第21話 【映画】花束みたいな恋をした

※後半、仕事に関するちょっと殺意が高めの文章を書いてしまってます。苦手な人はあらすじだけ読んでブラバ推奨です……



・脚本:坂元裕二(東京ラブストーリー、いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう、カルテット、世界の中心で愛を叫ぶ) 

・監督:土井裕秦(罪の声、今会いに行きます、ビリギャル、カルテット)

・主演:菅田将暉・有村架純


・配信:Netflix

・回数:3回(はじめは映画館で見て、配信で2回みた)

・追記:この記録を書くにあたっては劇場パンフレットを参考にしています 


・キャッチコピー(劇場パンフレットより):


『あの歌もあの道もあの味もぜんぶ覚えてるよ』

 

『東京・明大前駅で終電を逃し、偶然に出会った21歳の麦と絹。バイト、同棲、就活。いつでもふたりで一緒にいた20代のぜんぶが、ずっと楽しかった』


↑過去形なのが寂しいけれど、楽しかった二人の想いが伝わってくるキャッチコピーだと思います(僕の感想です)



・あらすじ(劇場パンフレットより)

 東京・京王線の明大前駅で終電を逃したことから、偶然に出会った大学生の山根麦やまねむぎ(菅田将暉)と八谷絹はちやきぬ(有村架純)。その夜からはじまる、ふたりの恋の5年間の行方を、坂元による唯一無二のセンスで紡いでいく本作。恋をしたとたん日常が突然に輝き出した麦と絹。このままふたりでずっと一緒にいたいと何度も思いながら、いくつもの季節をともにすごしていく。ふたりの物語は、私たち誰もが思い出す“恋する月日のすべて”を描いていきます。

 好きな音楽や映画が驚くほど同じで、あっという間に恋に落ちた麦と絹は、大学を卒業してフリーターをしながら同棲をはじめる。拾った猫に名前をつけて、渋谷パルコが閉店しても、「SMAP×SMAP」が最終回を迎えても、ふたりの目標は日々の現状維持。とはいえ、現実を前に就職活動をはじめることになるふたり。就職したからもっとたくさん楽しい時間を過ごせるはずだと思っていたけれど、なぜか気持ちが少しずつすれ違っていって――。

 猛スピードで加速する恋の、忘れられない“最高の5年間”を描く、2021年ラブストーリー決定版!





・記(ここから僕が書きます……借り物の文章で800文字も埋めてしまった)


 オタクとしては趣味が完全一致している異性との恋愛には憧れはある。ただ自分にめんどくさいこだわりがあるように、相手にもめんどくさいこだわりがあるんだろうと思うと、いつ地雷を踏むかわからないので、それはそれで大変そうかも。


 まあそれはいいとして。


 この映画には、自分らしくいられることの喜びを描くと同時に、社会に適応することと自分を通すということが矛盾している苦しみを描いていると思う。


 さて先日読んだ新書『なぜ働いていると本が読めなくなるのか(著:三宅香帆)』でこの映画に関する興味深い考察があり、もう一回見てみようかと思い3回目の視聴となった。

 三宅氏の著作では、麦(菅田将暉)のセリフ「息抜きになんないんだよ。パズドラしかやる気しないの」に着目していた。好きなマンガや読書、映画が驚くほど一緒だった麦と絹(有村架純)だったが、流通会社に就職して以来、麦は読書ができなくなっていたのだ。そのことが二人にすれ違いを生み、別れにつながっていくのだが……


 僕もここ2、3年仕事が忙しくなっていた。僕は成績は良いのだが要領が悪いところがあり気も弱いので悪意ある者に疎まれやすく攻撃も受けやすい。結果的に上司に指導と称したパワハラを受け続け、そのせいでミスが増え、記憶力も悪くなって、自分が自分でないようなさんざんな仕事ぶりだった。すっかり希望を失って、両親が死ぬまではなんとか生きるけど、旅立ちを看取ったら自殺しようっと! どこで死のうかな~山奥で安楽死みたいなのが人に迷惑かけんかな……みたいなことを本気で考えていた。


