49.夜が明けて

 夜が明け、更紗を含めたメンバー達は合宿所に戻って来ていた。


「十六時には迎えの船が来るはずだから、荷物はまとめておいて下さいねー」


 未来が全体を仕切る。


「琴ちゃんは荷物が多いみたいだけど、大丈夫? 手伝おうか?」


 未来が琴を気に掛ける。すると、横から山室が割って入って来た。


「相変わらずの大きなリュックだな。そろそろそれの中身、教えてくれても良いんじゃないか?」

「ボクのリュック……?」

「あぁ。包丁が無くなった騒ぎの時、ぶっちゃけその大きなリュックの中には包丁が隠されているのかも……なんて一瞬勘ぐったが、あれは井之上さんが持っていたしな。となると、その大きなリュックには何が入ってるんだ?」

「おじさんボクを疑ったんだ! 酷ーい!」

「すまんすまん。でも、実際中身が気になってな」

「……クマ……」

「え……?」

「クマだよ! クマのクマ太郎! ボクの大切なお友達!」

「クマのぬいぐるみぃ!?」

「これが無いとボク落ち着かないし眠れないの! 捜索の時も凄く怖かったから、クマ太郎に付いて来てもらったの!」

「何だクマかー」

「ふふ、琴ちゃん可愛いわね」

「フォローありがとう、未来お姉ちゃん。おじさんは笑いすぎ! だから、中身を知られたら笑われるって思っていたから言いたくなかったの!」

「すまんって!」


 琴の大きな荷物の詳細が分かり、山室はスッキリとした気持ちになっていた。一瞬でも、大切な存在になっていた琴を疑ってしまった事を心底申し訳なく思っていた。


 すると、祁答院がキャリーケースを片手に現れた。


「波岡さん! 僕は元々荷物が少なかったからもう終わったんだけど、何か手伝おうか?」

「あぁ、ありがとうございます。私もそんなに荷物はないんですけど、更紗ちゃんの方も手伝いに行かなきゃならなくて。私のキャリーケースを玄関に運んでおいてくれます?」

「お安い御用だよ。あれから井之上さん、落ち着いたのかな?」

「えぇ。今はすっかり落ち着いて。泣くだけ泣いたらスッキリしたみたいです。高遠先生との事も、秘密にしていたから苦しかったっていうのもあるみたいで」

「恋人が殺されたら……僕も犯人を殺すかもしれないな……」

「え……?」

「もしも波岡さんが大嶺の被害に遭っていたら、僕だって大嶺を……」

「えっ。それって……」

「もう、気が付いていますよね? 僕の気持ち……」

「祁答院さん……! 私、私も……」


 未来と祁答院はおのずとお互いの距離を縮め、抱きしめ合う。


「ずっと……こうしたかった……」

「私も……」


 祁答院は未来の顎をくっと持ち上げると、そっと唇を寄せ合う……が。


「ちょーっと待ったー!」

「佐恵子姐!?」

「越本さん!?」


 佐恵子は二人の間に入って両手でふたりを引きはがすと、ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた。


「続きは本土に帰ってからにして下さいー。ほら、みーんな見てるから!」

「「え!?」」


 ふたりが周囲を見回すと、確かにそこにはニヤニヤと薄笑いを浮かべた山室、琴、片山、渡会、カネ子もいた。


「いつから見てたんですかぁ!?」

「「最初からです(だよ)」」

「いやぁ! 恥ずかしい!」


 未来は顔を真っ赤にして祁答院の背後に隠れた。しかし、その祁答院も顔が今にも燃えそうなくらいに赤くなっている。


「若いっていいねー。いやー、今のシーンも写真に収めておくべきだったかな? それにしても、俺と琴ちゃんはそこに最初からいたのにまるでタヌキの置物だったな」

「おじさん、こういう時に撮ってないなんて役立たずー。ボクはこんな幸せな風景を見ていられるならタヌキの置物にでも喜んでなるよ」

「本当に、今の光景こそ記事のクライマックスに最適だったんじゃないですか?」

「そうよー。山室さん! 何で今の撮っておかなかったのよ!」

「若造共は元気が良いなぁ」

「若さは全ての力の源だからねぇ」

「あ、あ、私更紗ちゃんの手伝いに行って来ます!」

「「逃げた」」


 久しぶりに、メンバー達は心の底から笑った気がした。それが例え未来と祁答院にとっては羞恥だとしても、この二人の幸せそうな雰囲気に、メンバー達は癒されていた。


 そして十六時、約束の定期船が来た。


 メンバーを代表して山室が船長に事の次第を話すと、すぐに警察も呼ばれた。


 そして、全てが明らかになった──。

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