ラグーンを探せ 2

 「いてて」

引きずり込まれた先は、広い洞窟のような場所だった。

「……ここは?」

岩に囲まれた暗い洞窟の中に、ぽつんと家があった。なぜだがその家のまわりだけは不思議と明るかった。家とそのまわりの庭の部分だけ地上から切り取られたみたいに光が降りそそいでいた。庭の芝生の上にはニワトリが小さく跳ねまわったり、牛が横たわっている姿か見えた。

 一体ここはなんなんだ。必死に状況を整理しようと考えていると、家の扉が開いた。

 「どうやってここへ来た?」

 中から現れたのは、白髪に白い髭が床につくくらいまで伸びたお爺さんだった。険しい表情で手にもった大きな杖をこちらへ向けている。

 あきらかに警戒されているみたいだ。

「俺はトム。トム・ハッチと言います。」

 敵意がないことをアピールしようと笑顔で返した。次の瞬間、顔のとなりを熱の塊がかすめて行った。

「どうやってここへ来た?」

 俺がことの経緯を一通り説明し終えると、彼は杖をおろしてくれた。

「私はアルベルト。入りたまえ。詳しい話は中で聞かせてくれ」

 笑顔は通じなかったが、話は通じるみたいでたすかった。

部屋の中はほどほどの広さで目立った家具はテーブルに椅子が二つだけしかなかった。じいちゃんと住んでいた頃の家を思い出した。

 椅子に掛けると、ティーカップをもってきて紅茶を注いでくれた。あたたかい湯気とともにいい香りがした。

「どうしてここに来られたか、もう一度説明してくれないか?」

俺は前後もあわせて、ここに落ちてきた経緯を説明した。

村を出て王都へ向かおうとしていること。旅の途中で岩の裏に変わった影を見つけたこと。その中に手を入れたら誰かに引っ張られたこと。

「結界の制約が解けたのか…しかしどの条件が……」

アルベルトは一人でぶつぶつと何かを確認していた。その姿は、すこし怯えているようにもみえた。そして何かに気づいたようにハッとして俺の顔をまじまじと見た。

「君、もう一度名前をきかせてくれないか?」

もしかしたらアルベルトはボケてきているのかもしれない。

ここに来た経緯も二度説明したのに、名前までもう一度説明することになった。

「トム・ハッチです」

「……ハッチ。そうか、だからか」

彼は何度もうなずきながら俺の名前をつぶやいた。そして目の中の光が鋭くなって、前に乗り出すようにして俺に尋ねた。

「ライオネルはどうしている?元気か?」

「……おじいちゃんは、その、死んでしまいました」

その言葉をきいた彼はしぼんでしまったみたいに、椅子に座りこんだ。先程よりひとまわりほど小さくなってみえた。

「そうか、ライオネルは死んでしまったか」

「はい」

沈黙がながれた。この家の中は死んでしまったのかと思うくらい静かだった。

「すこし昔話をしよう。君のおじいさん、ライオネル・ハッチの話を」

 アルベルトは顔をあげた。じいちゃんの話。そういえば、俺は昔のじいちゃんのことを何にも知らない。どんなふうに生きて、何をしてきたのか。知りたいとおもった。いや、知らなくちゃいけない気がした。

 アルベルトは一つ咳ばらいをして、こちらを覗いた。

「ぜひ、聞かせてください」

 俺は姿勢をただして、アルベルトの言葉をまった。








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