25.祁答院優音の場合

「僕は、子供の頃からずっとラグビーをしていたんですが…」


 祁答院は先ほど未来の手を取っていた人物と同一とは思えないほどか細い声で話し出した。


「将来は絶対にプロのラグビー選手になるんだって思って、子供の頃から身体を大きくしようと思ってけっこう食べていたんです。高校はラグビーの名門校に入って、ますます強靭な身体が必要になって、より多く食べる様になりました。大学でもラグビー部だったんですが、その途中で大怪我をしてしまって、プロへの夢は絶たれました。それまでは身体を大きくするため、スタミナを付けるために大量の食事を摂っていたんですが、そこからはそれが必要無くなったんですよ。でも、僕はプロへの夢が絶たれたショックを、食べる事で発散し始めてしまったんです。社会人になってからは、営業で行く先々のグルメを楽しむようになりました。それも、一人前じゃなくて二、三人前食べるのが当たり前になっていました。その頃にはもうけっこうな肥満体で……。肥満禁止法の準備期間も、どうせ僕に合宿への招集なんて来ないと高を括っていて、ダイエットらしいダイエットはしませんでした。いつも通り食べて、いつも通り寝て、いつも通り仕事をして……。こんな僕を愛してくれる人もいなくて。だって世の中は痩せている人こそ美しく至高だという風潮ですからね。デブの僕なんて誰にも相手されないですよ。でも、ここに来たら、みんな太っていて。それでも明るく振る舞ってくれる波岡さんみたいな人もいて。それで、僕は……」


 ここまで話して、祁答院はハッとした。メンバーたちは、ニヤニヤと薄ら笑いを浮かべた顔で祁答院を見つめている。


「あ、あ、僕の恋愛の話なんてどうでもいいですよね!? すいません、喋り過ぎました!」

 

 慌てふためく祁答院に対し、佐恵子は意地悪くもツッコミを入れる。


「いえいえ、良いのよ~。アオハルの事も話してちょうだい。おばちゃんそういう話大好きなのよ~」

「そういえば佐恵子姐って韓流ドラマ好きでしたっけ……」

「未来ちゃーん。あなたがヒロインなのよ!? そんなに冷静でいて良いのかしら!?」

「えええ、わ、私がヒロインって!? だだだ、だから私はっ……!」


 祁答院に続いて慌てふためく未来だったが、片山が割って入った。


「愛だの恋だのって、この非常事態に不謹慎な……」

「ちょっ。何よ片山さん。あなたまたあたしたちに喧嘩売ろうって言うの!?」

「喧嘩なんか吹っ掛けていないさ。俺はただ客観的にそう言っているだけだ」

「この非常事態になる前に飲酒していた規則破りさんにそんな事言う権利あるかしら!?」

「なっ……! 今はそれは関係ないだろう」

「まーまーまー、ふたりとも落ち着いて!」


 この窮地を収めたのは、この会の言い出しっぺの山室だった。


「まだまだ僕らはお互いを理解していない。次は、じゃぁ片山さんにお願いしようかな? その次は越本さんって事で」

「俺か? まぁ、いいけど……」

「あたしも別に構わないわよ」


 片山と佐恵子は、まだお互いに何か言いたそうだったが、そこは大人の理性でグッと堪えた。


「じゃぁ、俺の番だな……」


 そうして、片山が話し出した。

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