第7話 じこしょ~かい!

 さて会議。

 進行役はもちろんこの私、パル=アークス。

 ホワイトボードの前に立って、『コの字』型に並べた長机についた男どもを取り仕切る。


「ねぇ~、パルちゃ~ん、ほんとに今からやるのぉ~?」


 馬鹿みたいな柄のシャツを着たギグが情けない声を上げる。


「とうっぜん! なに!? あんたらあんだけ馬鹿にされて悔しくないの!? それでも金玉ついてるわけ!?」


「金玉って……。インジャ村の女は下品かね~」


 ツリ目の締め込み男がボヤく。


「そこ! あんたがこのチームのボスでしょ! しゃきっとしなさい!」


「チームやなくて『ながれ』。ボスじゃなくて『若手頭かしら』。本気で山に関わるとやったら、そこはちゃんとよろしく頼むばい」


「はいはい、え~っと『ながれ』に『若手頭かしら』ね。はい、では若手頭かしらのあなたっ! あなたからど~ぞ~!」


「……は? なにを?」


「なにをって決まってるでしょ? 私達まだ全然お互いを知らないもの。まずは自己紹介から! ってことで、はい! 張り切ってどうぞ~!」


「はぁ……」


 諦めきった様子でツリ目の男は立ち上がる。


「俺の名前は笠登翔かさのぼりしょう。みんなからはショウって呼ばれと~。あとこの肩からかけとる『赤手拭あかてぬぐい』は若手のリーダーのあかしたい。山笠はそれぞれのながれの若手が主体で準備して運営するとよ。やけん、ここにおる七人がうちの阿方流の主力ってわけやね。あ~……それから実家は酒屋ばしと~。以上」


 ふむふむ、なるほど。

 赤い手ぬぐいはリーダーの証、と。

 で、ツリ目の名前はショウ。

 実家は酒屋。

 ここにいる七人の締め込みマンがこのながれの主力ね。


「じゃあ葉っぱ周りで」


「時計回りってことかいな? 俺は穏木康夫おんきやすお。みんなからはヤスオって呼ばれよ~かな。ショウのサポートばすることが多かと思う。サポートっていうか尻拭い? ま、そげな感じやね。あ、普段はうどん屋ばしと~よ」


 ふむ。

 さっき黒岩とかいう色黒おっさんにもの申してくれた人。

 体は大きいけど優しそう。

 短髪にタレ目なのがちょっとキュート。

 サポート、つまり副リーダーみたいな感じね。

 うどん屋ってのはなにかな?


「じゃあ、次は僕かな? このっ! 麗しきっ! 阿方の貴公子、絹織皇太きぬおりこうたのっ! 特別にコウタと呼ぶことを許そう! 僕の実家は千年続く由緒ある『呉服屋』さっ! さぁ、パル=アークス! 僕の美しさの前にひれ伏すが……ぶべっ!」


 隣の目つきの悪い男に蹴り飛ばされるコウタ。


「いたたぁ~、なんばすっとやってぇ~……。これやけんツネは冗談が通じらんっちゃけん……」


「あぁ?」


 ツネと呼ばれた目つきの悪い男が「ぎろりん」と睨む。


「うげぇ……そげな目で見んしゃんなって、こわかろ~が……」


 う~ん、このコウタなるナルシスト。

 一人だけ金髪ロン毛でめっちゃ浮いてる。

 しかも最初は標準語を喋ってたのに、蹴飛ばされてからはめちゃめちゃひどい訛り具合。

 なんだろう……あまり戦力にならなさそうな感じ……。


「チッ、俺は霧原恒きりはらつね。ツネだ。人材派遣ばしと~。以上」


「人材派遣って?」


「あ? 女を集ばめて斡旋するったい」


 え、やっぱり人さらいじゃ~ん!

 目つき悪いし、オールバックだし、カタギじゃなさが半端な~い!


