。

 ふぇ~、うっぷ……う~、ふにゃにゃ……。

 あぁ、でもお父さん……。


「見つけたよ、一個目の特産品とくしゃんひん……。絶対じぇったいヒットすること間違いなし……。うひひ……」


「うおっ、なんば笑いようとや!?」


「うひひ~、お父しゃ~ん」


「やけん、お父さんやなかって言いよろ~が!」


 ショウ背中で心地よく揺られながら。

 思いがけず見つけた特産品の手応えに満足し。

 私はゆっくりと、眠りに落ちた。

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