3章(4)未知との遭遇~いや怖いんですけど!
狼の足は速かった。
正直、速すぎた。
ルシールではないが、ベルナデットだとて完全に王子たちの言い分を鵜呑みにはしていないし、まだまだ何かしら隠してもいるだろうと踏んでいる。
だから、計算もあった、
道中、もしかすれば彼らが内心見せたくないと思っているような部分、とりわけ惨状に当たる風景を確認できるかも……、などと。
が、その思惑は完全に外れた。
そもそも揺れが酷かった。
馬や馬車の比ではない。
狼の全身はバネのように弾んで力を伝えていく。それが岩から岩、あちらからこちらと不規則かつ自在に飛び跳ねて行くのだ。そこに多少の遠慮もない。
(もうちょっと……! こう……。手加減を……)
抗議する間も与えられない。うっかり口を開けば舌を噛んでしまうか、体毛で喉の奥までいっぱいになってしまいそうだった。
不承不承という体だったわりにワイスの四肢は軽やかで、どれくらい経ったことだろう、ベルナデットには充分長すぎる忍耐の時間が過ぎて、ようやく歩みを止める。彼女と一匹は泉のほとりに到着した。
(は、吐きそう……)
彼女は膝をついてせり上がってくる胃液と戦った。
「ふん、顔色が悪いな。大して走ってもおらんのに、軟弱だのう」
誰のせいなのよ! と抗議したかったがその余裕もなく、ベルナデットは青い顔でじろりとワイスを睨むのがせいぜいだった。
やっとそこで王子たちに黙ってきたことに気づく。
(しまった。うっかりしてたわ。急いでいたとはいえ)
急かすようなワイスの口調につられたせいもあるけれど、彼女にも焦りがあったということだ。
しかし、話したとしてどうだったろう。
飼い主自身でもできていない狼との会話を、数日前にやってきた異国人のベルナデットが何故かできてしまった。その理由は、本人に狼にもわからない。そのうえ、狼から聞いた情報で、炎竜の住処近くにある泉に「ちょっと行ってくるわね」と言ったとして……。
(止められるに決まってるわよね……)
大体が、冷泉の力をアデルたちは知っているのだろうか?
(それもどうかしら……)。
ワイスによれば、ノレイアでは多くの伝承が失われている。ならば、第三者であるベルナデットの質問に答えられるほど、きちんとした情報があるとは考えにくい。
それどころか、ノレイアが他国と比べて妙だとも意識すらしていないかもしれない。
(王子たちは何も、勘づいていない……)
その可能性の方が高かった。
外国では、狼はしゃべらない。けれど、王子たちは会話できる狼がいると知って驚愕するだろうか? あっさり受け入れてしまうような気がした。
へえ、すごいね。そんなこともあるんだ。
そして、素晴らしい笑顔でこう告げるかもしれない。
君は、すごい人だね。
言いそうだった。
(私のようにこの違和を、おかしいと感じていられるうちはまだいいのかも……)
ふっと、乗り物酔いとは別の悪寒が走る。
(もし、このままアデルの妻になったりしたら……)
この国の者になったとしたら。
今感じている、少し変な部分、他国と比べて何かずれているところを「当たり前のこと」として気づかなくなってしまうのだろうか……。
当たり前に見えているものが、見えなくなって、当然になってしまって……。
(気づかなくなる?)
それが天劫災害だ、といえばそうなのだろう。
その呪いは、心への侵食はその程度で済むものなのだろうか? 自分たちも、ルブルたちのように姿までも変わらないといえるのだろうか?
