27.越本佐恵子の場合
「あたしの話はさ、本当に大した事がないのよ」
佐恵子はバツが悪そうな顔をしながら話を進める。
「あたしはさ、みんなが知っている通り普通のおばちゃんなのよ。韓流ドラマが好きで、スーパーの青果売り場でパートをしていて、どこにでもいる普通の主婦なのよ。 それでさ、休みの日は友達と新大久保なんかに行って韓国グルメ三昧をするの。もちろんお酒はマッコリよね。ここぞとばかりに食べて、飲んで。〆のデザートまで楽しむのよ。それでもさ一緒に行く友達は専業主婦だから、予定の無い日は優雅にジム通いよ。それで体型を維持しているのね。私は週に三日パートをしているって言い訳をしてジムになんて行かなかったの。それで、家で韓流ドラマを観ている時はカウチポテトよ。最高よー、ソファに寝そべりながらポテチを食べてドラマ三昧って。段々と太って行くのにも気付いていはいたんだけど……。それでもやっぱり美味しいものは食べたいし、運動はしたくない。旦那が夜遅ければピザをデリバリーしちゃうし、お昼ご飯はパートで疲れてるって言い訳をしてファストフードよ。それでねぇ、こんな身体になっちゃってねー。でも旦那も何も言わないから甘えてたのね。それで、そのまま過ごしていたらこんな合宿の招待状が来ちゃってさ。しまった。もっと真剣にダイエットしておくべきだった。って思っても後の祭りよ。それで、ここにいるってワケ。本当に大したことないのよあたしの話ったら……」
佐恵子は苦笑している。
「お子さんは、もう大きいのかい?」
今まで黙っていたカネ子が口を開いた。
「えぇ。子供は高校二年生で。まだまだ子供の面もあるけれど、もういっちょ前に男って感じで。私に似ないでしっかりしているし、すっかり手は掛からないんですよ」
「そうかい。子育てが一段落すれば、そりゃ主婦はだらけるかもしれないねぇ」
「カネばぁでもそんな事が?」
「ああ、私が主婦だった頃はそんなにゆっくりする時間は無かったねぇ……」
「カネばあは忙しかったのね。カネばあの話も気になるわ」
「じゃぁ、井之上さんが話し終わったら私が話をさせてもらおうかねぇ」
「是非そうして」
佐恵子は「これで私の話は終わりなのよ」と言った。未来と琴は、「何だか佐恵子姐っぽくて良かったですよ」と口を揃えて言った。
「私、新大久保って行った事ないんですよ。韓国のスウィーツも映えるし美味しいですよね」
「ボクは大学が近いからちょくちょく行くよー」
「そうなんだ? じゃぁ今度琴ちゃんに案内してもらおうかな!?」
「未来お姉ちゃんのためなら張り切って案内するよー」
「あらー、あたしも混ぜてもらおうかしら。美味しい焼肉の店なら沢山知ってるわよ!」
「マッコリも美味しいですよねぇ。ほんのり甘くて飲みやすくて」
「あらー、未来ちゃんたらイケるクチ? なら是非女子会しましょうよー」
「ねぇ。更紗ちゃんもどう?」
「わたし……ですか? え、えぇ。是非ともご一緒したいです」
「なら女子会で決まりですね」
「あらー、あたし琴ちゃんと張り切って案内しちゃうわよー」
「ボクも張り切ります~」
女子達が盛り上がっていると、ゲフンゲフンと咳払いをする者がいた。片山だ。
「君達さ、痩せる気ある?」
「何よ片山さん。またあたし達に文句があるって言うの? さっきせっかくあなたの事少し好きになれたかと思ったのに」
「文句ってわけじゃないが、焼肉だスウィーツだって、痩せる気ないだろう?」
「そんな事ないわよ! 食べたら運動するわよ!」
「本当か? 韓国なら、韓国焼酎もなかなかうまいぞ」
「何? 片山さんも一緒に行きたいわけ?」
「そ、そんな事はない!」
「素直になりなさいよー」
「だから違うって!」
片山は、「参ったな」と言いながら口をモゴモゴとさせている。皮肉屋で文句の多い片山も、佐恵子のパワーをもってしては無力のようだ。
その様子を、カネ子は微笑んで見ており、渡会は「俺も酒飲みてー」と言いながら見守っていた。
「まぁ、そういう事にしておいてあげるわよ。さっ。どんどん眠る時間が遅くなっちゃうから次は更紗ちゃんね」
そうしてバトンは更紗に渡された。
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