ある日、いつものようにソルティアさんが眠ったころを見計らって、俺は準備をはじめた。ソルティアさんは、隣の部屋の俺のところまで聞こえるほど激しいイビキをたてるので寝たらすぐにわかる。はじめにこの家に来たとき、地震かと思ってよく飛び起きたものだ。今では慣れて眠れるようにはなったが、高い頻度で像が大行進する夢をみるようになった。ソルティアさんと同じ部屋で寝ているサマはきっと将来大物になるだろう。

 最低限の荷物をもって、音をたてないように注意しながらそっと窓から出て裏庭をぬけて道へ出る。この先をまっすぐに行けば村の出口がある。家の外までソルティアさんの破壊的なイビキは聞こえていた。ぐっすり眠っているみたいだ。気がつかれた様子はない。

 俺は走って村の出口を目指した。そう、ここまではいつも上手くいく。後ろを振り返る。誰もついてきていない。今日こそは成功だ、そう思って前をむいたとき、目の前にはやはりソルティアさんが立ち塞がっていた。

「やあ、トム少年。今日も早いね」

「毎回思うけど、いつの間にあらわれたんだ」

「私はずっといたよ。ここにね」

そういって、ソルティアさんは村の出口にある石像を指さした。勇敢そうな男の人が象られた等身大のものだ。だが石像がなんだというのだ。その影に隠れていたでもいうのだろうか。だが、それはありえない。ここまでは見晴らしのいい一本道で、ソルティアさんは俺が外に出たときには家にいた。おれを追い抜いて行ったなら必ず分かるはずだ。

 やめよう。考えすぎるのは俺の悪い癖だ。ソルティアさんの言葉を考えすぎはいけない。話が通じないのはいつものことだ。そして、見つかったおれが諦めて家に帰るのもいつものことだった。

 だが今日は違う。おれは荷物のなかから棍棒を取り出してかまえた。

「ほう、闘う男の目だね」

「今日はここを超えさせてもらう」

ソルティアさんも、両腕をひろげて鳥のはばたきのようなポーズをとった。とても強そうには見えないが、それでも筋肉でできた大きな壁は想像以上の圧力があった。


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