 そんな精神状態だったのでゲームも読書も勉強もやる気が起きなかった。趣味だったランニングもやる気が起きなかったので当然太った。そんなときふと小説書いてみよう……と思い立った。なんでかわからないけど仕事へのネガティブ感情が創作に向いたのだ。10年くらい書いていなかったのだが一心不乱に書いた。小説の執筆だけが生きる希望みたいな感じだった。創作はとても難しかったがなんとか完結までこぎつけた。あんまり反応はもらえなかったが、読者の中には面白かったと言ってくれる人もいた。涙が出るほどうれしかった。


 後にこの小説はネットの隅っこでなんか賞を受賞して少額ながら賞金がもらえた。自分のネガティブ感情が認めてもらえたようで、ずいぶん救われた。


 めちゃくちゃ脱線した。


 さて花束みたいな恋をしたの話にもどるが、今回の視聴では絹ちゃんが「本読んだらいいじゃん!」の言葉に麦君の「頭入らないの! パズドラしかやる気がしないの!」と返すのだが、そのセリフに「ああ~わかる~仕事すると本読めなくなるよね~」となってしまった。正常なメンタルじゃないと本は読めないのだ。ストレスが過多になると活力が奪われ、余暇を楽しむ余裕はなくなり生きる希望は失われるのだ。


 だから仕事が合うか会わないかは、余暇に読書ができるかどうかを指標にするといいと思う。読書ができなくなっていたら、たぶん仕事があっていないんだ。配置転換を希望するなり、辞めるなり、医者や労基に相談するなりした方がいいと思う。


 僕の場合は、仕事を辞めるという選択をした。小さな会社なので部署替えとか無理なので。辞めると伝えてからはみるみる元気が戻ってきた。趣味のランニングを再開した(ただ太ったのとデスクワークが続いたせいで筋力が落ちてしまった。1キロも走ると足が痛くなるので、現在はウォーキングに切り替えている。体重を落としたら走れるようになるといいな)それから、まだまだペースは遅いが読書もぼちぼちできるようになってきた。


 ちなみにこの映画の麦は読書ができないメンタルのまま仕事を続けている……彼のメンタルが心配ではある。ただ世の中の正社員はみんな麦みたいにパズドラだけを楽しみに生きているのかもしれない。僕もこのまま仕事を続けていたらそうなっていたと思う。小説を書いたことで変な自我が目覚めてしまったんだろうなあ。いいのか悪いのか。まあ“僕”という自我が残ったという意味ではよかったんだと思う。“僕”さえ残っていれば小説だってまたきっと書ける。小説を書くとは僕という人間を表現し我を通す営みにきっと近い。


 仕事を辞めることを決めた僕だが、そうなると転職活動をしなくてはならない。貯金も割とあるし資産運用もしているので少しくらいの離職であればどうにかなりそうだが果たしてどうなるか。幸いなことに他の職場から仕事にお誘いいただいていたのもあり(職場には内緒にしていた)、次の就職先はすぐに決まった。パワハラで自信を無くしていたのだが、履歴書を書いてみると資格欄が書ききれないくらい資格を持っていた。資格手当がつくでもないカスみたいな資格だが履歴書のにぎやかしにはなる。上司には無駄な努力打のなんだのいわれたが、取得しておいてよかったなと思った。僕が思っていたよりも僕はすごいのかもしれなかった。


 仕事は一生懸命やる必要があるが一生懸命過ぎてもダメだと思う。パワハラ上司やお客さんのご機嫌取りみたいな態度を強要されて生きるのはつらすぎる。ただ僕はやめてしまったけど、世間ではみんなそれに耐えてるんだもんな……みんなつらい生活をしてまでやりたいことがあるんかな……夢があるんかな……夢がなくても家族のために耐えないといけないのかな……子供のころ父が毎日酒を飲んで帰ってくる気持ちがわからなかったが、今では酒を飲みたくなる気持ちがわかる(僕は下戸なので飲めないのだが)。


 たぶん麦も絹との“現状維持”のために変わろうとしたんだろうけど。変わってしまったことで現状維持ができなくなったのは皮肉な話だ。現実の壁の前にキラキラしたふたりの日常が淀み止まってしまった。人は変わるし関係性も変わる。


 悲しいけど、時間は戻らないから、前に進むしかない。


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