(王子たちは普通の人間に見える。でも、だからといって私たちもそうとは……)
その未来を想像すると、ぞっと寒気がする。
「しっかりして!」
ベルナデットは立ち上がり、ぱんと頬を叩く。そのままぐるり周辺を、新しく知るノレイアの国土を見渡した。
(予想ばかりして不安がっても仕方ない)
青い山々。斜面には丈の短い緑がそよぎ、太陽が上がったために気温も上昇して心地よくなった風が彼女の不調も吹き払って行く。
そこには何の狂いも存在しない。
ただの、美しい山奥の小国……。
(天劫を受けている災禍の土地なんてとても見えない)
他人にはそう受け取れる。
だから見過ごす。
それこそが一番の災厄かもしれなかった。
見た目と異なる危険性があるってこと、絶対に忘れないようにしなければ、と彼女は気持ちを引き締めた。
「おい。ぼんやりするな」
ワイスが彼女の背中を額で押す。強すぎて、彼女はつんのめった。
「ちょ……」
「うかうかしていると、やつが気づくぞ」
顎で天を示す。そこには青い空が在るだけだったが、風の合間に微かに鳴き声のようなものが響いていた。
「あれは、多くの時間眠っているはずだが、今日のところは目覚めているようだな。とはいえ、この距離ならそうそう気づきはしないだろうが……。いいから、さっさと水を汲んでしまえ」
慣れたふうに狼は指示する。場所に慣れている、とベルナデットは思った。ふつうの犬には縄張り意識があるから、ワイスもノレイアの国土はすべて自分の庭と捉えているのかもしれない。犬とは思えないが。少なくとも初めて来たわけではない。
「わかったわよ……。で、泉はどこに」
言いながら辺りを見渡すと、崖面が崩れて岩が散乱している箇所があった。他に水の染み出そうなところはない。
あそこ? と狼に問うと彼は頷いた。
「以前はああではなかった」
何故か声は暗い。
近づいてみれば、崩落はごく最近のことのようだ。断面も新しい。水場だというのに、苔むしてもいなかった。
泉は半壊して底が浅くなり、さほどには水を湛えることができなくなっている。
とはいえ、清涼な湧き水そのものは充分な水量を有しているようで、流れを変えることはなく、ただ溢れて大地を潤しながら控えめな筋になって岩場を伝い下り落ちていた。
(この湧清水が川に合流して、畑用の用水にも混じっているのかしら)
流れ行く下方を見やって彼女は勝手に得心した。それなら、災害が全土に渡らない理由も理解できる。
(水が潤している、下流になる畑や居住地域は火の種とやらから守られているのでしょうね、きっと)
それだけではないかもしれないけれど、理由のひとつではあるのだろう。
けれどそれゆえに……。
ベルナデットはワイスを見上げた。
「泉はこの力のせいで、あいつに壊されようとしているってこと?」
バカな、そんなことできるものか、とワイスは見下すように彼女を見た。
「地中から沸いてくる力を、たかが一匹の生物が封じるなど、できるはずもない」
ふん、と狼は鼻を鳴らす。
「だが、穢したいとは望んでいるだろうな。岩を崩したところで、どうとなるものでもないが。八つ当たりのようなものさ」
さあ、早くしろ、と彼はさらに急かした。
「俺では汲めぬからな」
「それはそうよね」
湧水の幅は小さく狭く、この狼が口を潤すことも難しそうだった。人間の細い腕でもなければ。
ベルナデットはスカートをまくってぎゅっと縛り、靴を脱いで裸足になった。
「おい、足を切るぞ」
横目で彼は注意する。
「靴のままの方が危ないわ。水が溢れているせいで、滑りやすくなっているもの」
「ふむ、そんなものか」
彼にあるのは肉球だけなので、理屈はよくわからない。
しかし、汲み上げるには水差しもなく、革袋を完全に沈められるほどの深さもない。
(かなりやりにくいわ)
彼女は岩に片手をついて身体を支えながらどうにか、窮屈な体勢で水入れを潜らせた。
平らだった水入れから水泡が上がっていく。流れ入る動きが彼女に伝わった。
それでも、入ったのはせいぜいが容量の、三分の一程度だ。
「むつかしいわね」
姿勢も無理やりで苦しい。ベルナデットはため息をついて位置を直そうと立ち上がった。
そのとき、予想もしない強さで空を切り裂くような鳴き声が響いた。
それは夜更けの烏よりも不吉な音だった。
びくりとして、彼女はさっと声の主を確かめる。
深い青のなか、赤黒く光る一点を認める。さきほどよりもずっと大きい。
