21.捜索初日③未来&祁答院
「祁答院さん、そちら側どうですか?」
「隠れている様子はないですね……」
未来と祁答院は、東と南の森を捜索する担当だった。まずは東エリアから捜索を始めたが、大嶺発見には至っていなかった。ふたりが見た所、隠れるような場所も無かった。
「とりあえず午前中は東エリアだけで終わりましたね。午後から南の方を捜索するとして、とりあえずカネばぁが作ってくれたおにぎりでも食べませんか?」
「いいですね。休憩しましょう」
未来と祁答院は、腰かけになりそうな大ぶりの石を選んで腰を下ろした。合宿所には水分としては水、お茶、無糖のコーヒーしかなかったが、今は凍らせた水が美味しいと感じていた。
「おにぎり……お米の在庫が少なくてひとり一個ですけど……」
「何せ僕たちはダイエットのためにここに来ていましたからね。炭水化物は極力少なくする方向で在庫も置かなかったんでしょうね。一個だけでも助かりますよ」
「梅干しも無くて塩むすびですけど……」
「僕はおにぎりの中では塩むすびが一番好きですよ。お米の旨さがとても感じられるでしょう?」
「ポジティブですね、祁答院さん」
未来はほのかに顔を赤らめて、祁答院を見つめた。
「こういう時、ネガティブになる事は簡単です。でも、そうしたら僕たちまで大嶺の負の感情に引きずられる事になりませんか? 僕はあんな最低の人間みたくなりたくはない。だから、どんな時でもポジティブさを失いたくはないんです」
「……素敵……」
未来の一言に、祁答院も顔を紅潮させてうつむく。
「あ、あの……波岡さんは彼氏とかいますか!?」
「えっ!? ええっ!? い、いませんけど……」
「そ、そうですか。奇遇ですね。僕も今まで彼女っていなくて……」
ふたりはお互い背中合わせになる様に恥じらっておにぎりに噛り付く。
「こんな時ですけど……私、祁答院さんって素敵だと思います……」
未来は思い切って祁答院に素直な気持ちをぶつけた。
「ぼ、ぼぼぼ、僕も……」
バサバサバサッ……!
「な、なんだ!?」
その時、何かに驚いたのか、木にとまって休んでいたウミネコの大群が空に飛び立って行った。
「何か鳥たちが驚くような動きがあったんでしょうか!?」
「何かあったのかもしれない……! 急いでおにぎりを食べて南側も捜索しましょう」
「えぇ……!」
そして未来と祁答院は、おにぎりを強引に飲み込むと、素早く南の森捜索に出発した。
「あの巨体が隠れられそうな何かはありそうですか?」
「うーん。ずっと探してるんですが、目ぼしい何かは無さそうですね」
「私もずっと見ているし、視力もいいんですけど、大きな木も無いし岩も無いですね。穴もなければ祠も無い。でもさっきのウミネコ達の様子からするに、何か動きはあったんですよね……」
「ウミネコは何に驚いたんでしょう。大嶺なのか、他の野生動物なのか……」
未来と祁答院が問答しながら捜索をしていると、横の方向から『ザザザッ』という音がした。
「何だ!? 大嶺か!?」
ふたりは警戒を強める。
「ニャー」
出て来たのは、数匹の猫だった。
「猫!? 親猫が一匹と、子猫が三匹!?」
「シャー!」
猫はふたりを警戒して臨戦態勢だ。
「猫だったんですね。この猫に襲われそうになってウミネコは飛び立ったんじゃないですか?」
「ありえますね。今もこの猫は僕達に対して威嚇をしていますし。野生の猫だから攻撃性が強いし、ウミネコを襲う事もあるのかもしれません」
「何だぁ……猫かぁ……。猫ちゃーん。怖くないよー?」
未来が数歩猫に近付くと、猫はさらに威嚇を強めて「シャー!」と鳴いている。
「仲良くはなれそうにないわ。子育てで気が立っているのね」
未来は猫に近付く事を諦める。
「普段、この子たちは何を食べているのかしら?」
「ネズミや蛇ならたくさんいそうですし、そういう獲物を捕って食べているんじゃないですかね?」
「やっぱりそうですよね。野生の猫ちゃんってたくましいな……」
「僕らは簡単に食べ物を手に入れられますからね。ここに来てからはずっとひもじい思いをしていますけど」
「ダイエットって、空腹との戦いですよね」
「今までは好き放題に食べていたからなぁ。ハンバーガーやフライドチキンが懐かしいです」
「うふふ。私もです」
「もしも、ここから無事に帰る事が出来たら……」
「え……?」
「い、いや。今はそんな事を言っている場合ではないですね。とにかく大嶺を探さないと」
「そ、そうですね。まだ見ていない場所もありますし、日が暮れる前に急ぎましょうか」
ふたりは午後の数時間を掛けて念入りに南側の森を調べたが、大嶺が隠れられそうなポイントを見付ける事は出来なかった。そして日が暮れる。
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