肥満禁止法
無雲律人
プロローグ
肥満は悪なのだろうか。
肥満は国民の健康状態を悪化させ、身体を蝕み、結果として健康保険を逼迫させ国に甚大なる負担をもたらすものとして、時の総理大臣である
肥満禁止法においては、BMI二十五以上の者を要観察とし、BMI三十以上かつ十八歳以上で健康状態に大きな問題の無い者を、国の定めるトレーナーの管轄下でのダイエット合宿に参加する事を強制とする罰則が与えられる。なお、法律の施行から二年間を準備期間として猶予を与えるものとする。
なお、政府が国民の体重、つまりBMIを管理する事において、国は全年代への年に一度の健康診断を義務化した。未就学児は医療機関で、学生は学校で、会社員は会社で、その他は医療機関で無料でそれを受ける事が出来た。なお、行かない者については、再三再四に渡る催促状が送られた。それでも行かない者には、罰金が科せられた。
肥満禁止法においては、如何なる職業についても免除は無い。よって、太る事が美徳とされてきた相撲や、筋骨隆々であるラグビーや柔道においても免除は無い。
野党はこの法律を「ナンセンスだ」と糾弾したが、圧倒的多数の与党の前では膝を折るしかなかった。
国民の真意を問う意味で、法律を施行して一年後に解散総選挙が行われたが、痩せ信仰が世に蔓延していた日本においては、与党の圧倒的勝利に終わり、道祖土幹孝は総理大臣を続投する事になった。
野党は「肥満の人間に大切なのは強制的なダイエットではなく地道な健康指導だ」と大々的なキャンペーンを打っていたが、力及ばず、惨敗という結果になった。
それほどに、肥満は世の中で問題視され、悪とされていた。テレビや雑誌、インターネットで活躍する人間は、揃って皆痩身だった。デブタレ枠というものは姿を消し、痩身こそが美しく健康の象徴だという風潮が世を支配していた。
そして、法律を施行して二年が経ち、日本国内においてBMI三十以上の肥満体人口は三千人にまで減少していた。そしていよいよ、BMI三十以上の人間を強制的にダイエット合宿に参加させる第一陣のメンバーである十名の元に招集状が届いた。なお、期日に所定の場所に来なかった場合は、政府から派遣された人間が総力を挙げて本人を探し出し、合宿に連行する算段が取られていた。
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