はじまり
「どこからでも打ち込んできなさい」
ソルティアさんは両腕をひろげたままの姿勢で道に立ち塞がっている。
俺は強く握った棒をおもいきり振りかざした。パァン、と乾いた音がした。ソルティアさんの左腕に鋭い一閃を打ちこんだ。これ以上ないほどの手ごたえもあった。
「はっはっはっは」
けれどソルティアさんは笑っていた。まったく効いていないみたいだった。信じられない。そのあとも何度も何度も打ち込んだ。打ち込むたびにソルティアさんは笑った。笑われるたびに更に力を込めた。そしてとうとう何十回も何百回も打ち込みを繰り返すうちに棒の方が折れてしまった。
「くそっ……」
無駄だった。俺が5年間かけてやってきたことは何の意味もなかった。
「フローライト、その歳にしてはなかなかだ」
「え?」
「力だけなら君は10レベルのうち4ってとこだ。七つの街にいくなら最低でもすべての能力をオパール級にしておきなさい」
フローライト?オパール?いったい何の話をしてるんだ。いや、そんなことよりも、
「なんでソルティアさんが七つの街のことを……」
彼は唇の前に人差し指をたてた。
「君はこの村を出ていく資格がある。ラグーンを探しなさい。ラグーンが君に力を与えてくれる」
山の向こうから朝陽がのぼるのがみえた。眩しい。太陽の光におもわず目を伏せた。目を開けたときには、ソルティアさんはいなくなっていた。
沢山の疑問だけが後に残った。
一度家まで戻って、ソルティアさんに詳しく話を聞こうかと思った。聞きたいことは山ほどある。それにサマにもちゃんとお別れを言っていない。
けれど俺は振り返らず村を出ることにした。今戻ったら、いけない気がした。ラグーンが一体何なのかは分からないが探すしかないとおもった。じいちゃんが亡くなってから5年がたって、ようやく村からでた。時間がかかりすぎだ。先が思いやられる。
それでもその日、俺ははじめて目に見える形でじいちゃんとの約束に一歩近づいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます