46.発見
未来、祁答院、佐恵子、渡会は南の森を抜け、港近くの廃屋群に到着していた。周囲には比較的新しい廃屋が立ち並んでいる。
「やはり港の近くは栄えていた感じがしますね。比較的現代に近い作りの家が多いって感じます」
祁答院が周囲を懐中電灯で照らしていく。
「比較的新しいからこそ、大嶺は逃げ込みやすいんじゃないかしら?」
続いて未来も懐中電灯を持つ。佐恵子と渡会は後方でスマホを手に持ち灯りを照らしている。
「いよいよ大嶺がいるって感じるわ。どうしよう、どの家から見ていく?」
その時だった。
『ぎゃぁぁぁぁぁぁ!』
辺りに断末魔の様な男の悲鳴が聞こえた。
「なんだ!? どこからだ!?」
「祁答院さん! あっち! 左の方から聞こえる!」
「今の、大嶺の声かしら!?」
「野郎、現れたか!?」
四人は固まって周囲を照らす。そして声がした方向を凝視する。
「あの家だ! 玄関が開いている!」
祁答院が指差した先には、青いトタン屋根の平屋の一軒家があった。玄関は開け放たれている。
四人は駆け足でその家の前まで行くと、大声で叫んだ。
「大嶺! 出て来い! もう逃げられないぞ!」
「そうよ! 出て来なさいよ! 今更逃げられないわよ!」
「大嶺さん、出て来て下さい!」
「出て来い! この野郎!」
しかし返答は無い。
「入ってみるしかないかしら……」
未来が玄関の中を灯りで照らす。
「それしかないようだね。行くしかない。僕が先頭を行く」
祁答院を先頭に、未来、佐恵子、渡会が続いて玄関を入っていく。すると、廊下の右手の扉が開いており、その中に人影があった。
「大嶺!」
祁答院が臨戦態勢で扉から姿を現す。すると、中には更紗が立ち尽くしていた。手には包丁を持っている。そして何より、更紗は血塗れだった。
「井之上さん……!」
「……祁答院さん……」
視線を更紗の足元にやる。すると、そこには右目に枝を刺され、腹部には複数の刺し傷がある大嶺が倒れていた。
「大嶺!?」
「更紗ちゃん……! まさか……」
未来の問いかけにかぶせるように、更紗は言葉を発した。
「そうよ。わたしが殺したのよ」
「更紗ちゃん!? 何でっ……!」
「何で……? あなたには分からないでしょうね。いつも祁答院さんと公然とイチャイチャしていたあなたには、決して分からないわ……」
「それ、どういう事……?」
「あたしは、何となく分かってたわよ!」
「佐恵子姐……いたんですね。で、何が分かっていたんですか?」
「あなた、高遠先生と愛し合っていたでしょう!?」
「……っ……!」
祁答院と未来、そして渡会は佐恵子を驚いた眼で見ている。
「あたし、そういう人の感情とか勘ぐる癖があって、人間観察が趣味なのよ。それで気付いたの。更紗ちゃんと高遠先生は愛し合ってるんだなって」
「……そうですよ。わたしと高遠先生は愛し合っていました。あなた達には決して悟られないように。人知れず、ひっそりと……」
「そんな……気付かなかった……」
「僕も気付いてませんでした……」
「あっ。だからあの時、高遠先生と廊下でぶつかった時、あれは更紗ちゃんの部屋から出て来たからだったのね」
「そうよ。わたしと高遠先生はこの合宿で知り合って、そして愛し合い結ばれた。高遠先生はわたしに愛を教えてくれた。高遠先生はわたしのかけがえのない存在だった。なのに、この男、大嶺があの人を殺したから! わたしに愛する人の肉を喰わせたから……!」
更紗はなおも大嶺の遺体に包丁を突き立てようとする。
「やめるんだ!」
祁答院が更紗を止めようとするが、更紗は包丁を振り回して祁答院たちを近付けまいとする。
「来ないでぇぇ! わたしもあの人の所に行くの。あの世で彼に会うのよ!」
「落ち着くんだ井之上さん! 包丁を捨てて!」
「そうよ更紗ちゃん! あなたまで死んでどうするのよ!」
「うるさい! 黙れ! わたしは……わたしは……!」
すると、更紗はさらに包丁を振り回しながら四人に向かって来た。祁答院は未来を抱きしめて包丁から身を避けている。その隙を通って更紗は歩を進める。
「危ねぇ!」
渡会が佐恵子の腕を引っ張って包丁を避けると、ふたりはバランスを崩して倒れ込んだ。
「ダメだ! これ以上人を傷付けちゃダメだ!」
祁答院は更紗に向かってタックルを仕掛けた。しかし、更紗はそれをかわすと「来ないでぇ!」と叫びながら包丁を振り回す。そして包丁は祁答院の腕を切り裂いた。祁答院はその場にうずくまる。
「きゃぁぁぁ! 祁答院さん!」
未来が祁答院に駆け寄る。
「だ、大丈夫です……」
祁答院は上腕に出来た傷を抑えながら立ち上がろうとする。
「更紗ちゃん! 止めて! 話をしましょう!」
「話す事なんて無いわ! わたしはあの人の所に行くの!」
更紗は開け放たれた扉まで走って行くと、そのまま外へと駆けて行った。
「井之上さん!」
「更紗ちゃん!」
祁答院と未来は更紗を追って行く。渡会と佐恵子も体勢を直して後に続く。
四人は更紗に続いて外へ出ると、祁答院は持っていた非常用のホイッスルを強く吹いた。
「どうか、どうか皆に音が届きますように!」
「祁答院さん、止血しないと……!」
未来は持っていたタオルで祁答院の傷を強く縛る。
「ありがとう、波岡さん。さぁ、急がないと!」
そして四人は、更紗が走って行った桟橋の方向へと駆け出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます