5.到着
一行が合宿所に着いたのは昼過ぎの事だった。大嶺を引き出して連れて来た時間のロスで、到着は三時間ほど遅れていた。
「あー、お腹が空いたわねぇ。八時集合だったでしょう? うち埠頭まで二時間あったから朝ご飯早く食べて来たのよねぇ」
佐恵子が大きな声で空腹を訴える。それに対して白石が答える。
「まずは部屋の割り振りを発表します。食事に関しては、明日からは参加者の皆様の持ち回り制で作って頂きます。今日は特別に私と高遠で担当いたします」
参加者がどよめく。特に困惑していたのは男性陣だった。
「ちょっと待って下さいよ。私、調理なんてした事ないですよ」
口火を切ったのは片山だった。
「これだけ女性陣がいるんだ。女性陣にお願いできませんかね?」
「ちょっと待ちなさいよあんた。女のメンバーだけに家事を押し付けようって事?」
佐恵子が反論する。
「だって、元々炊事は女の仕事だろう?」
「いつの時代の考えよそれ。あんた今何時代だと思ってるの? そんな考え方、昭和の時代に絶滅したわよ。あんたとんだ骨董品ね!」
「なんだと!? 男が仕事をして稼ぎ、女が家を守るって考え方の何が悪い!?」
「マジであんた昭和の骨董品ね! そんなんじゃモテないでしょう!? 奥さん可哀そうに!」
高遠が二人を制止する。
「争いはやめてください。これから皆さんには平等に炊事洗濯掃除を分担して頂きます。それらも全てダイエットの一環です」
「それは俺ら年寄りもやるって事だよな?」
渡会が確認する。
「もちろんです。年齢性別は関係ありません。皆さんは平等で対等です」
「あいよ。やりゃぁいいんだろ」
渡会は思いのほかあっさりと了承をした。続いて白石が部屋割りを発表していく。
「それでは、部屋割りを発表します。女性は三階、男性は二階です。部屋は個室です。各々の部屋の行き来は推奨しません。特に、異性のエリアには立ち入らないように。間違いなどありませんようにお願いします」
二〇一号室:高遠
二〇二号室:渡会
二〇三号室:片山譲治
二〇五号室:山室
二〇六号室:大嶺剛史
二〇七号室:祁答院優音
三〇一号室:白石礼央奈
三〇二号室:米田カネ子
三〇三号室:越本佐恵子
三〇五号室:波岡未来
三〇六号室:井之上更紗
三〇七号室:畠山琴
部屋割りの発表が終わると、白石は言葉を続けた。
「一時間後に食堂で軽食をお出しします。その後は初日のオリエンテーションです。時間厳守でよろしくお願いします」
参加者一行はそれぞれ割り振られた部屋に重い荷物を引きずりながら散って行った。
「未来ちゃーん、お部屋隣同士ね。よろしくね!」
佐恵子が未来の肩を叩きながら茶目っ気たっぷりに微笑む。
「佐恵子さんが隣でちょっと心強いです。他の参加者の人たちとも仲良くなれるかな……」
「未来ちゃんなら大丈夫よー。だってこんなに可愛いんだもの。自分の部屋に行く時に必ずトレーナーの部屋の前を通らなきゃいけないのって監視されているみたいだけどもね」
「あはは。監視……はされていないでしょうけど……」
未来はぐるりと天井を見回す。どうやら監視カメラの類は設置されていないようだ。
「監視カメラ、無いんですね。なんかこう、もっと監視されてるのかと思ってました」
「どうせ一日中ダイエットの訓練ばかりさせられるんでしょう? みんな集まったままだし、そこは監視カメラなんて必要ないって判断したんじゃない?」
「そう……なんでしょうか……」
未来の心が不意にざわめく。
「じゃ、あと五十五分後に食堂でね!」
「あ、はい……」
そう言って、未来と佐恵子はそれぞれの部屋に入って行った。
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