17.血の臭い
高遠の部屋のドアを未来が開けると、中から鼻腔を付く生臭い臭いがした。
「は、入りますよ……」
未来を先頭にメンバーたちも中に入る。ドアを開けてすぐの床にも、血の跡が点々としている。一歩を踏み出すたびに、血の量は増えていく。死臭もどんどん濃くなっていき、息をするのも苦しく感じて来る。
少しずつ、少しずつ歩を進める。未来に続いていたのは白石、その後ろに祁答院だ。他のメンバーはその後に続いている。
「「きゃぁぁぁぁ!」」
未来と白石が悲鳴を上げる。祁答院は手を口に押えて顔を背けた。他のメンバーも後に続いていたが、各々がたじろぎ、そして目を塞いで嗚咽を漏らした。
高遠はベッドの上に仰向けに寝かされていた。胸部と腹部から激しく出血した形跡がある。刺し傷は複数に渡っていて、カッと目を見開いたままで天井を見つめている。ズボンは脱がされており、太ももからは肉を削ぎ落した跡がある。
「うっ。高遠先生……」
祁答院が高遠の瞼に手をやり、目を閉じさせた。
「なんてこった……こんな事がこの合宿で起きるだなんて」
片山がハンカチで鼻を抑えながら呟く。
その時だった。
──パシャッ!
何かが光った。
「何事だ!?」
全員が後方を振り返ると、山室が一眼レフを構えて現場の写真を撮っていた。
「こんな時に写真だなんて……! 非常識だと思いませんか?」
未来はたまらず山室に食って掛かった。すると、山室は飄々とした態度でこう答えた。
「現場の写真を残す事は報道に携わる者としての使命です。私はここでの出来事を記事にする責任がある」
「責任だなんて……そんな道理があるものか!」
祁答院も山室に食って掛かる。
「ここで起きた事を、誰が正確に政府に伝えるんだ? 君か? それともそこのお嬢さんか? いや、私だ。私には報道人としてのプライドがある」
「お前のプライドなんて知るものか……!」
祁答院が山室にパンチを食らわせようとする……が。
「やめて! 高遠先生の亡骸の前で争うのはやめて!」
更紗だった。更紗は涙をボロボロと流しながら怒りの表情をしている。
「そ、そうよ。まずは無線で助けを呼ばないと……」
白石は無線機を操作しようとする。しかし。
「無線の受話器が、無い!?」
無線機の受話器は何者かによって取り外されていた。各ケーブルも、雑に切断されている。
「これじゃ送受信が出来ないじゃない……」
「これもあいつがやったのか……?」
誰もが大嶺を疑った。いや、そうであると確信していた。
「次の船が来るのは三日後よ。それまで私たちは本部と通信する事も出来ない……」
「本部からの連絡が通じなくてこちらを見に来てくれるという事は無いんですか!?」
未来がそう疑問を呈したが……。
「本部との取り決めで、こちらからの連絡は必要最低限しかしない事になっていて。合宿に集中したいから、日報みたいなものはノートに残すだけで、わざわざ連絡は取らない事になっていて……」
その場にいる誰もが絶望した。
「そうなると、一刻も早く大嶺を見付けて捕えなければ。他のメンバーに危害が及ばないとも言えないし」
祁答院が顎に手を当てて険しい表情で呟く。
「と、とりあえずここを出ましょう。作戦を立てるのはそれからよ」
未来がその場を仕切る。
白石は無線機を見てただ呆然と立ち尽くしている。顔からは血の気が引き、今にも倒れそうだった。
更紗は高遠の亡骸にそっと毛布を掛けると、一層涙を浮かべて嗚咽を漏らした。
「さ、行きましょう……」
佐恵子が更紗を支えながら、全員高遠の部屋から退出する。
「とりあえず、食堂……? は嫌だから、談話室に行きましょうか」
未来の提案に全員が承諾する。誰もが無言のまま、談話室に移動した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます