29.米田カネ子と畠山琴の場合
「私はねぇ、子供を産んでから太ってねぇ……。そんなに面白い話は出来ないんだけど……」
カネ子は記憶を辿る様に話し始めた。
「私は全部で七人子供を産んでね。二十歳から十二年で七人だ。いつも妊娠していたようなものだね。昔は今みたく体型を戻す下着なんかもなかったから、少しずつ体型が崩れて行ってね……。それでもね、昔は子育てと農作業で忙しくて、そこまで太っちゃいなかったんだよ。今みたく太ったのは、老後からかねぇ。私には四人の娘と三人の息子がいて、末娘が私と一緒に暮らしてくれたんだけど、それはもう私の事を大切にしてくれて。私がいくら家事をするって言っても、『お母さんは今まで頑張って来てくれたから』って言って全部やってくれてねぇ。娘の作るご飯は美味しくてね。洋食も和食も何でも美味しかった。だから、私もつい食べ過ぎちゃってね。それでいて出掛けるわけでも無いし、運動をするわけでも無いしで、少しずつ贅肉が増えて行ってねぇ。いわば、幸せ太りってやつかねぇ。あ、私の夫は子供らが巣立った頃に心臓病で死んでしまってね。畑も手放してしまったんだよ。それから私は末娘と一緒に暮らしているわけだけど。そんな暮らしももう十年以上になるから……大切にされ過ぎて悪いくらいだよ。でも、幸せだねぇ……」
カネ子は目を細めてそう語ると、手に持っていたお茶を少し口に含み微笑んだ。
「大切にされすぎて太っちゃったの、それボク分かるな……」
琴がふとそんな言葉を漏らす。
「え? 琴ちゃんもそんな感じで太っちゃったの?」
未来がすかさず琴に質問を投げかける。
「そうなの。ボク、高校生の時から八歳年上の彼氏と付き合ってるんだけど、彼氏がご飯を美味しく食べる女の子が好きって言って、ボクに沢山ご飯を与えて来るの。それまでボクって瘦せ型タイプだったんだけど、あんまり彼氏が食べさせてくるものだから太っちゃって。彼氏は『ギスギスに痩せた女よりふっくらしている琴の方が好き』とか言って、ボクが太るとむしろ喜んだの。だから、ボクがダイエットしようとしたら『もう別れる』って脅してきて。でも、ボク、そういう所以外は彼氏の事大好きだから別れたくなくって。仕方ないから太ったままでいたら、合宿への招集状が来ちゃったの」
「えぇ……そんな愛の示し方ってありなの?」
「未来お姉ちゃんもそう思うよね? でも、そういう愛もあるんだよ。そういう、沢山食べさせてわざと太らせる嗜好を持つ人をフィーダーって呼ぶんだって。ボクもその愛は歪んでいると思うけど、でもとっても彼氏って優しいんだよね……」
「わたしは、そんな愛情間違っていると思うわ」
「更紗お姉ちゃん……」
「だって、肥満は将来自分の寿命を縮めるかもしれないのよ。私も凄く太っていた時期があるからこんな事言うのはおかしいかもだけど、でも、健康的に生きるなら適正体重を守った方がいいわ」
「それで、彼氏さんは今回の合宿については……?」
「うん。凄く落ち込んでいたよ。痩せてるボクなんてボクじゃないって。愛せなくなるかもしれないって言われた」
「でも、琴ちゃんはここに来たのね」
「うん。ボクは太っていても痩せていてもボクである事に変わりはないんだから、ありのままのボクを愛してくれないと困るから……」
「琴ちゃん……」
未来はうっすらと涙を浮かべていた。
「未来お姉ちゃん、泣かないで。これはボクが自分でした選択だから。ボクは、こんなに太りたくなかったんだから。元の自分を取り戻すための通過儀礼のようなものなんだよ、この合宿は。こんな事になっちゃったけどね」
男性陣も、神妙な面持ちで琴の話に耳を傾けていた。
「同じ男としても、ちょっとその彼氏の考え方は分からないかな……」
「写真バカおじさんもそう思うんだ?」
「あぁ、だってそうだろう。何でわざわざ愛する人の寿命を縮めるような真似をするんだい。それこそ、愛する人とは一刻も長く共に生きていたいだろう?」
「そこがフィーダーって呼ばれる人種の闇なんだよ」
「そうか。俺も新聞記者としてまだ知らない事が多いな」
「ははは。勉強になった?」
「あぁ、なったよ。ありがとう。で、期せずして米田さんと畠山さんの告白が終わったな。じゃぁ、後は……」
「俺だな」
「そう。渡会さん。お願いします」
「最後の〆は俺ってわけか。くーっ」
そうして、この暴露大会の最後は渡会の告白という事になった。
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