「おい? 勘違いすんなよ? 斡旋っつってもラウンジとかクラブ、スナックやけんな?」


「ラウンジ? スナック?」


「チッ、飲み屋だよ」


「ああ、酒場ね」


 う~ん、なんか感じ悪いなぁ。

 こいつは要チェックね。

 私の勘が信用できないと告げている。


「俺の名前は熱田夏彦あつだなつひこ! ナツヒコって呼んでくれ! 趣味は筋トレ! 日課も筋トレ! 筋トレについて知りたかったらなんでも聞いてくれ! 普段はカレー屋を営んでる! 美味いぜ!」


 ムキムキマッチョマン。

 ぴっちり七三分け。

 色黒。

 歯がきら~ん☆

 力持ちそう。

 うちのゴンザレスといい勝負?

 カレー屋?

 なんかスパイスの匂いがするから食べ物屋さんかな。


「えっと、僕は滑川稔なめかわみのる。ミノルって呼ばれてる。運動は苦手なんだけど、付き合いで……ハハっ……。あっ、『爬虫類カフェ』やってるよ」


 丸い。

 よくここまで丸い体型になれるもんだな~。

 お金持ちなのかな?

 爬虫類カフェとやらも気になる。

 運動は苦手って言ってるけど優しそうな雰囲気。

 個人的にこういう人がいてくれるとちょっと安心する。


判田回斗はんだかいと! カイトって呼んで! 金物屋やってる! そっちで言う道具屋! ねぇねぇ。そっちの話もっと聞かせてよ! 俺、冒険とか魔物とかめっちゃ好きなんだよね!」


 お、おぅ……。

 押しが強い……。

 背の低い少年がキラキラと目を輝かせて迫ってくる。

 冒険や魔物に興味?

 そんなのこっちにだっていくらでもいるでしょうに。

 変な子。


「えっと、それじゃ改めて。私の名前はパル=アークス。インジャ村の業務はすべて私が取り仕切ってるの。だから、これからこっちの山笠についても、うちのインジャ村と五十対五十フィフティーフィフティーで取り引き出来ればと思ってます。こっちはゴンザレス、村一番の力持ち。で、ギグ。なんでもオールマイティーにこなせるわ。常識もあるし両者の取次役は彼にやってもらいます。私達三人と村にいるモップ。この四人があなた達の力になるわ。これでもうあの黒岩とかいう色黒オヤジにも勝ったも同然ね!」


 よし、完璧な自己紹介!


「え~っと、パル? 山笠って何人でやるか知っと~とや?」


 ショウが呆れ顔で聞いてくる。


「は? 知らないけど?」


「あ~、えっとね……」




 ★☆★説明ターイム★☆★




「え~~~!? 二十六人!?」


「ああ、それも、ばい」


「しかも、それでお神輿みこしを担いで短距離と長距離のタイムを競うですって……?」


「ああ、やけん長距離の場合は六十人くらいは欲しいところやね」


「え、今の主力はここの七人なんでしょ?」


「それと、近所のおいちゃん連中たい」


「そのおいちゃん連中ってのの戦力はどれくらい……」


 シ~ン。


「ちょっと!? なんで黙るの!? ねぇ、なんでみんな目をそらしてるの!?」


 ショウの肩を持ってガクガクと揺する。


「はぁ……この七人とギグ、ゴンザレス、モップで十人。あと……最低で十六人……。でないと、あの色黒おやじにぎゃふんと言わせられない……」


 いや、逆だ。


 


 うん。


 これくらいやりやすいものはない。


 逆算すれば、自ずとやらなきゃいけないことが見えてくるってなもんだ。


「ふ……ふふふ……」


「ちょ、なんば笑いよ~とや? 絶望的すぎておかしくなったとや?」


 バンっ!


 私はテーブルを叩く。


「いいでしょう! やってやりましょう! あと精鋭十六人! さらに交代要員三十四人! 任せときなさい、このパル=アークスさんに! ってことでギグ! ゴンザレス!」


「へ?」

「な、なに……?」


「発展させるわよ、村を!」


 こうして私たちは、「インジャ村拡張計画&山笠優勝大作戦」に着手し始めたのだった。



 ────────────


 【今回わかったこと】


 □ 山笠は神輿みこしを担いで長距離、短距離のタイムを競う祭りだ!

 □ 短距離は二十六人。長距離で六十人くらい必要だぞ!

 □ 阿方流の若手七人衆は個性派集団だ!

 □ 金物屋のカイトは異世界に興味あり!?

 □ 人材派遣のツネは怖いぞ!


 そして、


 □ パルに村を発展させる秘策あり!?


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