36.捜索二日目②更紗&片山
「うっわ! 凄いホコリだ!」
片山はゴホゴホと咳込んでいる。
「俺、軽いハウスダストアレルギーなんだよなぁ」
「ならマスクでもして下さい」
愚痴を言いながら捜索する片山に対して、更紗は事務的に、そして的確に捜索を続けていく。
「今日この辺りで大嶺が発見されなければ、いよいよ島の南側に潜伏しているって事になるな」
「そうですね。明日には確実に大嶺を発見できるはずです。彼が移動していなければ、の話ですが」
「移動出来るだろうか? 狭い島で六人がウロウロと捜索しているんだ。あの巨体が動けばどこかで姿を見られてもおかしくはない」
「彼が逃げる時の素早さを見たでしょう。いざという時、大嶺は瞬発力があります。彼にとっても今は危機的状況のはず。どこでどんな行動を起こすかは未知数です」
「なんだか人の行動に詳しそうだな……」
「心理学をかじっておりますので」
「そうなんだ。じゃぁプロファイリングで奴の居場所を推定出来たりするのか?」
「それはどうでしょう。わたしは大学で心理学を学んだわけではありません。全て独学です。それがどこまで通用するか」
「まぁ、どちらにせよ心強いよ」
更紗と片山は一軒につき大体三十分で捜索を終えていた。この調子で行けば、午後早くにも担当エリアを終えられるかもしれない、と更紗は踏んでいた。
「どうでしょう。早くこのエリアの捜索が終わったら、島の南側も見に行きませんか?」
「そんな……南側は明日の予定だろう」
「だから、今日の内に見てしまうんです」
「何故だ」
「え?」
「何故そんなに焦る。焦らなくたって明日の夕方には船が来る。最悪船に乗り込んだら警察に連絡してプロに大嶺を捕まえてもらえばいいじゃないか」
「それじゃダメなんですよ……」
「え?」
「これは私たちの問題です。私たちで解決しないと。私はこの手で大嶺を捕まえて懺悔させたい」
「君の熱い想いは受け止めたいが、独断で南側を捜索する事には反対だ」
「何故でしょうか?」
「いざという時、他のメンバーは北側にいるんだから助けが呼べない。そこまで声が届かなかったら、俺たちはふたりとも大嶺に殺される危険性が出て来る」
「そうでしょうか」
「そうでしょうかじゃない。リスクはきちんと考えるべきだ」
「昨日も言ったが、こういう事は俺達単独では決めない方がいいしな」
「今更協調とか言い出しますか?」
「皮肉るねぇ。俺だって輪をかき乱したくてかき乱しているわけじゃない。最低限の常識と協調性はあるさ。君だってそうだろう?」
「……そうですけど」
「なら、独断での行動は慎め。何かあってからじゃ遅い」
「……分かりました」
「分かってくれて嬉しいよ」
更紗は渋々と言った表情で片山に同意をする。しかし、更紗の中の秘めた炎はくすぶったままだった。
「このエリアはあと何軒くらいあるかな?」
「ざっと見た感じ十軒ってところじゃないでしょうか」
「どこに行ってもホコリだらけだ。井之上さんマスク持ってる?」
「持ってますよ。リュックの中に入っています」
「何だか大き目のリュックを持っているよな。何をそんなに持ち歩く必要があるんだ?」
「女性には色々とありますし、大は小を兼ねます。だからこそ余分なマスクだって入っているんです」
「なるほどねぇ……」
更紗はリュックの口を小さく開けると、中からマスクを一枚取り出し「どうぞ」と片山に手渡した。
「ありがとう。こういう準備が良い所がなかなかに女性らしいな」
「ジェンダーバイアスですか? 今時流行りませんよ」
「ははは……すみません……」
「いいです、気にしていません。じゃぁ、次の廃屋に行きましょう」
このふたりに限っては、主導権は更紗が握っているようだった。片山は偉ぶっている態度は取るが、実質的には更紗に言われた通りに行動していた。
この後の捜索も、更紗主導で綿密に行われて行った。どこに大嶺が潜んでいようと、必ず見つけ出して見せるという更紗の意気込みを片山は感じていた。
この日の内に南エリアも見てしまおうという更紗の申し出が却下された代わりに、更紗は一軒一軒をより細かく見て回った。しかし、大嶺はどこにも潜んでいなかった。
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