8.オリエンテーション

 食事が終わった後、参加者たちは自分の席に残る様に高遠から言われていた。このままここでオリエンテーションをするそうだ。


 全員が片付けをして席に着いたのを見て、高遠が挨拶を始める。


「それでは、ダイエット合宿第一期生のオリエンテーションを始めます。まずはトレーナーである私と白石から自己紹介をします。私は高遠伊槻たかとおいつき、医学博士です。通常は都内の大学病院で内科医として勤務しています。今回のダイエット合宿は最長で三カ月間、もしくは全員がBMI二十五以下になればその前に帰宅出来ます。まさに戦いです。皆さん、気を引き締めてダイエットに臨むようにして下さい。皆さんには本気でダイエットをして頂きます。ひとりの脱落者も出さないように、です。有事の際には私の部屋に無線機がありますから、それで本部と連絡を取りますから安心して下さい。それでは次、白石トレーナーお願いします」


 白石がポニーテールにしている美しい黒髪をたなびかせながら口を開く。


白石しらいし礼央奈れおなです。モデルをしながらパーソナルジムのトレーナーをしています。今回国主催のダイエット合宿のトレーナーを任命されて光栄に思います。皆様よろしくお願いします」


 佐恵子が未来にヒソヒソ話をする。


「モデルですってよ! 通りで美人なわけね。顔採用かしら」


 未来は苦笑してやり過ごす。高遠はそんな二人を一瞥すると険しい表情を見せた。


「それでは、次は皆様に自己紹介をして頂きます。年齢が高い順に、男性からお願いします。ちなみに、部屋割りや席順も年齢順に並んでいますので、席の端から自己紹介して頂けば大丈夫です。それでは渡会さんからお願いします」


 渡会はさも面倒くさそうに自己紹介を始めた。


渡会弥十郎わたらいやじゅうろうだ。七十一歳だ。今は定年退職して悠々自適の日々だ。見ての通り俺はじいさんだ。ダイエットなんて面倒臭ぇ。以上」


 そこからは、席の順番に自己紹介が続いていく。


片山譲治かたやまじょうじです。五十二歳で会社役員です。私が仕事に行けないと社の全員が困るのだが……。さっさと痩せて仕事に行きたいです」


山室和人やまむろかずとです。四十六歳です。東京中央新聞の記者です。グルメ記事担当の時に太ってそのままですね。皆さん、よろしくお願いしますね」


大嶺剛史おおみねつよしだ。四十三だ。こんな所来たくなかった。以上で挨拶終わり!」


祁答院けどういん優音はるとです。三十二歳です。高校時代はラグビー部でした。その時に沢山食べる癖が付いちゃってなかなか痩せられなくて……。今回は良い機会を与えて頂いたと思っています。あ、今は普通に会社員です。営業をしています。皆さん、よろしくお願いします」


 次は女性陣の自己紹介だ。


米田よねだカネ子です。私が最年長らしいですね。七十三歳でもうヨボヨボですよ。皆さん、どうかお手柔らかに……」


越本こしもと佐恵子さえこです。アラフィフの主婦です。韓流ドラマとワイドショーが大好きです! 韓国料理って美味しくてついつい食べ過ぎちゃうのよねー。美味しいものが大好きでなかなか痩せられなかったわ。今回は痩せて帰って旦那を驚かせなきゃね! 皆さん、よろしくね!」


波岡未来なみおかみらいです。二十五歳です。運動が苦手でなかなか痩せられなくて……。皆様の足手まといにならないように頑張りたいと思いますので、よろしくお願いします」


井之上更紗いのかみさらさです。二十四歳です。あの……わたしは元々百キロあって。それで自分で十五キロは落としたんですけど、そこから痩せられなくて。それで今回合宿の参加者に選ばれて……。もうひと頑張りして適正体重になりたいです。よろしくお願いします」


畠山琴はたけやまことです。十八歳で大学生です。せっかく大学に入ったばかりなのにこんな合宿に呼ばれちゃって……。初めての夏休みにこんな合宿生活だなんて残念です。良くアニメ声って言われます。よろしくお願いします……」


 一通り全員の自己紹介が終わると、白石が全員に資料を配布した。それには毎日のスケジュールや炊事当番の表が入っていた。資料を見ながら高遠が説明をする。


「お手元にある資料の通り、朝は六時起床でウォーキングから始めます。八時に食事、九時から十二時まで筋トレ。そこから一時間昼食休憩で、十三時から十六時まで有酸素運動を含む各種トレーニングをします。エアロビクスやボクササイズをします。機械を使う有酸素運動もしますのでね。十六時から十八時まで自由時間で、その間に炊事当番の方には夕飯を作って頂きます。この時に翌日の朝食と昼食の仕込みもしてしまいますので。朝食と昼食の炊事当番に関してもそちらに表があります。こちらの炊事時間は、各食事の三十分前から行いますので、よろしくお願いします。十八時から夕食で、二十一時には消灯です。お風呂は各自の部屋にシャワールームがありますから、お好きなタイミングでどうぞ。以上ですが、何か質問はありますか?」


 参加者たちは一様に下を向いて黙っている。その沈黙を、白石が破る。


「皆さん、皆さんにはもっと積極的になっていただかないと困ります。ダイエットは自分との戦いです。何もしなければあなたたちは一生肥満体のままです。己から行動する事で、未来も変わります」

 

 高遠がひとりで拍手を送る。


「そうです。皆さん、もっと真剣にダイエットに向き合って下さい。必ず皆さん痩せて帰るように。これから館内の案内をします。皆さんは私と白石に付いて来て下さい」


 そして、次は館内を見学する事になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る