第8話
初生が家をでると、門の隣に紀斗が立っていた。
「元に戻れてよかったな」
「そ、そうだね。あはは……」
ぎこちない笑いと共に、紀斗を通り越して駅へと向かう。
「おい。せっかく家に寄ってやったんだから、高校まで一緒に行けばいいだろう」
そう言ってついてくる紀斗。
早足で頑張っていた初生であったが、それは逆に紀斗の歩幅に合わせていると同義になってしまった。
「そういえばかず、電話切らないで寝ちゃったでしょ。起きたときに慌てて切ったけど。でね、私朝ごはんが鮭で昨日も食べたんだだけど、おいしかったんだよ。さすがに二日連続は正直嫌なんだけど、捨てるのはもったいないからね。あ、今日私のクラス漢字テストあるんだ。電車の中で勉強しなきゃ。昨日は結局あんまり勉強できなかったから。それに、」
「まだ、告白の返事聞いてないんだけど」
あからさまにびくりと肩を震わし、立ち止まる初生。
「お前、この話題切り出されたくなくて話し続けてたろ」
紀斗は半眼で初生の顔を覗き込んでくる。その視線から逃れるため、初生は下を向いてしまった。
「気づいてるか」
「な、何を?」
「お前、今日一回も俺の顔まともに見てない」
慌てて顔を上げる初生だが、予想していたよりも数倍近くにあった紀斗の顔に驚き、再び俯いた。
「……ごめん。ずっと幼馴染だと思っていたから」
被さっていた影が消え、太陽光が初生を照らす。その光が、紀斗が歩き出したことを教えてくれた。
傷つけたろうか。
嫌われただろうか。
たくさんの不安が初生を襲う。
「私、」
「いいよ、それで」
数歩先で、紀斗が振り返る。
「俺、ずっと待ってるし。今までだって待ち続けてたんだ。それが後何年延びようと関係ない。お前が答えを出すまで、今までの関係性を変えなくていい」
初生は今すぐに「付き合おう」と、「私も好きだよ」と、言うことのできない自分が疎ましかった。
でもまだ初生にはこの好きが、紀斗が自分に抱いてくれているような好きなのかどうか、わからなかった。
だから今は。
「ありがとう」
待っていて欲しい。
なるべく早く、答えを見つけてみせるから。
「電車、乗り遅れるぞ」
紀斗の歩幅が、心なしかいつもより小さくなっている気がした。なぜなら駅に着くまでに、もう初生が小走りになることはなかったから。
いつも私の隣にいたのは、強くて優しい人でした。
そして、これからも隣にいて欲しいと、ずっとずっと願い続けた人でした。
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