第8話 天界? いや、商店街!

 さぁ、やることは決まった。


 この事務所と、インジャ村北にある岩の隙間。

 一日に一度通じるそのワープを利用して。


 こっちの特産品をインジャ村に持っていって売る!


 そしてインジャ村を発展させて、増えた住民の中から使えそうな男衆をこっちに送り込む!


 要するに出稼ぎね!


 こっちが与えるもの【山笠の労働力】

 こっちがもらうもの【珍しい特産品】


 どうっ!?

 これぞまさにウィンウィン!

 

 インジャ村とここがどれくらい離れてるか知らないけど、


「距離を無視して一日一回物や人を動かせる」


 これには可能性しか感じないわね!

 もし胡椒や塩なんかがあったら、私まで一財産築けるかも……。

 あぁ、めくるめく豪邸に美食……。

 そして効果な調度品やいい感じの使用人なんかも雇ったりして……。


 ぐふ……ぐふふ……。


「あの~、パルちゃん? 交易するって言ってるけど、ここ異世界……」


「ちょっとギグ、黙っててくれる!? 今、考え事してるんだから!」


「いや、パルよ? 交易っつってもさ、ここは俺たちのいた世界とは違……」


「ゴンザレスも黙って! よし! それじゃあ、この山笠なんていうお尻丸出し祭りに精を出してる蛮族たちの集落を偵察に行くわよ! 待ってなさい、阿方あがたとやら! このパルさんの冴えた目利きで『これぞ!』っていう特産品を見出してあげましょう!」



 ◇◆◇◆◇◆◇◆



 事務所から出て扉を開けた私は、文字通り飛び上がっていた。


「な、な、な……」


 うそでしょ?



「なによ、この栄えっぷりは~~~~~!?」



 ありえない。

 異常。

 一本道の大通りには、永久に続くんじゃないかってくらいに延々店が並んでる。

 しかも綺麗~!

 そして明るいっ!

 足元は見たこともないくらいな平らなタイル。

 そんでもって天井は……。


「て、天界……?」


 薄い天井にず~~~~っと遠くまで覆われていて、しかもそこから陽の光が差し込んできてる!


 な……なにこれ、ほんとに……!


「あっ、パルが魂抜けてる」

「わかる、俺達もそうなったもんな」


 しかもどこからか音楽まで聴こえてくる。


「どこかに楽隊がいるの……!?」


「ハハッ、楽隊なんかいねぇよ。『すぴーかー』ってのから音が流れて……」


「だまって!」


 得意げなゴンザレスにイラッときて顔面パンチ。


「ぶごぉっ……! なんで殴られたんだよ!」


「なんとなくよ」


「なんとなく人を殴るな! ったく、恐ろしい女だぜ……」


 ざわざわざわと人々が騒がしく街中を行き交っている。

 活気が半端ない。


「どうかいな、パルちゃん? 俺たちの街、阿方町あがたちょうは」


 ツリ目の赤手拭、ショウが馴れ馴れしく話しかけてくる。


「……ま、まぁまぁってところじゃないかしら!?」


 はい、虚勢きょせ~い

 これからこの街と取引するんだからね。

 ビビってると思われて足元見られちゃかなわない。


「だからパルちゃん、ここは『異世界』なんだよ」


「いせかい?」


「うん、『異なる世界』なんだって」


「そうそう! ガレス大陸でもねぇ! 地球って星の日本って国だそうだ!」


「ちきゅう? ほし?」


 ギグとゴンザレスが意気揚々と説明してくるけど、う~ん……?


「まぁ、いいわ。じゃ、村興しに使えるような特産品を探しに行きましょ」


「……へ? それだけ? 異世界への感想は?」


「ん~、ないかな」


「へ? マジで?」


「? だって異世界だろうがなんだろうが今日特産品を探して、明日村に持ち帰る。で、明日から村興しを頑張る。それだけでしょ? ここがどこかなんてそんなに気にする必要ある?」


「ハハッ! 肝が座っとんしゃ~ね! こりゃ~、ほんとに『ごりょんさん』になるかもしれんばい!」


 筋肉ダルマのスパイスの漂う男、ナツヒコが楽しそうに笑う。


「で、その『ごりょんさん』ってのは?」


「山笠を裏から支える女の人って意味ばい! 実際には、そげん目立って支えとる『ごりょんさん』はおらっしゃれんっちゃけど、パルちゃんならなれるかもしれんね! 『伝説のごりょんさん』に!」


「え、別に伝説とかならなくていいんで。私は村の人達が幸せに暮らせて、あの暗黒流の黒岩とかいう色黒おやじにぎゃふんと言わせられたらそれでいいんで」


「カーッ! 欲がなかねぇ!」


 いや、伝説とかほんとにどうでもいい。

 そんな漠然としたものよりも、まずは目の前の課題を一個ずつクリアー!

 うん、そっちの方が達成感もあるしやりがいもあるもんね!


 ってことで、さっそく特産品を探しに行きましょ~!


「よし、それじゃあここで解散でよかろ!」

「あ~、お疲れたぁ~」

「家に帰って店の準備せな~」

「チッ……無駄な時間やったばい」

「カエルちゃんたちにエサあげないと」

「う~、異世界話もっと聞きたかったぁ……」


 そう口々に出しながらほうぼうに散っていく阿方流のみなさん。


「え、みんな……?」


 戸惑うショウにうどん屋のヤスオが言い放つ。


「自分で連れてきた責任ば持たんね! ちゃ~んと商店街ば案内してやりんしゃ~い、若手頭かしららのショウがね!」


「え、えぇ……!?」


 どうやらショウが案内してくれるらしい。

 ってことで。


「じゃ、行きましょうか!」


「え、いや、俺さすがに帰って着替えたいっちゃけど……」


「ショウ? 私、いきなりこっちに連れてこられて、あの黒岩に散々コケにされて、今頃は村でも私がいなくなったって大騒ぎに……」


「あ~! わかった、わ~かったけん! 俺が悪かった! 案内する! 案内すればいいちゃろうが!」


「よかった、じゃ行こう?」


「はぁ~、仕方なかねぇ~……」


 こうして私とショウ、ゴンザレスとギグの四人で異世界、『阿方商店街』を散策することになったのだった。

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