「うそっ……。さっきまでは……」
「早くしろ! 冷泉の水は喉を潤す程度あればいい。あれに気づかれたら面倒だぞ」
ワイスの声にも深刻さが増して、強く警告する。彼は敵を侮ってはいない。
「わ、わかったわ」
ベルナデットは素直に頷き水入れの口を固く閉じて、転ばぬよう水場から慎重に離れる。
「幾度も周回しているな……。異物として察知しているが、俺たちを見つけてはいないようだ。それとも他に何か見つけたのか?」
狼は訝しむ。その間に彼女は靴を履き直し、水入れをベルトにしっかりと結わえた。
「いいわ」
そう告げた途端、彼女を吹き飛ばすがごとく、背後でひときわ大きい咆哮が響く。
近い。
「えっ、もうこんな?」
「違うぞ、索敵と威嚇だ……。惑わされるな……」
ワイスの指摘も続く雄叫にかき消される。
反射的にベルナデットは声の方へと振り返った。
赤い。それだけでなく黒い。
黒だろうか?
煤けたような陰り。あれは焦げ付いているのではないか?
炎竜は遠く赤黒く燃えていた。まっすぐに彼女に向いて羽ばたいている。
(見つかった!)
そう思った。だが、それは早計に過ぎた。
「馬鹿者が! 見るな!!」
探るような目線が、彼女と、合う。
そうと悟った。
それは絡み合ってもつれている。これほどの距離、高さがあるのに?
溶けた金属のように煌々とした灼熱の瞳は、確かに彼女の
その羽ばたきが起こす強風さながら、その吐息が発する熱源さながら、一直線に彼女を捕らえている。
「あ……!」
(魔法? 動けない)
身体が竦んでいる? それとも炎竜の眼力だろうか? どちらでもおかしくはなかった。
「バカが!」
ばしゃん、と足元を流れる泉の水が周辺に跳ねた。
ワイスが両者の視線上に飛び込んで、彼女の襟首を銜えて引っ張った。けれど、がんとして動かない。
「石化じゃあるまいし! しっかりしろ!」
さらに水が跳ね飛び、彼女の頬を濡らす。それが彼女を正気にした。
「つ、冷た!」
「しっかりしろ! 逃げるぞ」
襟首からぐいと引かれた次の瞬間、彼女の足は大地を離れ、全身は空中に放り出されていた。ゆっくりとひとり回転している。
「ワイス?! 貴方なの!」
誰何したが、ほかにいるはずもない。それでも口にせずにいられなかったのは、彼女を庇った者は大きな白狼ではなかったからだ。
(人間……?)
さきほどまでそんな者はいなかった。獣の代わりに一緒に空を飛んでいるのは……。
「いや、何これ! 貴方、ワイス? 人間になったの?!」
彼女のすぐそばには少年がいた。しかもだいぶ幼い。
「いちいち喚くな!」
口調はワイスだ。けれど、声は子どものものだ。
「いや、ちょっと貴方、ちっさ! っていうか、人間になってるんだけど! どういう……」
あああ! 騒ぐんじゃない! とワイスは怒鳴り返す。
「うるさい! 儂は知らぬ! 時々こうなるのだ! そんなことよりだ!」
彼はちらと下を窺う。
「くそっ、予定以上に高くなりすぎた!」
「どういうことよ!」
その言葉通り、ふたりは跳躍というより飛翔の方が相応しい高度にいた。ついさっきまでいた愛しい地面は遠く、そして小さい。
「ちょっと! 貴方、飛べるの?」
「そんなわけあるか! 俺はイヌ科だぞ!」
「こんなときだけ都合よく犬にならないでよ! それに今は人間……」
「まったく、貴様はうるさいな! くそ、そろそろ落ちる!」
飛び出したときの勢いは消え、停止のような一瞬を経て、次は重力に引かれて落下を始める。ベルナデットは咄嗟にワイスに手を伸ばし、なんとか白い髪に指を絡めるとぐいと引っ張って近づき、抱きかかえた。
「おい、痛いぞ! このバカ力娘めは! 何をす……」
「仕方ないでしょ、貴方、今は子どもなんだもの!」
中身はどうあれ、それは揺るぎない。
「小さい者は大きな者が守るっての、ベルフォールの教えなのよ!」
「そんなこと知るか!」
確かに知ったことではない。
「余計な気を回すな! くそ、身体が戻れば……、戻れ! 戻らないか!」
嫌がってもがくワイスを腕に感じながらも、どうにもならないだろうな、と彼女は思った。
骨折くらいで済めばいいけど……。
それは楽観にすぎるだろうともわかっていた。
地面に激突する寸前、彼女はふわっと浮き上がるような感覚に包まれた。
全身が毛皮に抱き留められている。
ワイスだ。他にいない。
(戻ったの? 間に合った?)
