51.その後

「わぁぁ、未来お姉ちゃんお久しぶりー!」


 都内のカフェ。そこに未来と祁答院。そして琴と山室が会していた。未来はアイスミルク、祁答院はアイスコーヒー、琴と山室はアイスココアを飲んでいる。


「いやぁ、祁答院君も波岡さんも痩せたなぁ!」

「うふふ。優音はるとと一緒にジム通いしていたんです。デート代わりにジムに行っていたらのめり込んじゃって、今ではすっかり標準体型に近付いちゃいました」

「僕もやっと痩せられたって感じで。未来と一緒だとつい筋トレも乗っちゃうんですよねぇ」

「それにしても、琴ちゃんと山室さんもかなり痩せたんじゃないですか?」

「ボク、フィーダーの彼氏と別れておじさんの家に転がり込んだら痩せたよ。自分で食事作って食べる分にはそんなにカロリー摂取してなかったみたいで」

「俺は例の記事が世に出てから社会部に異動になって。忙しくしていたのと琴ちゃんの手料理のおかげで昔のズボンなんざゆるゆるさ」


 四人は楽し気に笑い合う。


「俺たちは何とか痩せられたけど、他のメンバーはどうしてるんだろう?」

「佐恵子姐は、韓国グルメとカウチポテトが止められなくて相変わらず太っているらしいですよ」

「あはは、佐恵子姐らしいや。合宿から帰ったら皆で新大久保行く約束、まだ果たしてなかったねぇ」

「そうねぇ。更紗ちゃんもあんな事になってしまったしね。更紗ちゃんが罪を償って出てきたら是非実現させたいわよね」

「さんせー!」


 琴は両手を挙げて無邪気にはしゃぐ。その様子を山室は目を細めて見ている。


「米田さんは認知症が進んで施設に入っちゃったんだっけ?」

「そうなんですよ……。この間カネばぁに様子伺いの電話をしたら娘さんが出て。ほら、カネばぁからは家電の番号を教えてもらっていたから。そうしたら、先月の始めに施設に入りましたって……」

「カネばぁはボク達の癒しだったのにね」

「僕も米田さんと話していると、不思議と優しい気持ちになれましたね」

「あら、優音はいつだって優しかったわよ?」

「そ、そうかな……?」

「そうよ!」

「ほらそこー、また公開イチャイチャしないの! そういう所全然変わってないんだね」

「やだもう琴ちゃんたら。イチャイチャなんてしてないわよー。優音が優しいのは琴ちゃんも認めてくれるでしょう?」

「認めるけどさ、おじさんだって優しいよ?」

「ほら、俺だって優しいんだぞ!」

「あはは、山室さんも琴ちゃんにはベタ惚れみたいね」

「懐いてくれる小動物みたいなものだからな、琴ちゃんは」

「僕達の事からかってる場合じゃないじゃないですかぁ」

「あはは。そうだな」

「所で渡会さんはどうしてるんだ?」


 山室はおもむろに飲み物を口にし、少々室内が暑いのか手で顔を扇いでいる。


「おじさん、その仕草すごーくおやじっぽいから止めてよね」

「悪い悪い。楽しくしゃべっていたら暑くなって来ちゃってさ」

「……渡会さんからはこの間僕に電話あったんですけど、相変わらずお酒が好きで一向に痩せないって言ってましたよ」

「渡会さんらしいな……」

「あれでいて渡会さんってどこも悪くない健康体なのよね。頭も耳もハッキリしているし、かなり健康的なおじいさんよね」

「渡会さんって、もっとクソジジイかと思ったけど案外良い人だったよね」

「最初のお酒事件の時はびっくりしましたけどね。僕の中であの合宿にお酒やおつまみを持ち込むという発想は無かったな」

「俺だってそんな事考えなかったよ。喫煙者が俺しかいなくてほぼ禁煙状態にさせられたのが一番苦しかったが」

「渡会さんって、意外にもタバコ吸わないのよね」

「なんかボクの中の酒呑みのイメージと違う」

「何でも大増税で値上がりした時に、嫌になって禁煙したって言ってましたよ?」

「そうなのかー。それでも止められなかった俺って何なんだ」

「まぁまぁ。おじさんも今は加熱式タバコで我慢してくれているしさ。ボクが紙タバコの煙苦手だからね」

「あらぁ。山室さんやっぱり琴ちゃんには甘甘なのねぇ」

「よせよー。愛する人のためなら本来は禁煙してなんぼなんだ。ほら、将来の事もあるし……な」

「うふふ。その時は禁煙よろしく」

「あぁ、任せておけ」

 

 すると、祁答院は意地悪っぽく片方の口角を上げてこう切り出した。


「何なら今この瞬間から禁煙しませんか?」

「な、何だって!?」

「肥満禁止法なんて出来る国です。その内タバコ禁止法も出来るかもしれませんよ!?」

「もう禁止法は止めてくれよー。国がどうこう口を出してくる話じゃないだろー!?」

「あはは。山室さんたら禁止法恐怖症になっちゃいました?」

「むしろ君達はならないのか? あんな目に遭わされたら『禁止法』って響き自体に恐怖を覚えても仕方ないだろう!?」

「まぁ、確かに。僕も『禁止』って言われるとビクッとしますね」

「あらあら、男性陣はビビりだこと」

「ねぇ、未来お姉ちゃん。おじさんも祁答院さんも情けないねー」

「私達は強く生きましょうね、琴ちゃん」

「そうだねー!」


 祁答院と山室は「女性陣は強いな……」と呟きながらそれぞれの飲み物を飲んでいる。


「そう言えば、片山さんは……更紗ちゃんの減刑を求める署名活動も終わって今は仕事に励んでいるのよね?」

「あぁ。署名を集めている時には社の方にも連絡があったよ。署名活動の事も記事にしてくれって。あの人、一歩間違えれば井之上さんに殺されてたっていう立場だったのに、あんなに熱心に署名活動していたの偉いよな」

「そうですね……。でも、それが愛の力なのかしら」

「一緒に捜索している内に、一生懸命な井之上さんに惹かれたんでしょうね」

「片山さん、バツイチだからぁ。合宿前は出してなかった離婚届を合宿後に潔く出したって言ってたよー。でもさぁ、更紗お姉ちゃんとは年齢差も考えないとね」

「もうそれは父性的な何かなのかしら?」

「いや、あれはLOVEだね」

「そうなのね……」

「年齢差で行ったら俺と琴ちゃんもけっこうあるし」

「何歳差でしたっけ?」

「二十八歳差だ」

「「おおおっ」」」


 すると琴は「えへへ」と笑った。


「ふたりが幸せなら、年齢差なんて関係ないもんねー」

 

 そう言うと山室と指でハートマークを作って見せる。


「だから、更紗お姉ちゃんと片山さんの二十八歳差もオールOK!」

「あ、俺達と同じ年齢差だったっけ?」

「そうだよー。あっちのカップルの方が年上だけど」

「へぇぇ。奇遇だなぁ」


 するとさらに琴は「えへへ」と笑った。


「所で? 波岡さんと祁答院君、結婚の話はどうなってるんだ?」

「あ、それですねぇ。僕たち、実は……」

「今日ここに来る前に入籍して来ました!」

「「え」」

「実は、未来のお腹に新しい命を授かりまして。それでちょっと急いだ感じですー」

「うふふ。この子に会える日が楽しみで。合宿から帰った後わんちゃんもお迎えしていたんだけど、その子とこの子が仲良くしてくれるのが今から楽しみなの」

「未来お姉ちゃんおめでとう! 素敵!」

「いやぁ、それはめでたいなぁ。ふたりとも、おめでとう!」


 琴は未来のお腹に手を触れて、少しはにかんだように笑いながらうっすらと涙を浮かべる。


「こんなに幸せな日が来ると思っていなかったね」


 未来も、目に涙を浮かべながら微笑む。


「そうね。全ての奇跡に感謝しないとね」


 それを、ふたりの男性が愛おし気に見守っているのだ──。

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