3.集合
大嶺剛史を乗せた車が埠頭に到着した時には、他の参加者が集合してから二時間が経過していた。
大嶺はプロのSPである引き出し屋に連れられて、待ち合わせの小屋の中に入って来た。集まった参加者全員の視線が大嶺に注がれた。
「ったく、待たせやがってよー」
渡会が毒づく。
「もう我々が到着して二時間ですよ。大分スケジュールが狂ったんじゃないですかね?」
そう、眼鏡をくいっと上げながら淡々と非難めいた言葉を口にするのは、一見してサラリーマン風の男、年齢は大体五十代だろうと見える
「まぁまぁ皆さん。これから寝食を共にする仲間なんですから、ここは穏便に行きましょうよ」
場をまとめたのは、まだ三十代そこそこに見える、屈強だが太っている男、
引き出し屋に背中を突き飛ばされる形で入って来た大嶺は、悪びれもせずこう言い放った。
「……何の疑問も持たずに呑気に集合してる、国家の犬共めが……」
それにいち早く反応したのはやはり渡会だった。
「何だと小僧! 誰が国家の犬だバカ野郎! お前、これだけ遅刻して来ておいて謝罪のひとつもねぇのかこのクソガキが!」
今にも大嶺に殴りかかりそうな渡会を、祁答院が制止する。
「まぁまぁまぁ、それだけ来たくなかったって事なんですよ多分。ね! 渡会さんもそこのお兄さんも落ち着いて! ね! 穏便に行きましょうよ!」
「誰がお兄さんだ! 俺の名前は大嶺剛史だ!」
「あ、すいません。大嶺さんって言うんですね。僕は祁答院優音って言います。よろしくお願いしますね」
この時、女性陣は一歩引いて事の成り行きを見ていた。
「やぁねぇ。最後に来た人、何だか癖が強そう」
佐恵子がヒソヒソ声で未来にそう話す。
「え、ええ……ちょっと怖そうですね。でも、祁答院さんって勇敢ですね……」
「あらやだ。未来ちゃんったらもうフォーリンラブ?」
「やだー。そんなんじゃないですよ~!」
事の成り行きを黙って見ていた男性陣の残りひとりが口を開く。
「とにかく、これで全員揃ったわけだ。ねぇ、先生?」
遠目に参加者たちを観察していたインストラクター二人に問いかけた。高藤が答える。
「そうですね、
「あ……あの……」
出発の号令に、恐る恐る手を上げて口を開いたのは、栗色のふわりとしたウェーブがかかったロングヘア美しい女性だった。未来とそう年は変わらないように見える。
「わ、わたし、ちょっとおトイレに……」
「あ、ボクも行きたいです……」
続いて手を挙げたのは、この中では最年少に見える、顔にあどけなさが残るショートボブの女性だった。
「
「「ありがとうございます!」」
そう言うと、更紗と琴は連れ立って手洗い所に行った。
「かーっ。随分のんびりしたふたりだな! 今から先が思いやられるよ」
渡会がまたもや毒づく。
「仕方ありませんよ。この雰囲気、気軽にトイレに行きたいと言い出せるものではありませんから」
祁答院がすかさずフォローを入れる。
「おばあちゃん、おばあちゃんはおトイレ大丈夫ですか?」
祁答院がカネ子にそう問う。
「ああ? トイレー? ああ、まだ大丈夫ですよ」
「ったく、こんなばあさんも一緒で合宿どうなるって言うんだよ」
「ああ? なんだってー? 私とあんたはそんなに年が変わらないと思うけどねぇ!」
「嘘だろ? 俺は七十一歳だが、ばあさんいくつだよ?」
「ああ? 私は七十三歳だよー!」
「たまげたもんだ。七十三でそんなに耳が遠くて半ボケかよ。参ったな」
渡会とカネ子がやり取りしている間に、琴と更紗が戻って来た。白石がパンパンと手を叩いて視線を集める。
「それでは皆様、船にお乗り下さい。ここから矯正島まではおよそ一時間半です」
参加者たちは皆一様に大きな荷物を抱えて船に乗り込む。大嶺は引き出し屋に連れて来られたが、荷物は母親があらかじめまとめていた物を男達に渡してあった。
「ぜってー逃げてやる……」
大嶺はブツブツと独り言を言っている。
先頭に白石、最後尾に高遠が付いて参加者たちは全員船に乗り込んだ。
「いよいよ始まるのねぇ」
佐恵子が興奮を隠せない様子で呟く。すると、未来が答える。
「どうなる事か私は不安です……」
「だいじょーぶよー。愛しの祁答院君が守ってくれるから!」
「だから! そんなんじゃないですって!」
「あはは。冗談よー」
参加者たちを乗せた船は出向する。およそ二時間半スケジュールは押していた。
そして参加者たちも、インストラクターのふたりも予期していなかった悲劇が起きる矯正島へと、船は進んで行った。
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