40.団結
メンバー達が合宿所に戻ると、そこには既に更紗の姿は無かった。
「更紗ちゃん……ひとりで大嶺を探しに行ってしまったの?」
未来はがらんどうの食堂を見回す。山室と片山も合宿所内を探すが、どこにも更紗の姿は無かった。佐恵子は更紗の部屋を訪ねて行っている。
「井之上さんは本当にひとりで大嶺の捜索に行ってしまったみたいだね。僕たちはこれからどうすれば良いんだ……明日の夕方までどう過ごすのが正解なんだ」
白石の遺体にシーツを掛けて戻って来た祁答院は、椅子に腰かけて頭を抱えて嘆いている。
「こうなったら、全員で夜通し大嶺を、更紗ちゃんを探すしかないんじゃないかしら?」
「波岡さん……」
「俺もそうするしかないと思う」
「山室さんまで……」
「だってそうだろう? このままじゃ井之上さんは大嶺の餌食になるかもしれない。あの巨体相手に女の力では対抗できないだろう。だから、むしろ大嶺よりも井之上さんを先に探し出す必要があると思う」
その時だった、佐恵子が慌てて食堂に入って来た。
「ちょっと皆! 更紗ちゃんの部屋を探しに行ったら、これが置いてあったのよ! タンスからコードがはみ出ていて、開けてみたらあったの!」
佐恵子が手にしていたのは、無線機の受話器だった。
「何故更紗ちゃんの部屋にそんなものが……!?」
「井之上さんが無線機を壊した張本人だって事か?」
「恐らくそうだろう。何故かは分からないが彼女が無線機を壊したんだ」
「更紗ちゃん……何で……?」
メンバーたちは困惑した。何故更紗の部屋に壊された無線機のパーツがあるのか。皆一様に頭を抱えた。しかし……。
「あたしは、なんだか分かるかも」
「佐恵子姐?」
「だって、更紗ちゃんは……いえ、何でもないわ」
「越本さん、皆にも分かる様に説明して下さい」
祁答院が佐恵子を促す……が。
「これはあたしの推測だから、あたしの口からは言えないわ。これは更紗ちゃん本人から話をしてもらうべき案件よ。でも、ひとつ言えるのは、人の感情なんて、案外単純なものなのよって事かしら」
「いまいち分かりませんが、井之上さんが危険に晒されている事には変わりはない。こうなったら全員で夜通しふたりを探しましょう」
「ボクはおじさんに賛成する」
「あたしも」
「私もです」
「俺も……かな……。さっき、一度は突き放したが、井之上さんは二日間共に捜索した相棒だ。放っておいてはおけないさ」
「私は足手まといになるかもしれないけど……」
「俺はまだまだ現役だぜ」
「祁答院君、君はどうする?」
山室に促されて祁答院は頭を上げるとまっすぐに視線を外に向けた。
「……僕も賛成します。そうするしか道はないです。これ以上犠牲者を増やしたくない。ここまで一緒に頑張って来たメンバーを失いたくない」
「よし、そうと決まれば合宿所中の懐中電灯を集めるぞ!」
「「はい!」」
メンバーたちは合宿所内を探しに探して、非常用の懐中電灯をかき集めた。スマホも電波こそ繋がらないが、懐中電灯としては機能するから持って行く事にした。
非常用袋の中からはふたつの笛も見つかったので、それも祁答院と山室が持つ事になった。
「ここからは二手に分かれよう。祁答院君、波岡さん、越本さん、渡会さんが南側を中心に、俺、片山さん、畠山さん、米田さんが北側から攻めよう。危険を感じたら全力で笛を吹くんだ。そうしたらお互いが駆け付けられる。聞こえる範囲にいれば、だがな」
「分かりました。こちらも気を付けて捜索するので、山室さんたちもどうかお気をつけて」
「護身用に包丁とか持って行かなくてもいいのか?」
片山が物騒な事を言い出す。
「包丁だなんて持って行かなくても良いだろう。俺たちは殺し合いに向かうわけじゃない。あくまで大嶺捕獲と井之上さんの安全を確保する事が目的だ」
「俺は包丁あった方が良いと思うけど」
「なんならおじさんは変態避けの催涙スプレーを持っているから大丈夫」
「そうなのか?」
「あぁ……持っているな」
「なら頼りにしてるぜ」
「あぁ……」
「じゃぁ、荷物は最小限に。って、畠山さんその大きなリュックをやっぱり持って行くのか?」
「ボクの大事な物が入っているから……」
「置いて行けないのか?」
「それは無理」
「そうか、なら仕方ない」
「じゃ、僕たちはもう出発しますよ。事は一刻を争うから。井之上さんが危険な目に遭う前に彼女だけでも見付けないと」
「あぁ、そうだな。じゃぁ、お互い健闘を祈る」
そうして、メンバーたちは二手に分かれて更紗と大嶺の捜索に出発した。時刻は二十時を回った頃だった。
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