47.告白
「今、笛の音が聞こえなかった?」
北の森を抜け、南西方面の廃墟群の近くにいた琴は、その音に気が付いた。
「あぁ、微かにした気がする」
「祁答院さんのホイッスルか!?」
「南の、あれは港の方向からか? 急ぐぞ皆!」
「おじさん、走る?」
「あぁ、走るさ!」
「カネばぁはどうするのさ!?」
「……あ……」
琴、山室、片山は祁答院のホイッスルの音を感じ、緊急の知らせだと察知したが、カネ子はいつも通りどこかぼんやりとしている。
「私の事は置いて行ってくれてもいいよぅ……」
「そうはいくか! えぇい、ばぁさん、俺の背中に乗れ!」
片山はそう叫ぶとカネ子をおんぶする姿勢を取った。
「私は重いから無理だよぅ」
「それでも俺の方が重いわ! だから大丈夫だ! とにかく急ぐんだから乗れ!」
***
祁答院、未来、佐恵子、渡会は彼らの全力で走って港の桟橋まで来ていた。目前には先んじてここに到達していた更紗が今まさに死のうとしていた。更紗は手にした包丁を首に当て、ためらい傷を数本作っている状態だった。
「更紗ちゃん、死んじゃダメ!」
「井之上さん、早まるな!」
更紗はずっと包丁を四人に向けて目には涙を浮かべている。
「死なせてよ! わたしをあの人の所へ逝かせてよ!」
「その前に、聞かせて!」
「何をよ!」
「あの日、高遠先生と大嶺、そして更紗ちゃんに何があったのか。誰が無線機を壊したのか。あなたの部屋から無線機が見付かったのは何故なの!? 大嶺はどうやって死んだのか。それと、白石先生は何故あんな無残な殺され方をしなきゃいけなかったの!?」
「それは……」
***
高遠が殺された日、大嶺は彼の肉を夕食のカレーに使った。その事を知らされた更紗は、咄嗟にある事を思い付いた。
「わたしはあの時、瞬時に大嶺への復讐を誓った。だから、部屋で吐くふりをして食堂を飛び出して、高遠先生の部屋に向かったの……」
そこで更紗は、白石が本土と連絡を取れなくするように無線機を破壊し、受話器を自分の部屋のタンスに隠したと告白した。
「それから、わたしはチャンスをうかがってキッチンから包丁を盗んだ。玄関前で祁答院さんと山室さんが見張りをしていたから少し厄介ではあったけど、ふたりとも呑気に恋バナなんてしてたからやり通せると思っていたわ」
そして、リュックに包丁を入れ、捜索の途中で大嶺を発見したら殺すつもりだったと更紗は言った。
「片山さんは、邪魔になるようだったら殺すつもりだった。あの人、いつも愚痴ばかりで大して役にも立たなかった。一日目の捜索の時も、二日目の捜索の時も、わたしが先んじて他の場所も見たいって言って反対された時、本気で殺してやろうかと思ったわ。でも、一応片山さんは大嶺の仲間ってわけでもなかったから見逃してあげたの」
そして、二日目の夕方、白石の遺体が発見されたのだったが。
「あの時、わたしの中で何かが切れた。もうあなた達ののんびりペースには付き合っていられないと思った。わたしは、白石先生の遺体を見た時に、もう大嶺をこれ以上野放しにしてはおけないって思った。絶対に殺してやるって思った。高遠先生を奪ったうえ、女性を蹂躙してなおかつ肉を喰ったあいつが憎かった。だからこそ、皆から離れてひとりで探しに来たの」
そして、更紗は自ら分析した通り港の近くの廃屋を重点的に捜索し、何とか他のメンバー達よりも早く大嶺を発見する事に成功した。
「大嶺を発見した時、ヤツに共感するふりをして近付いたの。『わたしも高遠先生が嫌いだった。いつも偉そうに指導して、気に食わなかった』ってね。本当に、口にするだけでおぞましい嘘だったわ。そうしたら、大嶺の奴は手放しでわたしを受け入れて、喜んで白石先生を殺害した時の様子を語ったわ」
大嶺が語る所によると、極度の興奮状態の上、腹が減っていた彼は、手っ取り早く腹と性欲を満たすために合宿所に戻ったと言った。そこで、肉と女を手に入れるために猫の鳴き声を模してみた。その上で、男が複数が出てきたら全員殺そうとしていたと、女が複数出てきたらひとりは生かして犯そうとしていたと告白をした。そして、あの時は白石がひとりで出てきたため、大成功だとほくそ笑みながら襲い掛かったと語ったという。
『あの女俺がぶち込んでやったらヒイヒイ言いながら悦んでよぅ、死ぬ前に昇天して嬉しかったんじゃねぇか!? それでよ、コトが済んだらそこら辺にあった石で頭を殴って殺して、それであいつの乳房を美味しく頂いたってわけよ』
「そんな……酷い……」
「聞くに堪えない話だな……」
未来達四人は怒りでわなわなと震えている。
「大嶺の告白を聞いてから、私は大嶺に『私だって白石先生の事も鬱陶しかった。いつも高遠先生とつるんで私達をいじめているようにしか思えなかった』って嘘を付いた。そうしたら、大嶺は『俺の事を分かってくれていたんだな』って感動した様子でわたしに近付いてきて、そしてわたしを抱きしめて来た。本当に気持ち悪かったわ。そして、その時に後ろポケットに入れていた木の枝で奴の目を刺したの」
更紗は、大嶺の右眼球を枝で刺すと、即座にリュックから包丁を出して彼をメッタ刺しにした。未来達が聞いた断末魔の様な悲鳴は、大嶺が目玉を刺された時のものだった。
「じゃぁ、大嶺はあの時殺されたばかりだったのか……?」
「そうよ。港の廃屋に的を絞ってはいたけど、けっこうな量の廃屋があるじゃない。それでちょっとヤツを見付けるのに手間取ったのよ。だから、あなた達がすぐに現れてギョッとしたわ。でも、あいつを殺した後で良かった。あそこであなた達に邪魔されていたら、あなた達の事も殺さなきゃいけなかったから」
「更紗ちゃん……そんな……」
全てを話終えると、更紗はキッと未来達を睨みつけ、そして包丁を自らの首元に当てた。
「お話は終わりよ。わたしはあの人の元へ旅立つの」
その刹那。
「ちょっと待ったぁぁぁぁぁ!」
大声と共に、後方から何かしらの粉末が噴射されてきた。
何かしらの粉末は更紗の顔面を直撃し、彼女は目を手で押さえながら悶絶している。
「間に合った!」
そこには、山室、琴、カネ子を背負った片山がいた。
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