33.一夜明けて
「おはよう」
「おはようございます」
一夜明け、メンバー達が食堂に入って来た。捜索が始まった昨日からは、調理と片付けの当番は佐恵子とカネ子が担う事になっていた。
「おにぎりとお味噌汁出来てるわよ。さぁ、食べて食べて」
「佐恵子姐、おはようございます」
「未来ちゃん、冴えない顔ね」
「そりゃ、夜中にあんな事があったから……」
未来は夜中に包丁が無くなったと聞いてから一睡もする事が出来なかった。目の下にはうっすらとクマが出来ている。
「眠れなかったのは私だけじゃないみたいですね。何だか皆眠たそう」
「ん~、おはよう未来お姉ちゃん、佐恵子姐」
「琴ちゃんおはよう。琴ちゃんも眠れなかった感じ?」
琴は眠気がまだ残っていそうな感じで目をこすっている。
「途中までは寝ていたんだけど、包丁が無くなったって聞いて怖くて眠れなくなっちゃった」
「私もよ。皆怖いのよね、きっと。誰が包丁を盗んだのかしら」
そこに更紗が会話に加わった。
「大嶺でしょうか?」
「更紗ちゃん、おはよう。大嶺が入って来た形跡はないみたいなんだけど、ここにいる人間を疑いたくはないわよね」
「そうですね……。誰が盗ったにせよ、目的が気になりますね」
「あ……祁答院さんだ」
「ひゅー! 未来ちゃん!」
「やめてください、佐恵子姐。この非常事態に」
「もー、いいじゃなーい」
祁答院は真っ直ぐに未来の元に寄って来た。
「波岡さん……昨夜は良く眠れ……てなさそうだね、その様子だと」
「ちょっと怖くて。あれから眠れなくて」
「そうだよね、怖いよね。他の皆さんも眠れなかった感じですか?」
「あたしは寝たわよ」
「わたしも寝ましたね」
「ボクは眠れなかったー」
祁答院は女性陣の勢いに圧倒されながらも、笑みを絶やさなかった。
「今日で大嶺が捕まるといいんだけど。いよいよ明日は本土に帰れる日ですし。最終日くらいゆっくり眠りたいですよね」
「そーそー! ボクたちに安眠を!」
そうこうしている内に、全メンバーが食堂に集まった。おにぎり一個と味噌汁という質素な食事を取りながら山室がメンバーたちに説明をする。
「今日は北半分の廃屋の捜索です。一応確認しておきますが、東側を祁答院君と波岡さん。北側を片山さんと井之上さん。西側を俺と畠山さんで捜索しましょう。もしも大嶺を見付けた時、凶器で襲い掛かられたら無理はしないで逃げる事。以上」
「今日中に南半分の捜索もする事は不可能なんでしょうか?」
更紗が疑問をぶつける。
「狭い島とはいえ、廃屋はそれなりの軒数がある。無理をして注意力が散漫になったら大変だし、今日は北半分に留めておく事が得策でしょう。もしも今日大嶺が見付からなかったら、明日南半分を捜索する事にしましょう。南は港にも面しているし、夕方には船が来る。明日南を重点的に捜索する方が効率的だと思うんだ」
更紗は「なるほど」と合点が言ったように呟いた。
「昨夜も注意喚起に回りましたが、包丁が一本行方不明です。この中の誰かを疑いたくはないが、大嶺が侵入したという形跡もない。ここは、心を団結させて捜索に向かうべきだと思う」
「そうですね……」
祁答院が同意する。
「この中の誰かが刃物を持っているかもしれないってのに、誰も疑うなで事は済むのか?」
片山が口を挟む。
「少なくとも、この中の誰かがメンバーを殺す動機が見当たらない。無差別殺人をするようなサイコパスはこの中にはいないと信じたい所だ」
「いないよねぇ、そんなサイコパス?」
琴はまだ眠たそうだ。
「とにかく! ひとりで行動しない事が重要だ。無理はしないで下さい」
「「はーい」」
そうして、簡単な朝食を済ませてメンバーたちは一旦部屋に散り散りに戻って行った。捜索の開始は一時間後の八時からだ。
「頑張ってね、未来ちゃん!」
「ありがとう佐恵子姐。今日こそ大嶺を見付けたいわ」
「それにしても、どこに隠れているのかしらね、大嶺の奴」
「分からないわ。でも、森の中にはいなかったからきっとどこかの廃屋にいると思うんです。気を引き締めないと!」
「無理しちゃダメよ。ピンチの時は祁答院君を頼るのよ」
「それはもちろんです」
「ひゅー。やっぱ熱いわね」
「だからやめてくださいって!」
そうして一時間後の八時。三組の捜索隊がそれぞれの持ち場に散って行った。
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