第6話 天敵色黒おやじ!

「おじゃまさせてもらいますば~い!」


 どうやらここは二階らしい。

 二つの足音が階段を登ってくる。


 カランコロンっ。


 …木の靴?


 ガララッ!


 乱暴に扉が開かれた。

 現れたのは声の印象の通りのイヤ~な感じのヤツ。


 一人は黒髪&地黒のおっさん。デカい。

 もう一人は目つきの鋭い若い男。

 どちらも七分丈の薄い白ズボン。

 上には丈のなが~い上着を羽織っている。

 足元は木で出来た変な靴。

 で、どっちも……めちゃめちゃ感じ悪い。


 地黒おっさんがニタニタ笑いながら話し出す。


「おやおや、みなさんまだ締め込みのままおらっしゃ~ったい? ……って、山が終わったけんって、もう女かいな! そげなこつやけん、おたくは万年最下位じゃなかとですか~!? え~?」


 イラッ。


「黒岩さん、勝木さん、お忙しい中わざわざ事務所まで足ば運んでもろ~てありがとうございます」


 私が捕まえたツリ目が頭を下げる。

 どうやら彼がこっちの代表らしい。


「いやいや、よかとですよ? 阿方あがたさんも女と遊ぶとが忙しくて大変やったとでしょ? 最近は過疎化で子供もおらんで、若手も入ってきんしゃれんもんね? やけん、こうして女ば連れ込んで、子づくりに励みよんしゃ~っちゃろ?」


 はぁ~?

 子作り?

 は? なんなのこいつ?

 うざぁ、死ねばいいのに。


「黒岩さん、今のはいくらなんでも……」


 バッ──。


 こっち側のガラの悪い男が食ってかかろうとしたのを、ツリ目の男が手で止める。


「ツネ……やめろ」


「おやおや、阿方しゃんは今年も最下位やったけん、元気があり余っとんしゃ~みたいやね~? どうかその元気ば来年に向けて、二位の暗黒流ウチと一位の喜代流きよながれしゃんば抜かせるごと頑張ってもらわな! なんせいっつも阿方流しゃんは最下位やけんねぇ~! ちょっとは順位に変動がなからなまつっと~磯子いそこしゃんも退屈しんしゃ~やろ~!」


 ギリッ──!


 ツネと呼ばれたガラの悪い男が歯を食いしばる。


「そ、そげんですねぇ……。本当やったら磯子さんの一番のお膝元の俺らがもっと結果ば出さないけんとですけど……。ご期待に添えるごと頑張らせてもらいます……」


 ツリ目の声も震えてる。


 いやいやいや……。

 ……え?

 なにこれ?

 なんでこんなセクハラ色黒おやじにへーこらしなきゃいけないわけ?

 なんか関係ない私までムカついてくるんですけど?


「にしてもくさ! 最近は『ごりょんさん』ち~て詰め所にもこげな女ばほいほい入れさせよろ~が! まったく軟弱になったもんやね~、最近の山笠は!」


 ……はぁ?

 女がいるから軟弱?

 え、それ私に対して文句言ってるよね!?


 そう思ってると締め込み~ズの一人、ぬるっとした感じの温和そうな男がキツめに言葉を返す。


「黒岩さん。そりゃいくらなんでも言いすぎやなかですか? 今はもうどこの詰め所も女人ば解禁しとります。『不浄の者立入るべからず』そげな看板があったとも二十年前までの話です。今はもう全部じぇ~んぶ撤廃されとります」


 ……ん?

 今、なんて言った?

 不浄の者……立入るべからず?


「ちょ、不浄って? それ、もしかして私のこと?」


「パルちゃん、今は……」


 ギグが「シー」っと唇に人差し指を当てる。


 うぅ~……。


 私は一旦爆発しかけた気持ちを押し留めたものの。


「あ~、最近めっきり物忘れが激しいとよ! いや~! たしかにそうやった! 『』の看板は取り下げられたとやったね! 『』の看板は!」


 何回も『』と強調する色黒おやじに対して。


 ──ブチッ!


 とうとうキレた。


「待ちなさいよ、あんた達ぃ……? ちょっと人のこと馬鹿にしすぎじゃない? は? 女がいたらそんなにダメなの? 山笠? そんなの全然知らないけど次からはウチのゴンザレスとギグも手伝うんだから、あんたらなんかも~メッタメタのぐっちょんぐっちょんよ! ハッ! 一位? 二位? だからなに!? 鼻を高くしてられるのも今のうちだけなんだからね! その真っ黒な顔が真っ青になるとこを見るのが今から楽しみだわ! ってことで、二度と私たちにそんな口聞かないで! わかった!?」


 はぁ……はぁ……。

 やっちゃった……。

 やっちゃったけど……。


 スッキリしたぁ~~~~~~! 


 隣を見るとギグとゴンザレスが頭を抱えてる。


「な、なにをこの女……偉そうなことば抜かしよってからくさ……」


 色黒おやじがわなわなと震えていると。


「黒岩さん、それくらいでよかでしょ?」


 と、今まで沈黙を貫いてた目つきの鋭い男が初めて口を開いた。


 ぞわっ……。


 なんだか背筋が凍るような声。


「お……そ、そうかいな? まぁ、勝木さんがそげん言いんしゃ~ならこれくらいにしとこ~かね……」


「それに」


 ギンッ──!


(うっ……)


 鋭い視線が私達を射抜く。


「案外楽しめるかもしれんですよ、『来年は』ね」


「はぁ……? 勝木さんは、ほんなこつおべんちゃらが上手かねぇ」 


「おべんちゃら……で済めばよかとですけど」


「ま、そげなこつやけん! また来年もよろしく頼みますばい、阿方流のみなしゃ~ん!」


 そう言って二人はカランコロンと木の靴を鳴らしながら部屋から出ていった。


 無事に済んだことに安堵の息をつく締め込み~ズとギグ&ゴンザレス。


「みんな、なに一息ついてるの? 始めるよ」


「……へ?」


 なにを言ってるんだといった顔で一堂は私の顔を見つめる。


「だから始めるの」


 決まってるでしょ。


「私達が次のレースで一位を取るための作戦会議を!」


 そう!


 絶対にあの色黒おやじにぎゃふんと言わせてやるんだから!

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