23.山室和人の場合
「それじゃ、誰から話そうか……」
食事が終わり、メンバー達と白石は温かいお茶を片手に円になるように椅子に腰かけていた。
「そうだな。言い出しっぺの俺から話すとするか」
山室の問いかけに、メンバーたちは相槌を打って答える。ここからは、各々がどうして太ったか、何故痩せられなかったかの暴露大会だ。
「俺はな、新聞記者になってしばらくは社会面の記事の担当だったんだ。その頃はまだスマートでな。刑事事件の記事を主に書いていて。いっぱしにジャーナリストになったつもりだった。だがある時、俺の書いた記事の内容が誤報だった事が分かった。嵌められたわけでも何でもない、慢心から来る取材不足だ。情報提供者の言葉を鵜呑みにした俺の落ち度だったってわけだ。それで俺はクビこそ免れたものの、生活面のグルメ記事の担当として島流しにされた。そんな事を言ったら生活面に全てを懸けている記者に申し訳が立たないのは分かっているが、事件を追って社会のど真ん中を走っていた気分になっていた俺には、それは屈辱だった。でも、俺はグルメ記事で実績を挙げて、また事件担当に戻してもらう事ばかりを考えていた。だから、グルメの探求のために全国各地を食べ歩いた。一日にラーメンを十杯食う事もあったし、ケーキを一度に二十個食べる事もあった。それでいて運動らしい運動はしなかった。そうしたら、みるみる内に体重は増えて行って肥満体になった。そんな時に、国が肥満禁止法だなんて法律を作った。二年間の準備期間の間に痩せられる、と俺は思っていた。だが、グルメ記事は待ってはくれなかった。世の中の人間達は痩身をもてはやす癖に、グルメ記事にも興味を持ち続けていた。自分達は食わないのに、人が食っている記事を読むのは好まれた。自分の代わりに人に食ってもらうってやつだ。俺は早く事件記者に戻りたかった。だから、ダイエットなんて二の次でグルメ記事を書き続けた。そうしたら、準備期間なんてあっという間に過ぎ去っていった。そして、気が付けばこの合宿への招集状が俺の元に届いた。まぁ、俺の場合はそんな感じだ」
全員、山室の言葉を神妙に聞いていた。口火を切ったのは未来だった。
「山室さんって、東京中央新聞の山室さんですよね……。実は私、山室さんの記事前から楽しみにしていたんです」
「え……? 未来ちゃん山室さんの事知っていたの?」
佐恵子が仰天して未来を見つめている。
「いえ、知っていたっていうか、いつも東京中央新聞のグルメ記事に、『(山室)』って記者のお名前があったので、それを見ていて……私もスウィーツが大好きなので、いつもグルメ特集を楽しみにしていたんです」
「そうなのねー。世の中狭いのねー」
「ははは、まさかこんな所に可愛い読者さんがいたとはな」
「可愛いだなんて。照れちゃいます」
「どう? 合宿が終わったら美味しいスウィーツ屋さんを案内しようか?」
「ちょっと。山室さん、波岡さんを口説くの止めてもらっても良いですか!?」
「は!? 祁答院君急に何!? 俺は別に波岡さんを口説いちゃいないし、何で君に……って、あれ? ふたりってそういう……?」
「やぁねぇ山室さん。あなた随分鈍じゃない!?」
「ちょっと、待って下さいよ佐恵子姐! 私と祁答院さんはまだそんなんじゃないですよー!」
「……まだね……」
「な、何でみんな僕たちをそんなニヤけた顔で見るんですか?」
「良いじゃないのねぇ、若い二人なんだからぁ。もう、アオハルは見ていて照れるわね」
「だから、止めて下さいって佐恵子姐~!」
あははは、と、メンバー達から笑いがこぼれる。
「じゃぁ、俺の次はスウィーツ好きの波岡さんにお話ししてもらえるかな?」
「はい……」
そして、次は未来の番という事になった。
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