九話

 なぜ<ベスティア>という怪物が、人間界に存在しているのか。


 考えられるのは、人間界のどこかに穴が開いてそこから入ってきたのか―—時空が歪みつつあるから、なのか。


 魔人は何のために<ベスティア>を作り出したのか。


 そもそも、魔人や妖精は、魔力というもので構成されている存在。


 それゆえに魔力を根絶させる人間界では、魔人も妖精も弱体化する。


 けれどその地にいる人間を使えば、弱体化することなく本来の力を出せる、というのが妖精の考えであった——



 次の日。

「おはよー、蓮人」

「……またか」

 朝リビングに行こうとすると、インターホンが鳴った。

 まさか……とは思ったが、寝ぐせはそのままで扉を開けると、案の定玲華がそこに立っていたのだ。

「……何しに来たんだ?」

「んー?えへへっ、ちょっとね」

「…………」

 どうして二日連続で家に来るのだろうか。しかも、登校前に。

 別に玲華の家と蓮人家は近くないはずだが……。

「あれっ、蓮人さん?」

「な……ッ!」

 と、背後から急に声をかけられる。

 びっくりして振り向くと、そこには今起きたのであろう、眠たそうな目をこすりながらこちらを見ているフェアリーがいた。

「……お、お前……あっち行ってろ」

 このまま玲華に合わせるのはマズい。

 なぜなら、自分には姉も妹もいないという事を玲華は知っている。つまり一人っ子なのだ。

 そんな中この子を見たら、どう思うだろう?

「どうしたんですか?」

 あくびをしながらフラフラとこちらに近づいてくる。

「い、いいから自分の部屋に戻れ!」

 階段の方に指をさしながらそう叫ぶ蓮人。

「蓮人ってば何騒いでるの?」

「あッ!?」

 それを不審に思い、扉を支えていた腕の下から顔を出す。

「あ……」

「え?」

 そこで初めて目が合う。

 この子は?

 この人誰?

 変な汗が額を流れる。

「れ、蓮人……?ちょっと、聞いていいかな……?」

 顔を引っ込ませ、おずおずと聞いてくる玲華。

「この子………だれ?」

「………………」

 その場に立ち尽くす。

 「こ、これはアレだよ……ええと……」

 目を泳がせ、なんていい訳したらいいか思考を巡らせる。

 けれど、いい訳なんて通じるわけがなかった。

「蓮人って、妹いないよね……幼馴染なんだから、知ってるよ……ほんとに、だれ?」

「いやぁ、なんていうのかなー……」

 少し苦笑いを浮かべる蓮人。

 対して玲華は、少し顔を引きつらせたような表情になっていた。

「蓮人ー!早く朝ごはん準備してよー!」

「………………」

 そして、レアの叫び声が家中に響き渡る。

 蓮人は、ますます言い逃れできなくなってしまった。

「……れ、玲華……悪い」

「あ、ちょっ——」

 これ以上こうしてはいられない。

 蓮人は一言そう言い、扉を閉めた。

「蓮人!話は終わってないよ!」

「…………」

 玲華の声を聞きながら、その場で頭を抱え込んだ。


 

 



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