それでも、地面までの距離には足りない。
ワイスは十分な着地態勢を取れず、一度地面にぶつかってから、ベルナデットともども斜面を転がり落ちた。
衝撃で悲鳴をあげかけ、すぐに次の衝撃で口を閉じる。これでは舌を噛んでしまうと、声を殺す。
大きく回転しているのがわかった。表面の凹凸もわかる。
ベルナデットにそれほど影響がなかったのは、間違いなくワイスのおかげだった。
ごろごろと転がる狼に必死でしがみついてしばらく、流れる小川の浅瀬にまでやってきて、彼女らはどうにか止まった。
流れ下る、あの泉の水を含む清流だ。顔をあげて炎竜の位置を確かめれば、遙か彼方に羽ばたいている様が窺えた。狼の一蹴りは、力強くも随分と遠くに彼女を運んでくれたようだった。
(それにきっとここには入ってこれない)
泉の力かどうかはわからないが、そう感じた。
「よかった」
ふう、と胸をなで下ろす。
「まったくのところ、よくはないぞ……。後ろの足をどうにかしたようだ」
それは、と足の状態を確認しようと彼女は立ち上がりかけたが、動物の世話はしたことがない。賢しらだ。そのうえ、大きすぎてよくわからないだろうと気づいてやめた。
ワイスも期待していない風情で、「あれもしばらくすれば諦めるだろう」と天を顎で示した。
ベルナデットは、その場で膝を抱えて狼の大きな顔を見上げる。
「貴方……、変身もできるの?」
まだ心臓は高鳴っている。落ち着かなければ、と彼女は尋ねた。
「できるといえばそうだ。だが、自在ではない」
やり方か、条件があるのだろうか。さらに追及しようとして、やめた。ワイスの知識は本当に断片的で、体感したこと以外わからない様子だった。聞いても無駄だろう。
それに、ひとまずは難を逃れられた。
「頼りになるんだか、ならないのだか……」
親に聞いておらぬのだから仕方ないだろう、と彼は瞼を閉じる。
「どうしたの」
「眠い」
(こんなところで?)
