八話

「——それで、私たちは妖精界から来たんです。まさか人間界に魔人が現れるなんて思ってませんでした。私たちが回収してなかったら死んでたでしょうね。それで、次は——」

「お、おいおい、待ってくれ」

 フェアリーがペラペラと説明を始めるが、蓮人は何が何だか理解できていなかった。

「どうしたんですか?」

 説明を止められ、少し疑問気な顔をするフェアリー。

「……これで端折ってるのか?」

「はい」

「…………」

 そう言われ、蓮人は何も返せなかった。

「人間ってのは、理解するのに時間がかかる生き物なのね」

「……いや、君たちの言っていることが、もう、スケールがデカすぎて……分からないんだ」

「…………」

 そう言うと、二人は少しの間無言になった。

 その後、呆れたかのように、レアが大きくため息をついて言う。

「まず、こっちから理解してもらわないと、説明ができないの」

「……はぁ」

 言ってレアが、どこから取り出したのか、テーブルの上にタブレット端末のようなものを置き指をさした。

 その画面には、どこかの景色のようなものが映し出されていた。

 「ええと……妖精界、って言ったっけ?」

 蓮人は頬をかきながらそう言った。たしか、さっきの話では、この二人は妖精界から来たと説明してた気がする。

「ええ。これが、私たちの世界」

「……ここと違うな」

「当たり前でしょ。世界が違うんだから」

「まぁ、そうなんだけど……」

 その景色とは、空がピンクのような淡い色だったり、浮島のようなものがあったりと、まるでファンタジーのような世界が広がっていた。

「どうして二人は、この世界に?」

「それは、魔人が作ったモンスター——通称<ベスティア>が、私たちの世界に入り込んできたの」

「……?」

「一回見てるはずよ。黒い怪物のことを」

 そこで蓮人は思い出した。

 玲華と一緒に昼を食べに行こうとした時、黒い怪物に襲われそうになった。

 アレが——モンスターだったなんて……。

 そのことを聞いて、蓮人は眉をひそめた。

「運が良かったわね蓮人。私がいなかったら、あんたは確実に死んでたんだから」

「……っ」

 確かにその通りである。得体の知れない怪物に、どう対応したらいいのか分からないんだから。

 蓮人は今更ながら身をすくめた。

「なんで人間界に<ベスティア>がいるのかしら。どう思う?フェアリー」

 隣にいたフェアリーに問う。

「……人間界のどこかに、穴が開いたんじゃないかな?」

「穴、ねぇ。こういう考えはどうかしら?——時空が歪みつつある、って」

「あー……」

「話し中悪いけど、何を言ってるんだ?」

「あ、ごめんなさい……」

 レアが、こほんと咳払いをする。

「それで、私たちがここに来た理由なんだけど、<ベスティア>が妖精界をめちゃくちゃにして、私たちだけでは対処できなくなったの。それで、人間の力を借りて<ベスティア>を倒そうって思ったから来たの」

「人間の力·····?」

 その言葉に、蓮人は眉をピクリと動かした。

「ええ。人間には、数は少ないけれど、私たちの力になってくれる人がいるって聞いたの」

「へぇ……」

 分かったような分からないような、曖昧な感じの中そう呟く。

「それはそうと、私たち、この世界にしばらく住むことにしたの。だから、蓮人。お世話してね」

「…………は?」

 いきなりそう言われ、ポカーンと口を開ける。

「ちょ、レアってば!いくら何でも無理があるよ!」

「だって、ここに住まなきゃどこで寝泊まりするってんの。こっちの世界のお金なんか持ってないんだから」

「で、でも——ッ」

「ま、まぁまぁ!」

 そう言いながら二人の間に割って入る。

「俺も、君たちにお礼をしなきゃって思ってたんだ」

「お礼?」

 レアがきょとんとした顔でそう訊いてくる。

「ああ、俺を助けてくれたんだ。ここでよければ、全然住んでもらって構わない」

 レアには2度も助けられんだ。

 だから、二人を住まわせてあげることが、蓮人にとってできるお礼であった。

「え、ほんとに?」

「うん」

「あはっ、やった」

「はぁ……蓮人さん、ご迷惑をおかけしますがよろしくお願いします」

 そう言って、かしこまったようにお辞儀をするフェアリー。

「うん。じゃああとは、好きに住んで」





 




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