題：Chatter(チャッター): 「頭の中のひとりごと」をコントロールし、最良の行動を導くための26の方法

著：イーサン・クロス

訳：鬼澤忍

刊行：２０２２年

出版：東洋経済新報社

・概要

　自分自身の内なる声──チャッターとの向き合い方について述べた本。

・読書メーターに上げた感想

　チャッター（頭の中のひとりごと）は失敗から学ぶために人間が進化の中で獲得した重要な機能である。しかしながら現代人は僕たちはこのチャッターに絶えず悩まされている。頭の中のひとりごとがネガティブな気分を誘発するのだ。僕もかなりこのチャッターに苦しめられてきた。本書では様々なチャッターへの対処を紹介している。特に有用なのが頭の中の人称を切り替えること。『私』という一人称から離れ、『あなた』、『ハイちん』と言った二人称、三人称で自分自身に話しかけることで、チャッターから適切な距離を置くことができるらしい。

・記（カクヨムのみ）

　小学校のころ、先生のひとりが自己紹介のときに『僕は頭の中で喋ることができないので、喋れる人はすごいと思う』と言った。僕はそれを聞いて驚いた。頭の中で喋れない人がいることが信じられなかった。

　僕にとって頭の中の声──チャッターは意識が覚醒している間、絶えず鳴り響いているものだったからだ。

　この声こそ思考であり意識だと思っていた。──あるいは精神であり魂だと。そう認識していたのだが、先生の言葉はその前提を崩すものだった。

　確かめることはできないのだが、僕は頭の中の声が強い方だと思う。考えすぎるというかスポーツ（球技）とか苦手だし、メンタルも異常に弱い。嫌なことがあるとえんえんと考えてしまうため、常にネガティブな気分でおり、自分だけでなく周りの人まで不快にしていたように思う。常に緊張しており不安を感じている。前の職場では常時パニック発作のような状態になっていた。こんな感じなので社会にぜんぜん適合できませんでした。頭の中の声は常に僕を悩ませていた。

　そんな僕にとっては、この本の内容はまさに目からウロコでした。内なる声に悩んでいるとき＝心の声にズームインしすぎている状態とこの本では言っていて、声から解放されるためにはズームアウトをする必要があります。僕はこのズームアウトをする方法がまったくわからずにいたのですが、この本にそのやり方が書いてありました。

　内なる声からズームアウトするには心の声の人称を『わたし』から『わらわら』に変更すればいい。

　また失敗してしまった。私はダメな人間だ。

　が、　

　また失敗したのか。わらわらはダメな人間だな。

　となる。すると不思議と『本当にそうか？』という思いが沸く。『失敗はしたけれどうまくできたところもあったのではないか』と良かったところを探す気力がわいてくる気がする。人間は基本的には。他人には良くしてあげたい、何かしてあげられることはないのかなと思うものらしい。人称を『わらわら』に変更することで、僕は僕自身に『良くしてあげたい』、『何かをしてあげたい』と考えた。

　人称を変更することで自分自身のことが他人事にできた。人称を変えたことで僕自身のことをやや後ろから見つめる視点を手に入れることができた。これがズームアウトの効能ということらしい。多分僕はこれから先も心の声に悩まされると思う。そのたびにこのズームアウトのことを思い出して実践したい。

　ズームアウト以外にも、有用そうなライフハックがいくつかあった。全部紹介することはしないが、特に面白かったものを３つ書いておく。

①嫌な体験をみんなと共有するとストレス解消になると思われがちだが、実は逆にストレスは高まる。嫌なことを誰かに話すたびに嫌な体験を思い出すため。またそれをみんなでやると『共同反芻』という作用が働き、ストレスはむしろ増える。

②自然の風景にはチャッターを抑える効果がある。写真でも効果がある。デスクに写真を貼っておくだけでもいい。

③プラセボ効果（ニセの薬でも効果があると信じて服用すると実際に症状が改善する効果のこと）の恩恵を得るには騙される必要があるといままでされてきた。しかし最新の研究で、薬がニセなのはわかっていても、プラセボ効果について学び理解した上で、ニセ薬にも効果があると『信じる』ことができればプラセボ効果の恩恵を受けることができる！！　同様に『おまじない』『お守り』『儀式』の類も効果があると信じることができれば効果がある。内なる声の力をポジティブに変換するテクニック！

　もっと早く出会えていれば人生違ったのかなって思う感じの本でした。内なる声に悩んでいる人（自虐傾向が強い人、自意識過剰でパニックになる人）にはお勧めです。