いえ、もしかして、と彼女は考え直す。
(変身に何か代償があるとか? そうでなくとも、全身打撲でもあるし、足を怪我してもいるんだし)
身体が睡眠を欲しても不思議ではない。
だが、よろしくない。
まだ周囲は明るいが、夕暮れまで時間の問題ではある。
傷ついた狼とこんなところで立ち往生していたら、どうなることかわからない。
「あいつは……?」
もう一度、ベルナデットは確認する。幸いにも炎竜はさっさと諦めたようで、もはや天空のどこにも姿はなかった。火属性の魔物ゆえに、気が短いのだろう。
「ねえ。ワイス? 貴方、ちょっと人間になってくれないかしら」
ぐいと毛皮を引っ張る。加減したつもりだったが、痛いな、と彼はぼやく。
「何故だ」
「人間なら、なんとか支えて移動できるからでしょう」
はっとワイスは笑う。
「お前が? そんな力はないだろう」
「貴方くらいの少年なら何とかなるわよ。私、意外と力があるのよ? それに、このまま暗くなるのはまずいでしょう」
意外でもないがな……。それに子どもではないぞ……、とワイスは唸りつつも一理を感じて、一応は集中してみせる。
「無理だ」
彼は首を振る。
「できないの?」
「説明したであろう、そんな思うようには返信できたら、アデルの前で獣身でいる必要もなかろう……」
それはそうだ。
困ったわね、と彼女は狼の瞳をまじまじと覗き込んだ。
「何だ」
「うん……」
目は金色をしているというけれど、本当にそうだな、と彼女は呑気な感想を持った。きらきらしていて、とても奇麗だ。そうそう近くで観察できるものではない。
光彩の奥が
(いえ、星だわ。星の瞬きが見え……)
「おい」
「ぷっ」
大きな肉球が彼女の顔を押しやった。
「煩わしい」
「貴方の前足大きいのよ、いきなり……」
彼女は足から逃れて抗議する……。
「あれ?」
言い終わらないうちに、ワイスの姿は小さくなっている。
獣の身体はどこにもない。
「なった……?」
どういうことだろう。ふたりは顔を見合わせる。わかりようもない。
「それは、今はいいわよね。とにかく、助かったわね」
理由は想像でもつかなかったけれど、それは後にしよう。謎は他にもある。
さきほどは慌てていて特に気づかなかったものの、少年になったワイスは簡素とはいえ、長めのシャツにキュロットの小姓めいた衣装を身に着けている。裸ではない。
いえ、裸がよいということではないけれど……、と令嬢らしからぬ着目点に内心言い訳しつつ、彼女は簡単に整理する。
動物が単に人間に置き換わるなら、それは全裸であるべきだろう。しかし、彼は違う。で、あれば何らかの別の要素がある、ということになる。
(魔力……。のような?)
それは、普通の生活をしていたら、ほとんどの者には縁遠いもの。
だが、ベルナデットは自分がかつてと同じ世界にいるとは思っていない。ノレイアにいたら、どんなこともありうるのだろう。
「足を出して」
彼女は気を取り直す。
この姿になってくれたら手当てもできるというもの。ベルナデットはスカートを裂いて手早く彼の足首を固定すると、身体を支えて立ち上がった。
「さあ、さっさと移動します」
「……。貴様、やはり力があるな……」
支えられた力強さに、ワイスはつい零す。
「……。そうかもしれないわね」
以前から、ちょっと力は強めかなー……、とは感じていた。 だからこそセヴラン王子は、彼女に逆らえなかったりもした。
同世代の令嬢たちと同席した場で、カップを割っただの、ドレスの裾を踏んで破き、恥をかかせたなど、これまでに思い当たる節はいくつかある。
口も悪ければ、意地も悪いと陰口を叩かれる所以である。
「でも、変身できる狼ほど珍しくはないでしょう」
多分、父親からの血、体質でしょうね、と言い切っった彼女を、ふんと狼は笑い飛ばした。
「馬鹿な娘だ。所詮は獣。放っておけばよいものを」
(かっこつけても、可愛いのよ)
どうしても大人ぶっている子どもにしか見えない。さあ、バカはどっちでしょうね、と彼女は少年の前髪をふっと吹いた。
「貴方は王子の大事な家族なのだから、この期に及んで放置なんてできるはずないもの」
ワイスは言い返さなかったので、ベルナデットはふたりして王子の屋敷を目指すことにした。
(さて。完全に暮れるまでには戻れるだろうか……)
彼に方向と道程を確認した後、彼女は正直なところ不安しかなかった。けれども、彼には告げない。
子供の姿をしているだけで、自分の弱音は自然と飲み込めてしまう。そういう性分だ。損をしやすかもしれないけれども、くよくよしている時間が惜しい今は都合がいいと自分を評価してやることにした。
太陽は一日の終わりに向けて、ゆっくりと、だが確実に傾き始めていた。
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